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戦争物(仮)

思惑から外れた人種の戦い

作者: ちょめ介

※『戦いを望む人種の特徴は』のかなり前に位置する物語ですが、読まずとも特に問題はありません。

 辺り一面が銀世界となった広大な雪原。


 二つの領地の境に位置する、年がら年中雪が降り続ける場所。

 轟々と呻りを上げて雪が降り続ける中、二つの人影が歩いていた。


「まったく、こんなクソ寒い中でも諍いをやりたがるなんて。ホントに何を考えてるんだろうね」

貴族(バカ)共が何を考えてるかなんて知らないわよ。けど、この吹雪はイヤね滅入っちゃう」


 一人は青年だった。

 茶色の外套に身を包み、取り立てた特徴がない黒髪の男。

 豪風で捲れた外套の端からは刀が見えた。恐らく彼の武器だろう。

 東方伝来の一振りを腰に携え、フラフラと風に揺られて歩いていた。


 もう一人は少女だ。

 こちらは青い外套にスッポリと包まれ、眼鏡を掛けた黒髪の女。

 特に目立った武器を持っていない。背中の膨らみはリュックサックだろう。

 風に飛ばされないようしっかりと雪を踏み締め、歩いていた。


「まあ、依頼を受けちゃったから仕方ないけど。面倒だねぇ『斥候をし、敵を見つけ次第無力化しろ』なんてのは」

「だから言ったじゃない。雪が酷くならない内にとっとと行こう、って。風邪を引いちゃった私が悪いんだけどさ…」

「まあまあ、ホントは出てこない方がいいのに無理してるんだから。しかしまあ、向こうさんとこちらさんの領主は兄弟だとか。仲が悪いって噂は聞いてたけど、まさか、一触即発のこんな事態になるなんてねぇ」


