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バーチャル・バトル・シューティング編 ①


俺たち一年一組の生徒たちは、教室からしばし離れて、闘技演習場に来ている。


弥咲学園は世界で唯一、全種族共通課程を実施しているが、これは全種族が共通で出来ることを行うということではない。


通常なら、各種族の特徴に合わせ行われる専門課程を他の種族も行うというものだ。


それゆえに今も、武力種ミリタリーズの専門課程「対人・対異能力者戦闘訓練」の真っ最中というわけだ。


「それでは! 本日の演習について説明する」

今日の授業は、乾蒼太郎いぬいそうたろう先生が担当するようだ。


乾先生は軍部出身で、現役時代は中佐まで上り詰めた実績があると聞いている。


「本日行う演習は、対人・対異能力者戦闘訓練だが、その中でも特に実戦的な模擬玉当て《ばーチャル・バトル・シューティング》、通称VBSを行ってもらう」


VBSとは、屋内戦でおこりえる拳銃のような小型の短距離銃を用いた戦闘を想定して行われ、高校の授業では実弾ではなく、ペイント弾が用いられる。


元々は武力種ミリタリーズの専門課程であるため、能力の使用は禁止されていない。


「本日お前立ちには、装弾数三十発の自動式拳銃を用いて、1on1で一セットマッチのトーナメント戦を行ってもらう。制限時間は各試合十分。一発の着弾を十ポイントとし、ヘッドショットのみが、三十ポイントとする。能力の使用は可だ。安心しろ、当然だが弾薬はペイント弾だ。命の危険はない。それでも急事の場合は、医務の和泉薫いずみかおる先生が対応してくれる」


乾先生から紹介を受けると、和泉先生は優しい笑顔で応答した。


和泉先生はまだ若い新任教師だが、その腕は確かで、いつも落ち着いた雰囲気がある。


「それでは十分後に一回戦を開始する。ちなみに対戦相手は直前にこちらがランダムに選ぶため、お前たちの相手に合わせた臨機応変な対応力を期待してるぞ」


そう言い残し、二人の教師は管制室へと入っていった。


「楽しみだね針真君!」

「なんだミチルか。どうせ、勝や愛在あたりが勝つだろ」

俺が観戦ルームに向かっていると背後から、いかにも自信有り気なミチルが声をかけてきた。


「えぇ〜そんなことないって! 私は勝つつもりでいるよ!」

これは元々、武力種ミリタリーズの専門課程。そいつらに部があるのは明らかだ。


特に愛在と勝は、軍部も注目している能力者として、名声をはくしている。

もう、どっちかで決まりだろ。


「それに、灯も相当燃えてるみたいだしね!」

「あいつが? 珍しいな」

昨日の授業では、俺達の説教が原因であやふやになってしまったが、灯は感覚種センセーションズに属している。


最も希少な種族だが、正直戦闘向きとは言えない。

灯の能力なら尚更だろう。


『一回戦、第一試合の組み合わせを発表する。番号4と10は準備をしろ』

乾先生が放送で組み合わせを伝えてくれた。


俺達はあらかじめ配られた番号を持っていて、誰が何番かはお互い知らない。


『次に第二試合、番号6と9は準備をしろ』

一年一組は全部で二十人だ。

一度に五試合のペースでやって行くので、意外と早く済みそうだ。


全最初の五試合の組み合わせが伝えられたが、俺の番号は呼ばれなかった。


観戦ルームには、ミチルや勝が残っている。

愛在、室岬、灯がどこかの試合で出てくるはずだ。


「針真君的にはどうなの? 灯ってけっこうやるの?」

「さぁな。ここ数年は会ってなかったし、よくわからん」

とは言ったものの、俺は嘘をついている。


灯……絶対に本気でやるなよ……

俺は念が届くわけがないと知りながらも、必死に念じた。


『それでは! 試合、開始!』


ビーーーーーーーッ


合図と共に一斉に試合が始まった。

試合に出ていない十人は、観戦ルームにて試合を見ることが出来る。


みんなが注目しているのは、もちろん愛在の試合だ。

試合が始まって、そろそろ五分が経過するが、あいつはまだ一発も売っていない。


ものが散乱している巨大倉庫フィールドで、そこら中のものを相手に飛ばしては、同じ容量で相手からの弾丸を防いでいる。


勝とうと思えばいつでもできるのに、ギリギリまで手を出さない。

パフォーマンスのつもりなのか……単に性格が悪いのか……


俺は後者だと確信している!!


