宝石商の妻
『とうとう念願が叶った。』
女は強くそう感じた。
幼少時代、あまりお金もなく、ひもじい思いをしていた。
少し成長してから、貧乏ながらも自分がほかの者より優しく扱われていることに気づき、恵まれた容姿に生まれたことに喜びを感じた。
蝶よ花よと育てられ、巡りめぐって、女は宝石商の妻となった。
もう、あんな苦しい思いはしなくてすむ!
それだけで女は幸せであった。
宝石商の男は女よりも20歳ほど年は上であったが、健康に気をつけているのか鍛えており、
肌にハリがあり、腹は出ておらず、髪もつやのあり、文句ひとつない外見であったために、女はあまり気にしなかった。
女は男に甘い言葉をささやかれ、何度も何度もアプローチを受けた。プレゼントも数え切れないほど、受け取った。しかし、男は一度も宝石をプレゼントすることはなかった。
男いわく「君自体が輝く宝石だから、必要ない」と。
女は素敵な旦那、財力を手に入れた。一生この生活を手放さんと思った。
しかし、長くは続かなかった。
男は仕事が忙しく、家にいないことが多く、女は寂しさを感じた。
女は金を使って寂しさを紛らわすことを覚えた。
男が稼いでもらった金を遊び使うのに躊躇したのは最初だけ。
気付けば、男からもらったプレゼントを質に入れてまで、お金を使っていた。
そして、
『そうだ、彼の店に行って商品を少し借りましょう。』
女は男の商品に手を伸ばすことに目をつけた。
しかし、手にとることはかなわなかった。
「残念だよ。僕は君を愛していたのに。でも大丈夫。醜くなった心なんて気にならないくらいに綺麗にしてあげるから。」
数ヵ月後、
「おい、『また』やったのか?」
男が宝石商を始める前からの付き合いのある友人はため息を吐き、そういった。
「これ以上、醜くなる彼女を見てられなかったんだ。ほら、見てくれよ。今の彼女綺麗だろ!いままでで一番綺麗だと思うんだ。」
男はそういって、ネックレスのダイヤモンドを見せ付けた。
「前のはどうしたんだ?」
「前の娘は保管庫に寝せてあげてるよ。他の娘たちもいるから寂しくはないと思うんだ。」
男の保管庫はたくさんのダイヤモンドが眠っている。
「あ、そうそう。新しい人間の恋人ができたんだ。できれば、こうなる前に紹介できるようにするよ。」
SNSで話題となっていた遺骨ダイヤモンドをヒントに書きました。