第一回 オリエンテーション・あいさつ
参加者は私の他に男性二名。女性は私しかいないのか……と少しビックリしました。年齢は二人ともおそらく二十代なので近い感じです。作業療法士三名、発達障害専門(?)の女性一名に囲まれて、三対四でプログラムを進めていきます。参加者よりスタッフが多くてこれまたビックリです。「人と上手につきあいながら世の中でうまく生きるコツ」を掴んでいくのが目的ということです。
ですが、私は「(会話や挨拶など)練習してどうにかなる人間ではない」「人に言われて変われるならとっくの昔にそうしてるわ」と思ってしまう頑固な人間です。発達障害者は「もうどうにもならない」という結論を持っている人が多い、と「ぼくらの中の発達障害」(青木省三)という本に書いてありましたが、その通りだと思います。つまり、正直全く期待していません。どこかに通っている方が家族や親戚に対して体裁がいいし、精神科の主治医も「これからのことについて何か考えていますか? どうします?」ってやたら念押ししてくるので、嫌々というか仕方なく参加したというのが本当のところです。
オリエンテーション(説明)では、まず自己紹介をしました。「王李です。本を読むのが好きです。本屋や図書館に行くのも好きです」と言いました。自閉症スペクトラム(≒広汎性発達障害。『自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群・特定不能の広汎性発達障害』の総称)で困ったことはないか聞かれました。私は「他人としばらく話していないのでよく分からない」ということを言いました。それから、「事務的な説明が長いとよく分からない。聞いていても理解できない。SSTの説明の時も、母は時刻や受付の仕方やどこに集まるかなどちゃんと聞いていたのに、私の頭からは要点が抜け落ちていて、今日初めて知ることが多かった」ということを言いたかったのですが、最初から支離滅裂で、「なんかSSTも、この前説明されたことがよく分からなかった……ゴニョゴニョ……まぁ、なんか……そういう感じです……」と(実際はもっと)意味不明な言葉になってしまいました。身ぶり手ぶりも交えてかなり挙動不審な感じでした。作業療法士さんが「聞く方が大変なんだね」と助け舟を出してくれたのですが、言いたいことが言えないのは本当に悲しいですね。ここまで伝えるのが下手か、と気落ちしてしまいました。他の参加者のお二人は普通に伝えられていたので余計恥ずかしかったです……。
次に目標は何かと聞かれて、「自分に合ったバイトを……モニョモニョ」と言ったんですが、まずは規則正しい生活ですね……。いつも昼起きなので。「できていることチェックリスト」というのを貰って、一応起きる時間を午前九時から十時に設定しておきました。頑張って起きるようにしたいです。
「自閉症スペクトラムの人は食事に無頓着な人が多いそうですが、どうですか?」というような質問には思わず頷いてしまったのですが、今思うと、そこまで無頓着でもない気がします……。「好きな食べ物以外は何でもいいです」というようなことを言ってしまったのですが、好きな食べ物はあるんじゃないか、って感じですよね。帰りの車中、それが気になって、訂正したいなぁと思いました。たかが全十回のプログラムのつきあいなので、そこまで気にすることではないんでしょうけど。でも自閉症スペクトラムの誤解を生みたくないですし、自分について正しいことを知って欲しいと思ってしまうんですよね……。
本題に入りまして、第一回は「あいさつ」です。鏡に向かって笑顔をつくって「おはようございます」と言うのが辛かったです。私だけ、なかなか「いい笑顔だね」と言ってもらえないので、涙をこらえるのに必死でした。ごまかし笑いのようなものをやめた方がいい、って言われたんですけど、他人の前で鏡を見て平常心ではいられませんよ……。何でこんなことしなくちゃいけないんだろう、と悲しかったです。なので、途中から練習するのは止めて、ただボーッとつっ立ってました。この練習が一番嫌でしたね。
