舞踏会への誘い
「そういえば…。」
ようやく昼餉を始めた三人。
箸の手を止め、王欄は話を切り出した。
「今夜、鹿鳴館で舞踏会が行われるそうだ。どうだい?二人も…。」
「嫌です。」
「行かない。」
即答する二人。
王欄は思わず溜め息を付いた。
しかしこれくらいで落ち込む訳にはいかない。
王欄の瞳が鋭く光る。
「鹿鳴館の舞踏会といえば各界の著名人や多くの外国人が出席する。お前達にとって、良い機会になるだろう。」
「残念ながら俺はそのような場が苦手なので。」
「知らない人と話すのは苦手…。」
「…全くお前達は似た者同士なのだなぁ。」
苦笑する王欄。
そんな彼に見向きもせず、二人は黙々と食事をしている。
「だが、二人とも僕の意見に従ってもらうよ?」
柔らかい口調でありながら有無を言わせない物言いに、夏樹は思わず箸を止めた。
「王欄さん、いつもそうやって強引に物事を進めるのはいかがなものかと。」
「ははっ。なにを言っている。お前達は我が邸の下宿人なのだぞ?主の言う事を素直に聞き入れるのが筋だと思うのだが。」
「ぐっ…!」
輝かんばかりの笑顔で言い放つ王欄。
夏樹は返す言葉を失った。
「し、しかし…。」
「しかしもだってもなーい!では二人とも、午後6時までに用意をして置きたまえ。」
王欄は口早に言い、部屋を出て行ってしまった。
しばしの沈黙。
「ねぇ、星羅。なんとかして王欄さんを…。」
夏樹は彼女の意見を聞こうと振り返り、思わず目を見張った。
彼女の姿は見当たらず、代わりにあったのは桜色をした一枚の和紙。
和紙には流れる様な達筆で
【話が長いので部屋に戻ります。】
と、書いてあった。
和紙を手にした夏樹の手が震えている。
「どいつもこいつも…。」
彼は思い切り、和紙を投げ捨てた。
舞うように和紙は窓を抜け、澄んだ青空に溶ける様に消えていく。