それはさておき、俺が見ているのは別の試合だ。

灯VS室岬。こんな組み合わせが許されるのだろうか……


いや、世間一般的にはなんの問題もないが、俺からしてみればどっちを見ればいいのか分からなくなってしまうという大問題がある。


ヘマをしないように灯を監視しなければいけないし、室岬の頑張っている姿も見ていた……

しかし、俺の苦難は一瞬のうちに消し飛ばされた。


試合開始直後に爆ぜるように動いた影は一瞬で対戦相手の元に行き、的確なヘッドショットを数発打ち込んだ。


「………………あっ灯のバカ野郎ぅぅぅーーーーー!!!」


俺の心からの怒りの声は、その試合を見ていた人も、そもそも俺達の事情を知る人も、この場にいなかったため、なんとかごまかすことができたが、数人がこの試合に注目してしまった……


「えっあのオレンジまみれ塗れ名乗って萌々菜?」

ミチルは興味津々と言ったように、俺に問を投げた。


俺はできればこの話題を掘り下げたくなかったのだが、ここではぐらかしても不自然だと判断し、あえてぶっきらぼうに答えた。


「そうだな。灯のやつ、しばらく見ないうちに見違えたな。」

「へ〜すごいじゃん。私も灯と試合やってみたいな!」

なんとかこの話題を終わらせることには成功したようだが、灯には言わなければいけないことが山ほどある……


程なくして、全試合が終わり、灯が帰ってきた。


「いや〜快勝〜ぶいっ」

おいおい、人様との約束を破っておきながら、いい態度じゃなぇか……


俺はそう心の中で言葉を押し殺しつつ、灯への説教を始めようとしたが、俺より先に勝が灯の話に乗っかてしまった。


「針真すごいな! 特に銃の扱いもなれたような手つきだったしよ!」


さっ流石は鋭い……


「あぁ〜銃の扱いは〜おじさ……フグッ」

「ちょっと灯さん…… ご同行願えますか…………?」


俺はどうにか灯の口を手で覆い、これ以上のポカを防ぐことに成功した。


「お前な、本気でやんなって言っただろ!」

「ほんき〜あんなのほんきじゃないし〜」

こいつ、この期に及んで屁理屈を……


「目立つなとも言った」

「愛在の方が目立ってるからいいかな〜って」

まぁ確かに結果的にはそうだったのだが……


「はぁ〜本当に気をつけてくれよ……」

「分かった〜」

「もう、お前の分かったは信用せん」

俺はポカッと軽く灯の頭を小突いた。


「葵〜痛いよ〜」

ちょうど俺の番号が呼ばれたとだし、そろそろ行くか……


「葵〜ちゃんと勝手よ〜また葵と戦いたいから〜」

「はいはい。ところで室岬はどうしたんだ?」

もうそろそろ戻って来ていてもおかしくないのに、室岬の姿が見えなかった。


「あぁ〜多分、シャワーじゃないかな〜ペンキ落としなう」

「さっきの試合、いささかオーバーキルだったし、後で謝っとけよ」

「分かった〜」


灯のゆっくりとしたテンションに見送られながら、俺は観戦ルームを後にした。

読んでいただいた方々ありがとうございます。


今話から数回に渡って、VBS編をやって行きたいと思っています。

少しずつ、葵の抱える秘密や恋の影が見え隠れして来たのではないでしょうか。


ご意見ご感想お待ちしております。

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