深淵と天上
(えっ?)
『な~に簡単な質問だよ。そうそう。君は答えてはいけないよ。
何なら、この子と概念を入れ替えてあげるからね。』
<そうかい。邪魔はしないよ。力を得るのに試すのは大切なことだ。>
『ふふっ。君はやはり最も、正しい可能性なのかもしれないね。
では始めるよ。『自由』とは何だい?』
(自由?えっ?何ににも縛られないことかな。)
『うん。うん。いい答えだ。では続いて。
『力を持つもの』はどんな制限を受けると思う?』
(力にふさわしい行動と責任かな?)
『うん。うん。これもまた私が求める答えだ。
じゃあ次だ。『力を持つものに自由はあるかい?』』
(えっ?無いよね?力を持たなくてもこの世界に自由はないよ。
時間、他者、法、そういったものが自分に制限をかける。
だから、自由はないよ。)
『ふふふ。いいね。いいよ!君は今まで、質問した私の中で、
一番良い答えを持っている。じゃあ、これが最後。
私はいつもミスをする。そのミスをなくすには。』
(う~ん。力の段階によって、許可をもらうっていうのは。
秋姉や信兄、六花あたりから。そうすれば、人は簡単には死なないし、
世界も簡単には壊れない。
それが、大きな力を扱う制限と責任の分担じゃないかな?)
『あ~。思いがけない答えだ。そうだ。そうだよ。
一人でないんでもやろうとするから、苦しかったんだ。
身内。特に分かれし魂とともに考えれば良かったんだ。
自由を求めるがために、もっとも大切なことを忘れていたよ。
ふふふ。君なら確かに僕を使えそうだ。
許可をもらうシステムを譲渡と同時に組み込もう。
それぐらいはさせてくれ。今まで、間違え続けた自分への贖罪だから。』
<覚悟はできたのかよ。>
『ああ。此度の『僕たち』は最良の可能性かもしれない。
今度こそ、次代の管理者と黄金の木の実が生まれることを
祈らずにいられないほどに。さて、始めよう。
ここからが初まり。さぁ、お手をどうぞ。』
そう、自分にそっくりの黒子のような存在が差出た手に、自らの右手を乗せる。
すると、黒い泡のようなものになり、流治に溶けていった、
『僕もここから見させてもらうよ。僕たちの可能性を・・・。』
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ーカツンッ。カツンッ。ー
「誰?」
そういって振り向いた六花は、一面が白い部屋にいた。
ーカツンッ。カツンッ。ー
「誰なの?」
再度確認をするが、音が近づくだけで、人影が確認できない。
ただ、恐怖はなく、ただただ、その音が懐かしく感じた。
足跡がすぐそばまでくると、なんとなく、自分にそっくりな、
何かを感じることができた。
「わた、し?」
<そうあなたが流治の封印に使ったあなた。『有』よ。>
「ゆ、う?」
<そう、ね。あなたは記憶を死んでも見ることができるのに、
最近は見れていなかったんではなくて?>
「それは。」
<流の記憶を封印したことも忘れていた。そして、未来も一部が見れない?
違う?>
「そうよ。」
<それは本来の力を流治の『無』の封印に使っていたから。
小一の時、馬鹿な父親のせいで、緩んだ力は一度解き放たれたが、
そのまま開放されるわけではなく、小さくなり、私とともに封印された。>
「え?」
<誰が筋書きを描いたのかは知らないけど、『無』は流治と一体化せず、
再度魂の奥に私とともに消えた。
でも、この間あなたが『創造』を流治の補助で使ったとき、
『無』は表層に私とともに現れ、ついさっき、流治と一体化した。
それも別の封印とともに。>
「何をいって・・・?」
<単純にいれば、私がいなくとも流治は『無』の力を使えるようになったから、
『有』の私はお役御免になり、あなたの元へ戻ってきたって訳。>
「それはエンデというやつのせい?」
<半分はそうかもしれないけど、もう半分は『無』が望んでいるから。
でしょうね。>
「それであなたは私の元に戻ってなにをするの?」
<それはまた、あなたとともに未来を生きたいのよ。>
「それは・・・。」
<大丈夫。邪魔はしないわ。また、あなたに戻るだけ。今のまま変わらずにね。
だから、この手を取ってくれない。また一緒に生きましょう。>
そういわれ差し出された左手の上に六花は戸惑いながらも左手をのせた。
<ありがとう。>
光の泡のようなものが自分に入り込むのを感じつつ、
六花は『有』を失う前の自分の記憶を垣間見た。
そこでは、力の使い方に苦しむ流治の過去が見えた。
(ああ。流治。今後こそ、一人で苦しませはしないわ。)