 この雪が降りしきる地に来たのは、少女が何やら儲け話を聞きつけたからだ。

 それなりに長くチームを組んでいるのだ。少女のこういった勘は当てになるのは知っていた。 

 しかし、この地に来たは良いものの、少女が体調を崩して寝込んでしまったのだ。

 その内に天候は荒れ、この吹雪が続いて何週間になるか。


 そして、隣に位置する領地へと攻め入る事が発表されたのは数日前だ。

 何やら行っていた交渉が決裂し、両者ともに軍事行動に移る事になったようだ。

 どこか他人事のように感じていたら、次の日には領主の下へと召喚された。

 どうやら、領地に立ち入る際に明かした身分を照合されたらしい。


『貴様らの身分は聞いた。ワシ自ら依頼を申し渡す。光栄に思え』


 前置きから偉そうな物言いをしていた領主だったと記憶が残っている。

 ぶくぶくと肥えた豚みたいな体に、薄くなった毛髪。

 寒い地域なのに矛盾した特徴に、青年は吹き出すのを必死で我慢していた。


『愚鈍で卑劣たる不肖の我が弟が、生意気にも宣戦を布告してきた。我が領地の兵は徴兵中だ。貴様らは境界付近の斥候を行ってこい』


 どうやら偵察任務をご所望のようだった。

 そして、終いにはこう言った。


『敵を見つけ次第、無力化しろ。拒否しないほうが身の為だぞ? この吹雪の中放り出されたくなければな』


 報酬は僅かな額だった。

 とはいえ、病み上がりの相棒が吹雪の中に放り出されては、風邪がぶり返してしまうだろう。

 取りあえず納得し、依頼を受け、現在に至る。

 依頼は青年一人でこなすと少女にも言ったのだが、無理を押して寒空の下に出てきたのだ。


「ま、戦うしか能のない奴が言うのもなんだけど。傭兵ってのはさ、面倒な身だよね、色々と」

「私たちにはそれしかないのよ。けどその分、自由に生きてるじゃない。面倒な思惑とか嫌な企みから外れてね」


 そう、二人は傭兵だった。

 ともすれば使い捨てとしか思われていない、世界に数多存在する傭兵の一人として。

 この世界で、生きていた。




―――




 吹雪は小康状態となり、ちらちらと雪が舞う程度に収まった。

 真っ白な世界は相変わらずだが、幾分かはマシになってきた。


 依頼を受け領地の境界付近へ斥候に来て、およそ半日。

 徐々に日は傾き、闇に落ちようかという頃。


「―――待って、反応があるわ」 


 少女が青年に言う。

 彼女の前には、スイカ程の大きさの水晶玉が浮かんでいた。

 青年が見ても目を向けても何も分からないが、彼女にはハッキリと分かったようだ。


「反応ねえ。こんな雪原に?」

「ええ、間違いないわ。反応は一つ、前方1.2kmから真っ直ぐ此方へ」

「ばれてるのかな?」

「それはないわ。スキャンもしてたけど探知術式は確認できなかったから」


 彼女の能力は、援護・探知に特化している。

 専用の水晶玉を併用する事で、生命反応を探知する事が出来る。その範囲は2km四方にまで及ぶ。

 極限にまで集中すれば、それこそ森に逃げ込んだ者を常時追跡する事も可能だ。

 探知中、彼女が無防備になってしまうのがタマにキズだが。


 そしてもう一つ、探知範囲内に存在する別の探知術式すらも看破する事が出来た。

 つまり、彼女を敵に回すと一方的に追跡される。

 探知能力者として、彼女は最高峰に位置していた。


「私はここで待ってるわ。力になれそうにもないし」

「はいはい。それじゃ、料理は任せたよ」

「分かってるわよ。それじゃあね」


 その言葉を最後に、彼女はテントを設営し始めた。

 心配の色はなかった。

 まるで、青年の身を案じる必要が無いと言わんばかりに。


 対して青年も、それが当然とばかりに歩き始めた。

 彼女が示した方向へと真っ直ぐに。


 別れ際に渡された、ビー玉ほどの大きさの水晶球。

 スポットされた対象へ近づくほどに光り輝く、彼女の持つ水晶玉の子機のようなものだ。


 十分ほど歩いた所で光が一方向を差した。

 この反応は、対象がすぐ近くにいる時の物だと青年は気付く。

 

 キョロキョロと視界を彷徨わせると、異物が目に入る。

 

 青年の身の丈を超える程に重厚長大の大剣を背負った、同じく外套を着込んだ人物。

 身の丈は青年より少し低いほど。魔法が存在するこの世界でそれは目安にもならない。

 なにせ、身の丈2mはあろう大男が、強化(ブースト)の魔法を使った少年に軽く捻られるのだ。


「君も雇われ? お互いに面倒な依頼を受けたもんだよね」

「お前もか。互いに嫌な依頼を引き受けた物だ」


 声から察するに、大剣を背負った人物は女性らしい。

 

「こっちとしては思う所もあるけど、依頼だしね」

「違いない。傭兵が依頼を受けた以上、それは絶対だからな」


 これが傭兵になって間もない甘ったれだと、言葉で解決しようとする。

 話が簡単で助かると、どちらもそう思い臨戦態勢へと移行した。


【縮地】


 どちらからともなく、スキルを発動した。

 一瞬で両者の姿が掻き消え、外套が宙を舞う。

 次の瞬間には金属音が響き渡った。


 女性は上段から大剣を振り下ろし、青年は鞘に納められた刀で受ける。

 鞘は破壊され、抜身の刀身が銀世界を反射した。


 打ち合うのは不利と見たか、青年は後ろへ大きく飛び退く。

 追撃は来ない。

 女性は様子を見ているのだろう。


「かなりの業物と見た。素晴らしい剣だ」

「君のこそ良い剣だ。魔剣に成りかけで」


 青年の刀は、東方の一部に伝わっている製法で打たれた物だ。

 使用者の技量に依存し、担い手次第で鈍にも業物にもなる。

 

