全ての元凶が再来しました………
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えっ。
今、あいつなんて言った……?はりまあかり……?
「「針真灯いいいぃぃぃ!!!???」」
俺と愛在が声を上げたのはほぼ同時。
俺は思わず席を立ち上がり、教壇の方に目を向ける。
愛在も相当驚いたのか、その場で固まってしまっていた。
「あぁ〜。葵だぁ〜! 久しぶり〜」
俺がいることに気づいたのか、灯はヒラヒラと小さな手を振ってくれている。
しかし、今の俺には返答する余裕は無い。
なんせ灯は、今有る地獄を作り出した、張本人なのだ………
「ちょっと〜葵ぃ〜何で無反応なのぉ〜」
気づけば灯が目の前まで迫って来ていて、クラスの男子勢からは敵意の眼差しを向けられていた。
それもそうだろう、灯は噂の美人だと断言してもいい。
そんな転校生に親しげな感じで話しかけられてるやつがいたら、面白くないのも当然だ。
だが待ってくれ!
これには深い深いわけがあってだな………
「ちょっと。何で灯がこんなところにいるの!!?」
ついに耐えかねた愛在が首を突っ込んできた。
普段ならこんな些細なことでもムカつくが……今はありがたい!!
「あれ〜愛在じゃ〜ん。居たんだ〜なになに?もしや、まだ二人は続いてんの〜?」
おいおい、お前がそれを言うか!?
俺が一人、苦悩する中、愛在は灯に食ってかかった。
「あのね、灯。そもそも、私と針真はそんな関係じゃないの」
そう。愛在の言っていることは間違って無い。
間違っていないが、灯の能力の前では無意味だ………
「えぇ〜じゃぁなんで、葵の持つ頭文字はM.M.のままなの?」
俺の名前は「針真葵」。頭文字は「A.H.」だ。
「M.M.」では無い。
ここだけ聞けば意味不明だろうが、これが針真灯の能力……
「そんなの私が知るわけないでしょ!」
愛在の言っていることは間違っていない。
それでも。どうやっても、灯の能力の前では無意味なのだ。
「それもそっか〜。じゃぁさ〜なんで愛在は頭文字を持ってないの?」
これでもう、愛在は詰んだ。
悔しそうに、歯を食いしばる愛在………
愛在はついに灯の牙城を落とせなかった。
針真灯の能力は、目視した他人が、好意を抱く異性の頭文字が対象の頭上に見える、というもの。
また、対象が既婚者・交際中の異性がいる場合、男女のうちで男性のみに相手の頭文字が現れ、女性は頭文字が消える。
俺と愛在の場合、俺が持つ頭文字は「M.M.」。
これは「麻茨愛在」のイニシャルと一致していて、なおかつ愛在の頭上には頭文字が現れない。
灯が嘘をついていなければ、俺たちが交際関係にあってもおかしくないということだ。
これを根拠に三年前、灯が俺たちと同じ中学校から転向する前に、俺たちの噂が一気に広まった。
もちろんそんな事実はないのだが、灯の能力による裏付けと、根強く広まった噂話。
これらによって、俺と愛在が付き合っていると皆が信じ、疑うやつはいなくなった。
灯がどういう意図でこんなことを広めたのか、未だにわからないが、俺の中学生活は実の彼女もできず、枯渇した三年間となってしまった……
これは愛在も同様で、灯に対する当たりが強いのも、仕方の無いことかもしれない。
そんなことを一人で考えていると、目前で振られる小さな手が、俺を現実に引き戻した。
「何、ぼぉ〜っとしてんの?」
気づけばさらに接近した灯の顔が、俺の顔のすぐ前で微笑んでいた。
灯は胸の前で手を合わせ、少し前のめりな体制に上目遣いで、トドメの一撃を放った…
「葵〜三年間、よろしくね〜♪」
この時俺は確信した…
あぁ、波乱の高校生活になりそうだ…………
読んで下さった方々、ありがとうございます。
えぇまずはじめに…この物語には決してモデルはなく、決して作者の中学時代に、彼女がいなかったことを題材にしているわけではありません。
はぁ青春って何なんでしょうね……
経験無いことって物語にかけなくね?などと、三話目にして早くも気づいてしまった今日この頃です。とか言ってみたり。
これからも私なりにこの物語を彩らせていただきます。
ご意見ご感想お待ちしております。