運命 ~生きるということ~
「俺、たまに〝なんで生きてるのかな〟って思う時があるんだ。」
一人の青年が河原に寝転び自身の隣にいる青年に語りかけた。青年の名は神原輝。茶色の髪に、黒の瞳といたって普通の男子高校生である。
「はぁ?俺にそんなこと聞くな。逆に俺が聞きたいくらいだ。」
昼時だからだろうか。弁当、と言うわけではないが購買で買ったカレーパンを頬張りながら答えた。
彼の名は酒井信乃。勉強・運動が完璧で文武両断とはこのことを指すのだろうと思える人物だ。
「それを俺はオマエに聞いてるんだ!お前完璧だろ?神だろ?」
ブーブーと言っている姿はまるで子供。完璧な信乃に釣り合うのだろうかと感じてしまうほどに。
「んな人間居るか、ってんだ。人間、皆完璧じゃねェンだよ。」
パンと一緒に買った牛乳で噛みかけのパンを無理やり胃に通す。
「ふん。どーせ俺なんてもっと駄目ですよ。駄目男なんですよ~だ。」
「拗ねるな。ほら、行くぞ。」
顔を背けて寝転ぶ輝を叩き起こし歩く。後ろからゆっくりと輝がついてきた。
「はいはい。」
「返事は一回。」
「は~い。」
これはいつもの会話。信乃が輝を引っ張り進む。
「ところで、さっきの話。どういう意味だ?」
「……。生きてるって感じるときってねェなぁ。と、思ってよ。」
河原沿いの道を歩き二人の男子高校生は学校へ向かい歩く。
「お前って何かとネガティブだよな。」
「ぅるせぇ!」
あきれたように信乃は言う。確かに、周りの人間から見ればそう言う風に聞こえるだろう。
「そうじゃねェか。人間、生れたときから死に向かって生きてんだぞ?生れた瞬間から死ぬ瞬間まで何して生きてけばいいんだよ。」
右腕を伸ばし太陽と重ねる。輝の手の黒く大きな影が顔に映る。
「そのために勉強してんだろ?これから死に向かって生きていくためのよぉ。独りで生きていくためのさ。」
「ま、そうなんだけど。」
腕をおろし今度は伸びをする。信乃もそれに習って伸びをした。パンのごみを入れている袋がシャカシャカと音を立てる。
「~っ。夢があるやつは良いよな。その夢をかなえるために一生懸命勉強したりしてよ。」
「んなこと言うんだっらお前も夢、見つけりゃ―良いじゃねェか。何をそんなに悩む。」
手首にビニールを通し腕はポケットにしまう。5月の心地よい風が二人の頬を撫でた。
「これからどうしよっかな~と。」
「それだけ?そのことだけで〝生きるとは〟みたいなこと話したの?」
「そゆこと~」
いたずらっぽく笑う輝を見て信乃はあきれ返る。
「おまえな~。そ「でもよ。」
信乃の言葉を途中で止めるなんて輝らしくない行動。輝の表情は信乃には見えなかった。
「確かに、そう思う時があるんだ。〝なんで俺は生きてんだろう?〟、〝何のために生きてんだろう?〟ってな。」
二人の通う学校が見えてきた。輝は何を考えこう言ったのだろうか。信乃は黙って、輝のその言葉を聞くことしか出来なかったのだ。
「お袋も死んじまってるし、だからと言って親父にも相談できねぇだろ。」
クシャッと悲しそうな笑顔を見せる。
「だからオマエに言ってみたんだ。ま、やっぱり予想通りの返事だったけど。」
今度はいたずらっぽく笑って見せた。
二人を包むようにして再び風が吹いた。とても優しい風が。
「予想通りで悪かったな。」
「ははっ。」
少し拗ねたような表情を見せる信乃はどこか子供だ。しかし、それと同時に輝の良き理解者でもあった。
輝は幼いころ母親を亡くしそれから父親は仕事三昧になった。
そのせいかどうかは分からないけど、そのころから輝の成長止まっていた。
心の成長が。
いくつになっても子供っぽい思考は時には柔軟性があり、大活躍するもの。
しかし、それと反面に失敗も多い。
そんなときに信乃が現れた。
信乃は逆に子供のくせしてあまりにも大人びた思考の持ち主だった。
それプラス天才的な頭脳・運動神経の持ち主。
あまりにも同い年の子とかけ離れていた彼はいつも一人でいたのだ。
そうしてるうちに二人は出会った。
自分と正反対でそれでも何か惹かれる者を持つもの。
運命的にこの二人は出会ったのだ。
それを、〝生きると感じたとき〟と言わず何になるのだろうか。
「ほら、授業、始まるぞ。急げ、輝。」
「分かってるって。」
二人は駆け出した。これから先へ、これからの自分たちのために。
二人が出会えたこと。それこそが
運命であり
生きると言うことなのだから。
生きるとは それは人によって違う見方ができる課題です。
わたしはそれを、「運命」とかけてみました。
運命というのは、生まれた瞬間からそこに行き、そこで会うというものだと思います。死ぬのも、生きるのも、運命。それはイコール運とつながっていると考えました。
それを生きるという。運命というのが生きるであり、生きるのが運命だ。
ちらりとそう考えました。このお話はそれが伝えればよかったと思います。
長々となりすいません。ここまで読んで頂きありがとうございました。