 対して女性の大剣は大量生産された質の悪い物だ。

 しかし、幾多の戦いを潜り抜け、多くの血を吸ったのだろう。

 魔剣へと変貌しかけていた。


 魔剣には大きく二種類存在する。

 最初から魔剣として打たれるか、戦いの中で魔剣へと変貌するかだ。


 多くは狂気に染まった鍛冶師が多くの命を糧に剣を打ち、執念と憎悪が魔剣へと変貌させた物だ。

 この魔剣を持った者は狂気に呑み込まれ、短い内に命を落とす。執念や憎悪を広げるかのように次の者へと渡る。

 絶望を広げるかのように。

 

 彼女の持つ大剣は後者の例だ。

 戦いの中で使用者の意欲を汲み取り、魔剣と成る。

 その強い意志を反映してか悪影響を及ぼすことはない。戦いに身を置く限りは。

 だが、一線を退いた途端に、それは牙を剥く。

 担い手を狂気へと引き摺りこみ、肉体の主導権を奪おうと目論むのだ。


 強靭な意志を持ち続ければそれを御する事も出来るが、そのような事例は極稀だ。

 その様な意思を持つ聖人は戦いへと身を置かず、魔剣と変貌する事もないからだ。


【縮地】


 再び発動されたスキル。両者の姿がまたもや掻き消える。

 その姿が現れた時、青年は独特の構えを取っていた。


 上半身を捻り腰を沈め、刀を懐へと携えた姿。


【一閃】


 スキルを使用する青年。

 それが実行されるまでの時間は一秒にも満たないだろう。


 スキルを発動する間はないと判断した女性。

 青年に叩きつけようと大剣を大きく振りかぶりる。


 振り抜かれた刀と振り下ろされた大剣。

 白い閃光のような美麗な斬撃と、叩き潰すような無骨な斬撃。


 またもや金属が打ち付けられる轟音。

 女性は大剣と共に大きく後ろに仰け反り、青年は痺れたのか右腕を軽く振っていた。


 互いの武器に破損はない。

 隙なく構える両者。

 一瞬の判断を間違えていたら命はなかっただろう。


「いや、凄いね。大剣をそんなに早く振り下ろすなんて」

「お互い様だ。まさか弾かれるとは思わなかった」


 彼女の心は久しぶりに高揚していた。

 自分が振り下ろした大剣を防がれた事など、一度もなかった。

 そもそも、最初の打ち合いに対応できる者すら稀なのだ。


 事もなげに発動した【縮地】すらも、身に付けている者は極僅か。

 武術を極めた者のみ習得する事が出来る、奥義の一つなのだから。


「惜しいな、何かの思惑で剣を合わせるなど勿体ない相手だ」

「依頼以外の戦いなんて御免だよ。面倒だ」

「ふふ、違いない。お前とは別の場で会いたかった」

「こっちもだね。案外気が合ったかも」


 しかし、依頼を受けた傭兵だ。

 同郷であれ知己であれ、傭兵として敵対すれば排除する。

 依頼は絶対。それが傭兵の間で発生した共通認識だった。


【地突震】


 スキルを発動した女性。おもむろに大剣を振り上げ、地面へと叩きつけた。

 積もっていた雪が舞い、女性の姿が紛れた。

 同時に衝撃が青年を襲う。足を取られ、僅かに体勢を崩す。


【縮地】


 隙を逃す女性ではない。止めを刺そうとスキルを発動した。


【兜割】

 

 今まで片手で扱っていた大剣を両手で持ち、背中へと構え溜めの姿勢を取る。

 僅かに一秒にも満たない溜め。何もかもを叩き潰すであろう一撃が、青年に放たれた。


【受流】


 スキルを使用した青年。

 垂直に振り下ろされた大剣へと斜めに刀を添え、そのコースを反らす。

 