次はロールプレイ。挨拶をしている場面をスタッフが演じます。一回目は「駄目なあいさつ」(駄目な例とは言わないが、駄目と言わせたい感じ)。アパートから出てきて、掃除のおばさんに「こんにちはー」って言いながら目を合わせずスーッと通り過ぎる。この挨拶からどんな印象を受けたか、どこが悪かったかを話し合います。私はちょっと反抗心が立ってしまい「挨拶挨拶した挨拶をされるより(気が楽で)いい」と言っておきました。っていうか、挨拶の仕方なんて人それぞれじゃないですかね? 挨拶しなくても心根の優しい人はいるわけだし、その逆も然り。挨拶一つで人柄を判断することは絶対にできないはず。良い挨拶をして人に好印象を与える意味もよく分かりません。まぁ、悪い印象を与える意味も全くありませんけどね。
二回目は「良いあいさつ」を演じます。これについて意見を交わす。建設的な意見(いい子ちゃん的とも言う……。私もこれからはこのスタンスでいこうかな……)が集まったので、それを踏まえて今度は私たちが実際にロールプレイしてみることに。男性二人は率先してやってくれるので、私は自動的に最後の順番になります。微妙に悪い気がしなくもないですが、自分から手を挙げるのは嫌。これからも三番目ということになりそう。私は「顔を見る」を重点的にやってみました。でも皆の前で演じるのは緊張して、自分が何をやったか何をしたかがゴチャゴチャになって記憶が残りません。次は、その挨拶がどうだったか皆で意見を言い合います。参加者二人は当たり障りのない褒め方をしてくれるので、気を使わせてるなーという感じがして、なんだか申し訳ない……。この練習意味あるのかなぁ……。
「悪い例を見る→意見を出す、良い例を見る→意見を出す、それを踏まえて実践してみる→意見を出す」というのがお決まりの流れのようですね、おそらく。
次は病院で知り合いに会った時はどう挨拶するか、というシチュエーション。悪い例は、目の前を早足で通り過ぎる、というもの。これは確かにあからさまで寂しい感じがしました。スタッフの方は「挨拶をしようか、どうしようか悩んで通り過ぎてしまった。人見知りだし……」という気持ちで演じたそう。これはよく分かりますね。実際にあったらそういう気持ちになると思います。悪い例を否定しすぎないスタッフの姿勢には好感が持てました。
最後に全員が今日の感想を言います。私は「練習しても本番ではできないので……」と正直に言いました。全然いい子ちゃん路線になってませんね。だって嘘つくのは嫌だし……。そしたらやんわり「実際にやっていくことが大切ですね」とスタッフの方に言われました。まぁ、そう言うしかないわな……。
ロールプレイが多様性の主義に反していて辛いなぁ、とは思いますが、スタッフの方は皆いい人ばかりだったし(やたら持ちあげてくれるので、微妙な気持ちにはなりますが……)、参加者の男性二人も私と似たような状況なので、なんだか安心しました。
つまり、まぁ、そんなに悪くはなかったです。練習したからといって改善できるかというと別問題だし、生活の中で実践するのは無理だとは思いますが……。意見を出し合うのもなんか予定調和という感じがして意味を感じませんが……。
だらだら本を読んでいるとあっと言う間に過ぎてしまう一週間に「SSTに通わなければいけない日」という緊張感が生まれたことが最大の収穫だと思います。
次回の宿題に一分間スピーチ(一週間で最も印象に残ったこと)を考えてくるように言われました。毎回冒頭で発表しなくてはならないそうです。……話のネタがあるかどうか。
午前九時から十時に起きるという目標も忘れないようにしたいです。
これまでには「SSTに参加してみたけど、どうしても無理で参加取り消しした人」もいるそうです。その人の気持ちは凄くよく分かりますね。ロールプレイとか意見交換とか全部人前でやることなので(おまけに私には意味を感じられないので)、耐えられなくなってしまったんだろうなぁ、と思います。私は今のところ耐えられる確率の方が高そうなので、続けてみるつもりです。