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紅紫の月夜に

すいません……始めに謝ります。内容が全くの別物になります(苦笑)しかも恐怖系になりつつあります。ご了承ください。

――ちゃん…

――タクちゃん…

あ、誰か呼んでる……?この声は……

「おねえちゃん…?」

あれ…?身体のあちこちが痛い……痛いよ……

「大…丈夫?タクちゃん、ケガ…してない……?」

何か、おねえちゃん変だよ…あっ!!

「おねえちゃん…血が出てるよ……ケガしてるの、ボクじゃなくておねえちゃんだよ!?」

おねえちゃんの身体のあちこちから血が流れてる…このままじゃおねえちゃん死んじゃうよ!

「おねえちゃんは…大丈夫だよ……タクちゃん、ごめんね…おねえちゃん、タクちゃんを突飛ばしちゃった…いた…かったよね…」

おねえちゃんは、それだけ言って目を閉じた。それから、おねえちゃんは目を開ける事は無くて――

『弟さんをかばって、車にひかれたんですって』

『車の運転手って、わき見運転だったらしいわよ』

近所のおばちゃん達がいろいろ言ってる中で、おねえちゃんのお葬式をやってる…。皆はおねえちゃんの写真を見て泣いてる。雨が降ってきてたけど、月が出てた。

「タクミ、こっちにおいで…こっちに」

おばあちゃんがボクを呼んだ。何だろう?

「なに?どうしたの、おばあちゃん?」

ボクは、おばあちゃんが手を振る方に走って行ったんだ。

「おねえちゃんがいるよ。タクミのケガが心配なんだって…」

え?おばあちゃん何言ってるの?おねえちゃんはあっちにいるよ?あっちの箱の中で寝てるんだよ?

「ここにいるよ。タクミには…見えないみたいだけどね――」

変なおばあちゃん…そう思って、戻ろうとしたら。

《タクちゃん……聞こえるかなぁ…?》

え?おねえちゃん!?どうして――!?

《タクちゃん、ケガしたところ、痛くない?》

「う、うん、痛くないよ」

《そう、よかった…おねえちゃん、これからはずっとタクちゃんを見てるからね――》

最後の方は声が小さくなっていって……おねえちゃん、遠くに行っちゃったみたいで――

「おねえちゃん、行っちゃやだよ……!」

ボクは泣きながら、声のした方を見てたんだ。

『あら、タクミちゃん、どうしたの?』

親戚のおばちゃんが声を掛けてきた時に、気がついたんだ。おばあちゃんも、半年前に死んじゃってたんだよね……

《タクミ、雨が降ってるのに、お月さんがよく見える夜は、出会う人に気をつけるんだよ…『こっち側』にいない人も見えてしまうからね――》

おばあちゃんの声がして、それっきり静かになっちゃった――

「おばあちゃん!?おばあちゃんも行っちゃうの!?皆、ボクを置いて行かないでよ……皆いなくなっちゃうのいやだよ――」

それからボクは、一晩中泣いていたんだ――

そうだ、あの夜も、雨降りなのに月が出ていたっけ…お母さん達に話したけど、誰も信じてくれなかった。あ、一人だけ信じてくれた人がいたな……遠い親戚のおじさん…その人が言ってたんだ。

「人の魂は、いや、心は死んだ後も大切な人のそばに残っているんだよ…"思い出"なんかに形を変えて」

あの頃のボクには、その言葉の意味が分からなかったけど、今は……

――白い、どこまでも白い光の中で、僕は過去の記憶をたどっていた。白い光の中に、月だけが見えている……あれ?色が…?青紫だった月が、紅紫色になっている……?血のような色、何か嫌な光……

《気をつけるんだよ…》

おばあちゃんの声が頭の中で繰り返される。気をつける?どうしてだろう……?何か大切なことを忘れているような気がする――

不安にかられた僕は、姉さんの姿を探した。誰かに傍に居て欲しかった…怖くて、そう、とても怖くて……なのに、姉さんの姿は何処にも見当たらない。

「姉さ……」

姉さんを呼ぼうとした時にふと、僕は気がついた。ずっと心の片隅にあった疑惑……彼女は本当に、僕の姉さん、まゆきだろうか?

思えば、一度も、彼女は自分が『姉』だとは言ってない。何か、僕の記憶に合わせて話していたような……

疑いってやつは、一度うまれると、際限無く膨らんでいく。段々と姉さんに対する恐怖が僕を包み込んでいくのが分かる――

『タクミ、どうしたの?何か顔が蒼いけど…?』

不意に掛かった声に、僕は飛び上がりそうになった。いつのまにか、後ろにはマキがいた。

「急に姿が見えなくなったから、迷子になったような気分になっちゃったよ」

怪しまれちゃまずい。取り敢えずごまかす。

「一瞬、月が見えなくなったから…雲がかかったからだと思う…やっぱり、月が出てないとタクミには私が見えないみたいね――」

マキの返事は、納得してもいいと思えたから、取り敢えず頷く。

「思い出してたんだ…」

唐突な僕の言葉に、マキは首をかしげる。

「あの夜の…姉さんの葬式の夜のコトを……」

マキは特に反応は見せなかった。何か、聞き流すような顔つきで、僕の前に立つと口を開いた。

「私は忘れたよ…自分の葬式なんて思い出したくもないな……」

どうして?あの夜に、ずっと僕を見ていてくれるって言ってたのも忘れたの?

「じゃあ、あの夜に言ってくれたコトも?」

僕は、マキが本当にまゆき姉さんか確かめようと思った。

「覚えてるよ…確か、タクミ、元気でね…って言ったよね?」

違う。やっぱりこの人は姉さんじゃない。僕は確信した。

「…誰?」

僕はマキの目を見つめて聞いた。マキはきょとんとした顔をしたが、直ぐに笑った。

「私はマキ、タクミの姉だよ。どうしたの、突然?」

そう、決定的なのが僕を呼ぶ時の呼び方。姉さんは一度だって僕のことを

「タクミ」と呼んだ事が無い。

「姉さんは僕を“タクミ”って呼ばないよ……マキ、キミは本当は誰なの?」

マキの目付きが、変わった……それと同時に、周りの空気が変わる。かすかに歪んで、靄がかかったような灰色の風が吹き始める……

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