 大地へと叩きつけられた大剣。

 雪が吹き飛び、地面が隆起した。

 驚愕した女性。まさか、受け流されるなど露ほども考えていなかった。


 視界の端では、銀色に輝く一振りが見えた。

 未だに体は硬直し、動くことさえ叶わない。


 直後、強い衝撃と激痛が襲う。

 終わりか、と女性は闇に呑まれる中で、そう思った。




―――




 ほのかな暖気で目が覚めた。


 ハッとして身を起こすと、テントの中だと気付く。

 掛けられていた毛布を寄せ、外へ出ようとする。

 

「やめといた方がいいわよ。外、凄い吹雪だから」


 背後から声を掛けられ、心臓が跳ね上がる。

 そちらを向くと一人の少女が本を読んでいた。

 彼女よりもかなり背が低い、成人もしていない少女だ

 敵意はないようで、彼女には目もくれない。

 枕元には彼女の大剣も置いてあった。


 数分の間ペラペラと本を捲り、一つため息を吐くと本を閉じる。

 

 置かれていた鍋の蓋を開けると、それを器に注ぐ。

 濃厚な良い匂いが女性に空腹を自覚させた。


「貴女の分よ。毒なんて入れてないから安心なさい」

「いや、ありがたい。空腹だったのを思い出したところだ」


 多くの野菜が煮込んであるシチューだった。

 一口含むと、濃いミルクの味が一杯に広がった。

 それに、多くの野菜が溶け込んでいるのだろう、口当たりが良くくどくない。


「…美味いな、なんだか暖かい気持ちになる」

「あらそう、それはよかった」


 余程空腹だったのだろう。あっと言う間に食べ終わる女性。

 その間、少女は本を読み続けていた。

 食べ終わり一息つくと、周りを見渡す余裕が出来た。


 宿屋の個室程の広さはあるのだろう。

 中央には暖気を出す魔具が置かれている。おかげで、テントの中にも聞こえてくる程に強い吹雪でも、寒さはそれほど感じられない。


「…どうして私を生かしたんだ?」

「さあ? あっちで寝てるアイツに聞いて」


 少女が指を差した。顔を向けると、自分を負かした青年が横になっていた。

 静かな寝息が聞こえてくる。眠っているのだろう。


 果たして、気を失う直前の激痛はなんだったのか。

 体を探っても、打撲痕があるだけで切り傷はない。

 恐らく、青年の持っていた剣の峰で殴られたのだろう。


「貴方【毀し屋】でしょ」


 本を読んでいた少女から自分の異名を告げられ、彼女は驚いた。


「知っていたのか」

「その魔剣崩れ、有名よ。敵をミンチみたいに叩き潰すって。こんなに大人しい奴とは思わなかったけど」


 確かに、彼女は【毀し屋】と異名を付けられていた。

 理由は単純、身の丈以上もある大剣で敵対者を叩き潰してきたからだ。

 ある者は恐怖し、ある者は怯え、ある者は命乞いをした。

 その全てを叩き潰し、殺してきた。


「彼にも魔剣と言われたが、君たちにはそれが分かるのか?」


 無防備にも彼女の横に置かれていた大剣を持ち上げる。

 かなりの重量がある筈なのだが、軽々と片手で。


「もう魔剣でもないけどね。アイツに負けたでしょ? それでもう見込みは無くなったの。だから魔剣崩れ。よかったじゃない」

「ああ、魔剣からは悪い噂しか聞かないからな。望んだわけでもない」


 【毀し屋】に影響はなかったが、いずれ将来はおかしなことになっていたのかもしれない。

 きっと、これでよかったのだろう。

 

