01:プロローグ
紅「私たちの話が小説になるそうですよ。」
信「また。あいつは。」
紅「どうやら、第一章は私たちが主役のようです。」
信「そいつは、重畳。」
薄紅色の満月が広い日本庭園を照らしている。
その庭園の中央に真っ黒な球体が
脈動するようにその大きさを変えようとしていた。
その周囲に12個の様々な武器が取り囲み、
それぞれに男女が浮かぶように乗り、
手の平を球体に向けて、何かに耐えるように苦悶の表情を浮かべている。
その少し離れたところで30代ぐらいの男女とその子供であろうか、
男の子と女の子がいる。
父親と思われる男は後悔の表情を浮かべ両手両膝をつき、
母親は口を両手で抑えて悲しみと驚愕をこらえている。
娘と思われる女の子は目の前の黒の球体をまっすぐに見据えながら、
隣で父親をにらみつけている兄と思われる男の子に話かけた。
「信兄どうするの。私の聖具ももうすぐ限界が来ちゃう。
お兄の式神だって、もう・・・」
「わかってる。この腐った性根の父親が
7年間も大事な息子を虐げた結果がこれだ。
今まで見聞きしたことをフルに巡らせて考えているが、
あんなすべてを消し去るものに対して、有効的な手段なんて・・・」
ーパキンー
ーパリンー
女の子が聖具と呼んだ武具にひびが入る。
「「あっ。」」
武具が少女に語りかける。
<すみません。姫さま私たちではここまでのようです。>
「そんなこと言わないで、今、力を注いで、回復をするから待ってて。」
<そんことをすれば、姫の御身に触ります。おやめください>
「でも。」
<私たちは分魂で作られた、所詮偽物の存在>
<姫さまが生き残り、適した新たな器を探していただければ、
また共に戦えます。>
<それにだ、このすべてを消し去る球体の発生元である、
弟君を救いたいと思うなら、起死回生の一手のためにも
力は温存すべきだと思うがね。>
<そうですよ。>
男の子は剣の武具に立つ一人の男性に話かける。
「朱雀。何か方法はないのか?」
<だめだな。恐らくだが、神殺しの炎も消されちまう。
この結界でさえ、空間と空間を切断して、やっと構築と維持ができている。>
「ちっ。打つ手なしか。しかし、何かあるはず。
そもそも、お前たちを作り、俺たち兄妹に渡した人物は
これで解決できると考えていたはずだ。
そうだ、お前ら、何かを聞いていないのか」
<<修行をして、来るべき時は時間稼ぎをするようにと>>
「「はぁ!?時間稼ぎ?」」
<それだけだったよね?>
<ええ。>
<そうだな。>
<顔は見ていませんが、そのように聞いています。>
「どういうことだ・・・。」
--------4年前-----------
夕日が窓から差し込む図書室のソファで一人の男の子が本を読んでいる。
男の子の名前は風間信幸、小学2年生。
今年、1年生になった妹が、友達とグラウンドで遊び終わるまで、
こうして、本を読むことを日課にしている。
そんな彼の一族には秘密がある。昔から、陰陽道や魔道、神道など、
目には見えない人外の力を行使する術を生まれながらに持ち、
生まれたときから使うことができるというものである。
ただし、その力には適正と素質が必要となり、こうすればよいとわかっていても、
赤ん坊のころは使うことができず、幼稚園に上がることに
やっと、小さい火を発生させたり、小さい雷を落とせる程度のものである。
一族の人間はその術を磨き、退魔師や神職につくものが大半である。
かくいう、父親も表では、商店を営みつつ、裏では退魔師として働いている。
その一族の中で今代の信幸の兄妹は素晴らしいと絶賛されている。
理由は兄妹の持つ能力の特異性にある
信幸の能力は
第6感:神眼
<見たいと思った場所を見ることができ、気温・風向きの情報も得ることができる。
着弾点のイメージも見える。>
術の系統:陰陽道
得意武器:銃、弓などの遠距離武器
属性:木・雷・金
妹の紅葉は
第6感:超直感
<自分に降りかかる事象、周囲で発生する事象をイメージとしてとらえることができる。
自身の命に係わることは自動で、それ以外は任意で発動する。>
術の系統:魔術
得意武器:剣、槍などの近距離武器
属性:火・土
それ故なのか、次に生まれた、男の子と女の子は双子なのだが、
その双子はなぜか、男の子は一切術を使える気配がなく、
女の子は食事の時以外は眠ったままという異質な兄妹である。
信幸は本を閉じ、ポケットから札を一枚取り出し、鶴を折り始めた。
折終わるとその手のひらより小さい鶴に息を吹きかける。
すると鶴は羽ばたき始め、どこかへ飛んで行った。
信幸は本を元の場所に戻し、ランドセルを背負い、下駄箱へと向かった。
下駄箱で上履きを履き替え、グラウンドにでると、
先ほど飛ばした鶴の気配をたどりながら、グラウンドを歩き始めた。
しばらく歩き、バスケットボールで遊んでいるグループの
こげ茶色のポニーテイルの女の子に声をかけた。
「紅葉そろそろ帰ろう。」
「わかった。信兄。」
そういうと紅葉はバスケットゴール下に置いてあった、
赤いランドセルを背負うと、
先に歩き始めた、信幸の後を追いかけながら、振り返り、
「またね。」
と大きな声で言いながら、手を振った。
「「紅葉またな。」」
紅葉と信幸は木々の間から夕陽が差し込む坂を下りながら、
