大禊日
月明かり
月明かりを雨と見間違う
雨
やはり雨の匂いがする
なにか暗澹とした気分で
とりとめもない連続体に印をつける行為について考える
切り替えよう
手放しで喜ぶ気にはなれないが
そのための新しい日
一瞬で生まれ変われるわけはない
少しずつ少しずつ変わってゆくものたちは
目盛りを刻んでいなければ変化に気付けない
時代の閉塞感に耳を覆いたくなる
繋げることでしか守れなかったたくさんのこと
そこにいるのはばらばらの
バトンを渡すことに怯える人の群れ
この場所はまだ20世紀末の激情を消化し切れずに
怒り
震え
救世主を待つ人ばかり
狼たちは絶滅してしまったのだろう
残った犬たちは誰に従うか考えあぐねては
それでも主人に寄り添って生きていく
彼が間違っていても、誰が間違っていようとも
理想ではあるが願ってはいけないよ
大事な人が犬であってほしいなどとは
けれどそんなふうな他者との繋がり方を覚えてやっと
前世紀末の宿題をひとつ終えたことになるのだろう
大いなるひとりがすべてを救うわけではないのだと
小さなひとりひとりが手を差し伸べ合うのだと
恐怖の大魔王を倒せばすべてが終わるわけではないのだと
拡散した小さな悪意のひとつひとつが種であるのだと
汗ばむほどに握りしめていたバトンを
渡せる相手は運がよければまだどこかにいるだろう
リレーはいつまでだって続いているのだ
一度手放すことで次のバトンもやってくる
鳥は飛び立とうとしている
あとが濁ったように見えるなら
それはぬくもりであったかもしれないと
そっと手をあててから考え直す
明日から新しい手帳
変わり映えしない毎日の小さな変化を記すもの
一日かけて日記を書こう
書き落とすことで落ちていく穢れもあるだろう
そんなときには
月明かりでも雨でも
このくすんだ空虚を浄化してくれるのなら
また新しい泥濘んだ道も歩き出せるだろう