「今更なんだけど、貴女も依頼を受けたのよね。向こうの領主から」

「ああ、恐らくは君たちも同じような依頼なのだろう?」

「なんて依頼? 私たちは斥候と、侵入者をどうにかしろって依頼」

「私もだ。侵入者は始末しろと依頼を受けた」

「そうなの。それについてなんだけど、これ見て」


 そう言って、少女は水晶玉を【毀し屋】に見せた。

 そこには、ある風景が映し出されていた。


 【毀し屋】に依頼をした領主。

 あまり多く喋らない、寡黙な男だったと記憶している。

 その男が、相談役と紹介を受けた初老の男と話をしているのが見えた。


『首尾はどうだ』

『順調であります。奴めの魔剣も間もなく手に収まる事でしょう』

『あの兄を挑発したかいもあった』

『これで領主様も認められるのです。彼らと共に野望へと邁進する事を』


 相談役がそう言ったのを最後に、映像は途切れた。


「これね、過去を覗き見た物だけど、貴女の雇い主の目的、その魔剣だったみたいね。心当たりはある?」

「ああ、少し前から剣を売れだとか剣を奪おうとする輩がいてな。悉く叩き潰してきたんだが、恐らくは」

「まあ、もう魔剣とも言えないけれど。分からない奴には分からないし。どうでもいっか、そんなこと」


 ―――さて、どうするか。 


 しばしの間、熟考をする【毀し屋】

 今からあの街に戻ってもロクな事にはならないと思った。幸い、あの街に残して来た物も無い。

 少し長めに宿を取ったから残りの宿賃は勿体ないが。


「ところで」

「どうした?」


 先ほどまであった水晶玉が消え失せ、青い外套を纏った少女。

 何事か、と【毀し屋】は身構えた。


「言いそびれてたんだけど、攻撃が来るわ」

「―――へ?」

「二秒後に」

「なあああぁぁ!?」


 ちょうど二秒後、空気を切り裂く甲高い音の直後、三人が休んでいたテントを中心に巨大な爆発が発生した。

 雪を溶かし、地面を抉る。跡形もなく何もかもを蒸発させた。

 残ったのは【毀し屋】の持っていた魔剣崩れのみ。


 数十分後、爆心地には一人の男が立っていた。


「手に入れたぞ、新たなる魔剣」

 