たわいのない話を始めた。
「信兄。今日の夕飯は何かな?」
「なんだろな。」
「もう、ちゃんと答えてよ。」
「それより、学校は楽しいか?」
「楽しいよ。運動も給食も。」
「算数や国語はどうだ?」
「たまに寝ちゃうかな。」
「お前な、ちゃんと勉強をしろよ。」
「お兄あれなにかな?」
そういう紅葉の差す先にはいつもはない縁日の出店が立っていた。
学校の下は神社になっているため、縁日がたつのは不思議ではないが、
なんとなくその店は異質な空気を放っていた。
まるで、そこにあることを隠すように地味な外見で、
店員も声掛けをしていない。
また、信幸も紅葉も見た目とは別の違和感を感じていた。
まるで、店そのものが人外の領域にあるかのような違和感である。
「行ってみよ。」
「お。おい。」
紅葉は走って店に近づく、その後ろを信幸は慌てて追いかけた。
「わぁ。」
「すごいな。」
その店に置いてある品はどれもこれも、信幸の一族が使うような、
指輪の形をした、召喚用の道具だった。
一般の人が見たら、おもちゃにみ見える指輪は信幸には結構、高いものに見えた。
召喚といっても、人を別の世界に呼びだすものではなく、
指輪に込められた魂や精霊、神を呼びだすためのものである。
二人が物色していると、
「ふにゃっ。」
寝ぼけたような声がしたので、店の売り子を見ると、
起きたばかりなのか、たれた涎を吹く、黒髪の女性が
座っていた。
その女性は二人を見ると、不思議そうな顔をして、顔をしかめたが、
慌てて何かを思い出し、二人に
「いらっしゃい。」
と声をかけた。
「あっ。ええと。」
「すみません。見てただけなんです。もう、帰ろう紅葉」
「うっうん。」
そう言って、信幸は買う気がないのに見ているのは悪いと思い、
紅葉を引っ張て店を離れようとした。
「まっ待って。えっと。そう。品物が全然売れないから、
今日で店じまいしようかと思っていたの。
だから、何かの縁だし、おまけしてあげる。
どれでも100円でいいから買わない?」
信幸は顔をしかめた。この女性は何を言っている。
どれもこれも、高位の道具なのに、100円とは。
子供のおもちゃじゃあるまいし。
そんなことを考えていると、女性はさらに続けて、こう言った。
「あー。嘘つきとか思われてるのかな。
まぁ。君たちも幼いながらに、退魔師なんだね。」
信幸はびっくっと体を震わせとなりの紅葉をみる。
紅葉は先ほどから呆けて、女性を見ている。
見ているということは敵意はないということを読み取り、女性に問いかけた。
「なぜ僕らが退魔師だと思うのでか。」
「そりゃ。この店は退魔師以外はわからないようになっているもの。」
信幸は感じた違和感の正体がわかり、少し納得した。
「嘘つきではないと納得してくれたかな?」
「では、退魔師とわかっている僕らになぜ、道具を安く売ろうとしたのです。」
「あー。それ聞いちゃう。実はね、この店の道具。
全部力の10分の1しか力を出せない、偽物なの。
見る人が見ると微妙なのよね。」
「偽物だから、安く売るのですか。」
「それもあるんだけど。君たちが何かを買ってくれれば、
この子たちがあるべきときにあるべき場所へと行ってくれる気がするのよね~。」
「言っていることがわからない。」
「まあ。簡単に言うと、神様が、あなたたちに安く売れと言っているのよ。」
胡散臭いと思いつつも、信幸は紅葉とともに、選ぶことにした。
「いらいろあって迷っちゃうな~。」
「ならお姉さんが選んであげようか。こう見えておすすめをあてるの得意なんだ。」
「えっ。本当ですか。」
「本当、本当。そうね~。あなたなら、これとこれかな。」
そういって、その女性は、紅葉に
聖具と前衛向け武器パックと書かれた指輪を渡した。
「信兄どう思う。私何が書かれているかわからないけど」
「いいんじゃないか。お前にあっていると思うぞ。」
「うん。うん。そうでしょう。そうでしょう。君にはこれだ。」
そういって、その女性は、信幸に
式神と射撃系武器パックと書かれた指輪をわたした。
「本当におすすめをあてるのがうまいですね。」
「ふふふ。きっと4年後には君たちの役に立つはずだよ。」
何か、よくわからないことを言われた気がしたが、
妹の分と合わせて400円を渡そうとすると
「あと一つ買ってくれたら。一つおまけしてあげる。お得でしょ。」
信幸は何でそんなに売りたいのか、疑問い思いつつも、
紅葉時用に防具パックと書かれた指輪と
自分用に探索精霊と書かれた指輪を選んで500円を女性に渡した。
「まいど~。あとこれは買い物してくれた人に渡すつもりで用意したの。
私の自信作。その名も『消えるんです』。この腕輪をつけるだけで、
腕輪を含めた退魔師道具を着用者以外に見えなくする優れもの。すごいでしょ~。」
信幸は確かにすごいがセンスが微妙と感じたが、ただなのでつっこむのをやめた。
「はてさて。また、ご縁がありましたらお会いしましょう。ばいば~い。」
そういうと目の前の女性ともども店は見る間に薄くなり消えてしまった。
ただただ、二人は茫然と立ち尽くした。
その二人の左腕にはチェーンでつながれた指輪と
『消えるんです』が夕日を浴びていた。
紅「あの女性はいったい」
信「あ~。(あいつ、こんな出方すんだ。)」