昼下さがりの午後に
ーーーー時は明治。
文明開化により洋と和が混在し、なんともいえぬ独特な雰囲気を醸し出す。
人々は着物や袴、時には仕立ての良いスーツや華やかなドレスを着て街へと繰り出した。
ある日の昼下がり、街のアイスクリン屋の前で影月星羅は佇んでいた。
雪の様に透き通った白い肌に対照的な漆黒の長髪。
憂いを帯びた紫色の瞳に、形の良い桜色の唇が映えている。
美しく洗練された雰囲気を漂わせる少女に街ゆく人は思わず足を止める。
しかし、当の本人は悲しげに目を伏せて
「お腹が空いたわ…。」
と、力なく空を見上げている。
旗から見れば一枚の絵画にもなりそうな光景なのだか彼女は構わず続ける。
「どうして甘い物ってこんなに魅力的なのかしら。こうやって私を常に誘惑する…そんな誘惑には断じて屈しないけれどやはり…」
星羅は言葉を続けようと一旦深呼吸。
すると、耳元で深いため息が聞こえた。
「君さ、迷子になるのが趣味なの?」
彼女が振り向くと不機嫌そうに腕組みをする青年、天草夏樹が立っていた。
若葉色の柔らそうな猫毛を耳まで伸ばし、同色の羽織りを着こなしている。
一見大人しそうな印象を受けるが、彼の涼しげな瞳から放たれる冷たい視線は心の奥深くに突き刺さる。
「どうかしたの?」
星羅は心配そうに首を傾げる。
その動作の一つ一つでさえ色っぽいのだが、彼には効かないらしい。
「それはこっちのセリフだよ。君が散歩に行きたいって言うから渋々来てみれば、すぐにどこかへ行ったり突然ぼーっとしだしたり…。付き合わされてるこっちの身にもなってくれる?」
「…もうお昼ね。帰りましょうか。」
機関銃の様な夏樹の言葉を無視し、星羅は歩き出した。
「君って本当いい性格してるよね。」
「…褒め言葉として受け取るわ。」
夏樹は再び溜め息をついた。