 持ち主の去った魔剣は新たな持ち主を探し求める。

 その特性を発揮してか、かなりの重さを持つはずの自らの重さを気取らせない様に。


 魔剣を男が持ち上げた瞬間、それは姿を変えた。


 まるで肉が膨張するようにボコボコと音を立てる、金属ではありえない変化

 自重しか取り柄のなかった重厚長大な安物の大剣から、全てを切り裂きかねないクレイモアへと。

 新たなる担い手を得た事で、その性能を特化させたのだ。


「認められたようだね」


 男の陰から、一人の女性が現れた。

 跪く男。一つの街を管理する領主とは思えない行為だ。


「ようこそ、魔剣教団へ。新たなる同志を歓迎しようじゃないか」


 そして、二人の姿は消え失せた。

 雌伏の時を経て、後に【剣能大戦】と呼ばれる戦いの原因ともなった教団が、初めてその姿を確認された瞬間だった。




―――




 再び、吹雪で荒れてきた雪原。

 白一色の世界に、赤い光が滲んでいた。

 テントの中で休息をしていた三人だ。


 今はかまくらを作り、その中で話し合っている。


「君の魔剣、取られちゃったけど」

「買おうと思えば似たような剣も買える。思い入れはあったが、な」

「魔剣に成りかけるなんて、余程に使い込んでたのね。どれくらい使ってたの?」

「傭兵になった当時からだ。当時は貧乏でな。重くて誰も持てなかったらしく、格安で買ったんだ」


 つまり、あの重厚長大な剣を扱っていたのは、紛れもない彼女の膂力だったという事だ。

 魔剣に認められるでも御すわけでもなく、ただ単純に一本の剣として。


「依頼に嘘があったみたいだけど、どうする?」

「あいつらの場所は分かるわ。取り返すのなら手伝うわよ」


 少女は地図を広げた。

 各国の位置やそれぞれを繋げる道など。

 様々な情報が細かく記載された詳細な地図だ。


 これを見て、表情には出さないものの【毀し屋】は驚いた。

 これほどまでに精細な地図など、存在したのかと。


「これは?」

「世界地図よ。精度は問題ないわ」

「信頼していいよ。この子の探知は凄いから」


 【毀し屋】もその地図を眺める。

 北に位置する緑色に点滅している点。恐らくはこれが現在位置だろう。

 近くにある国とも合致している。


 そしてもう一つ。

 赤色に点滅している点があった。

 この場所よりもずっと南の方にある国から、少し東にずれた場所。


「もっと近くに行かないと詳細は分からないけど、大まかな場所を探すには十分ね。この赤い点よ。さっきの奴の居場所は」

「ここってなんだっけ? 記憶にないんだけど」


 その場所は確か、と【毀し屋】は思い出した。


「かなり広大な森だったハズだ。国に管理されて立ち入りが制限されていた。近くには小さな村もあったが…」

「つまり国が絡んでるかも、って事ね。面倒な匂いがするわ」

「だね。こっちの依頼主も殺されたみたいだし、ざまあないね」


 青年と少女を雇っていた、横柄な領主。

 彼は殺されていた。

 

 青年が依頼を受けた際の去り際に部屋の隅に投げたビー玉が、その一部始終を捉えていた。

 隣の領地に向けて兵を出しそれらがすべて薙ぎ払われた。

 恐らく、青年らのテントを爆撃した魔法と同じ物だろう。


 その情報を聞き、恐慌状態にあった領主へと兵が剣を突き刺す場面を鮮明に。

 物資は奪われ女子どもは犯され、残った男は殺された。

 街は火に呑み込まれ、今はもう跡形もないだろう。


 それらも全て、少女の探知によって既に彼らの知るところだ。

 同じ国の者を殺すなど哀れな事だ、と彼女は考える。


「それで、どうする? ゆっくり歩いて一か月以上かかる距離だけど」

「魔剣などには興味ないし、報酬も無しに動くのも億劫だ。しばらくは放っておくよ。しかし、魔剣教団か…」

「中々に興味深いわね。魔剣でも崇め奉ってるのかしら? あんな不出来な代物を」

「ま、惹かれる人は惹かれるんだよ。不思議な魅力があるのさ、魔剣にはね」


 【毀し屋】も何度か魔剣を持った者を相手取ったことがある。多くが異常な言動をしている者で、とても正気とは思えなかった。

 しかし極稀に、それを御し手懐けている者もいた。

 不可視の斬撃を飛ばす魔剣、斬り付けた物を焼き尽くす魔剣、あらゆる物を両断する魔剣などなど。

 奪われた自分の大剣がどんな魔剣だったのか気になりはしたが、どうでもいいだろう。


 そういった者は例外なく強力だったと【毀し屋】は回想した。

 それら全てを叩き潰してきた彼女が言うのもなんだが。


「ところで今更なんだが、君たちの名前はなんだ? 私はフォルテだ。農民の出でな、家名はない」

「私はペンギンよ。そっちの男がダチョウ。変な名前だけど気にしないで」

「鳥の名前なんだけどね。ま、気にしないでよ」


 そう言ったダチョウはスープを飲む。

 雪を溶かした水を使い、野菜の切れ端と肉の欠片が浮かんだ、澄んだスープ。


 先ほど食べたシチューと比べると流石に質素だが、美味しい。

 三人共に静かに飲み干し、空になった器をどこぞへと片付けるペンギン。


 ふう、と一息つくフォルテ。

 こんなにのんびりしているのは久しぶりだった。


「ところでフォルテ」

「なんだ? ペンギン」

「提案なんだけど、一緒に旅をしない?」

「…いいのか?」

「ええ、フォルテも一人なんでしょ。旅は多い方が楽しいわよ。けど、アイツは気にしないで、ただのキチガイだから」


 その言葉に一瞬ムッとしたダチョウだったが、次の瞬間にはケラケラと笑っていた。

 そしてこう言う。


「キチガイなんて酷い言い草だね。ただちょっと、戦いが好きなだけだよ」


 ため息を吐くペンギンだったが、長く共にいる相棒だ。

 この性格は理解していた。

 まるで喜怒哀楽の怒りと哀しみが抜け落ちているような、楽天家であり戦闘狂。

 救いと言えば、無闇矢鱈と殺しはせず、ただ強敵との戦いを望んでいる事だろうか。


 ペンギンが最高峰の探知・援護能力者ならば、ダチョウは最高峰に位置する戦闘能力を持つだろう。

 と、言うより、どうやったら殺せるのだろうか。まるで対処法が見つからない。

 そもそも、ペンギンの戦闘能力などたかが知れている。戦闘には向いておらず、単独ではフォルテにさえ勝てないだろう。

 もちろん二人の戦いを水晶玉から覗いていたが、やはりおかしいと思っていた。


 ―――あれで本気じゃないってんだから、狂ってるわね。


「聞いたでしょ? 戦バカなの。無視しても構わないから」

「いや、私も似たようなものだ。傭兵を続けているのも戦いがしたいからだしな」

「やっぱり、フォルテさんとは気が合うね。演習でもしようよ、今度」

「うむ、望む所だ。次は負けんぞ」


 ガッシリと握手をするダチョウとフォルテ。

 二人の表情には、強敵と闘う事が出来る歓喜が浮かんでいた。


 それに反して、顔を青褪めるペンギン。

 もしやとんでもない事を言ったのではないかと、今更ながら後悔をした。


「それじゃ、どこ行こうか? しばらくは依頼を受けなくても食って行けるだけの蓄えはあるけど」

「東の方で闘技大会があるらしい。そこがいいだろう」

「闘技大会かぁ…いいね。賞金も出るだろうし」


 意気投合し、行き先を決めるフォルテとダチョウの二人。

 やれやれ、と肩を竦めて承諾するペンギン


「ところでフォルテ」

「なんだ、ペンギン」

「その指輪、なんだけど」


 フォルテの右手薬指には、指輪がされていた。

 鈍く光る銀色の台座に紅く輝く宝石が嵌め込まれた、年代物の指輪だ。


「ん? ああ、先祖から伝わっている物らしくてな。かなり古い代物だ。くすんでしまってな。汚いだろう?」

「いえ、とてもいい指輪だわ。大事にしなさいよ。いつか、貴女の子どもにも伝えるためにね」

「…ああ、ありがとう」


 次の日、奇跡的にも晴れ渡った空の下、三人は旅を続けた。


 そしていつの日か、ダチョウは異名を付けられた。

 至極当然だろう。あらゆる状況下で、雇われた勢力に勝利を齎すのだから。

 自らの為に、自由に生きていた。


 ペンギンはどうしてか、教育を重視した機関を設立した。

 傭兵時代に築いた多くの繋がりや資金を元に、一部の者に専横された奥義の使用を認めさせた。

 多くの為に、不自由を承知の上で。


 フォルテは伴侶を得た後、子を遺して逝去した。

 しかしその血筋は脈々と、次代へと受け継がれていく。

 戦いへの執念と共に、その遺志は生き続けていた。

リハビリと言いつつも、あまり文字を書く時間が取ることが出来ないこの頃。

脳内にあった文字を書き起こすのに時間がかかってしかたありません。


※以下、一部用語解説

・魔剣

 鍛冶師が多くの命を犠牲に執念と憎悪を刀剣へと打ち込んだ魔剣と、通常の刀剣が多くの命と血潮を浴び変貌した魔剣の二種類が存在する。

 尋常では考えられない強度を持つ他、魔法のような能力を持つ場合もある。


・【毀し屋】

 フォルテに付けられた異名。

 戦場で出会った敵対者を叩き潰してきた過去から名付けられた。


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