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八十七話・巨頭転教

   

 緑人を露払いに、白馬に騎乗した聖者ゴンガが眩い聖光の中に上陸する。

 一平はボッチョとイムヨウの想念するゴンガ・ラーマに成りきっていた。


 下馬した一平に、自由ヤンゴルモア総統モア・キン・シェキが恭しく口上した。

 「中央国を代表し、ゴンガ・ラーマ・ラモン師を熱烈歓迎いたします」


 年のころは五十半ば、額の一部に僅かなケロイドを残していたが、端正な顔立ちで、薄く曲がった唇に怜悧さを見る。

 「マンシン軍を帰順せしめた御威光は聞き及んでおります。この度の御来賓の機会、何卒、我等が中央国の民に許しを授け、膝下に置かれるようお願い申し上げます」


 そして、総統は小声で「中央国ヤンゴルモア統一に、是非とも尊師の助力を頂きたい。歓迎晩餐はトワンハイ・スタジアムにて用意しているので、癒しのパフォーマンスをお願いする」と、耳打ちした。



 夜の帳に包まれた荒廃のトワンハイ市、スタジアムのみが煌々と闇の中に浮かび上がっている。


 次々と催される芸能と一糸乱れぬ人文字、祝砲と花火、巨大スタジアムは空前の晩餐会に揺れた。

 荒廃の真っただ中、世界総飢餓と言える時に、まさに、酒池肉林の宴、豪華絢爛を絵に描いたような一大イベントである。


 極めつけの盛り上がりは、中央国の誇る偉大なる幻影師イリュージョニストジャムン・ハーによるマジック・ショーだ。


 「伝説の魔術師ハーのショーが見られるとは、演出家冥利に尽きる!」

 ボッチョ・マコは興奮の態だ。


 七色に変化する光の渦と盛り上がる音楽の競演。

 金色の衣を纏った大柄な中年男が、踊るように舞台の中央でステップする。

 壁画の中に描かれた鳩の群れを一斉に会場中を飛ばせて再び絵の中に戻したり、等身大の布袋からライオン、虎、象などを取り出し、舞台上を歩ませては、布袋に引き戻す。

 そして極めつけは、巨大な極彩色羽毛の暴君竜ティラノザウルスを出現させ、地響きと耳を劈く咆哮は会場全体を震撼させるのだった。


 全ての幻が消え去ると、闇の中から大鉈を携えた首切り人が現れ、ジャムン・ハーの首を刎ね飛ばした。

 ハーの首は大声で笑いながら会場中を飛び回って、観客の心胆を寒からしめ、やがては処刑人の小脇に抱えられて闇に消えて行った。



 宴もたけなわ、モア・キン・シェキの連呼が会場全体を包む時、スポットライトに、総統が立ち上がる。


 「今日、偉大なるゴンガ・ラーマ・ラモン尊師を迎えるにあたって、我等中央共和国こそが全ヤンゴルモアの盟主たるを宣言する。我等は尊師を讃え、手を携えて栄光に前進する!」

 総統は膝を折って一平が中央台に登壇するのを迎えた。


 モアが耳打ちする。

 「イッペイ殿、癒しの芸をお願いする」

 「芸?」

 「失礼、演出でしたな」モアは訳知り顔で目配せした。


 登壇した一平は目を爛々と、大音声に告げる。

「飽食の宴に酔いしれる人々よ!耳を澄まして母なるテラ(地球)の呻吟を聴くが良い!

 今や世界は瀕死に喘いでいる。飢えの中、放射能、化学汚染、疫病、打ち続く天変地異に苦しみ、全てが恐怖と絶望の闇に沈んでいる。この果てしない闇こそ、一人一人の飽くなき欲望が作り上げたもの。

 人は皆、裸で生まれ、裸で死んで行く。財産や権威や権力等は何の意味も無いのです。愛無き世界は無限の孤独であり、愛と許し無き人類こそが滅びの道を歩んでいるのです」


 一平は手を広げた。

 「ダルマラーマの名に置いて告げる。弱肉強食への阿りを捨てよ!そして、心を信じる者、愛と許し、そして感謝と悔いに縋る者こそ癒されよ!」


 凄まじいどよめきがあった。

 癒されし者と癒されざるが入り混じり、喜びと悲しみが交差し、其の叫び声は混乱に一層の拍車を駆ける。


 総統が血相を変えて登壇し、怒りも露に詰問した。

 「メチャクチャだ!何故、業の踏み絵を謀り、差別の呪術をかけるのか?」


 一平は圧するかに、ケロイドを浮き上がらせて震えるモアの両肩を抑えた。

 「選択は、それぞれの心の内に在る。貴方の肉体的苦痛も自らが手離したくないからなのです」


 モアは言い返そうとするが、一平から奔流のように流れ入るものに圧されて跪いた。


 やがて、歯を食い縛って呻いていた総統は一平を見上げた。

 「貴方は心の沼底に潜む秘密をバラクーダのごとく食い散らす」

 「否!汚泥の中から真珠の光を解き放ったのだ!」

 一平が降壇した後、取り残されたモアは抜け殻のようにへたり込んでいた。


         … …    … …


 モルモネが一平の肩に止まり、羽繕いしながら囁いた。

 「イッペイ、一皮剥けたようだな。我は一先ず御暇するが、また来るゾイ」


 翌朝、一平に面会するモアは清々しく、その額から跡形もなくケロイドが消えていた。

 ジャムン・ハーと共にヤンゴルモアの支配者は膝を屈して請う。

 「尊師よ、昨日までの自分と、今日の自分とでは、身も心も別人と成っているのを実感しています。改めて、友人のハー共々尊師に帰依を致したくお願い申し上げる。お許し頂ければ、総統モア・キン・シェキではなく、救いを求める一人の僕として、エルサレムまでお供させて欲しい」


 「ヤンゴルモア統一の望は?」

 「所詮、生まれるも死ぬも独り。気張っていたのが馬鹿馬鹿しくなった。 今は、何もかも投げ打って、尊師に我が人生を捧げ、ひたすらに歩みたいのです」


 「ジャムン・ハー、貴方もですか?」

 一平は側らに跪く稀代の天才イリュージョニストに尋ねた。


 「私は真実の道を歩みたいのです」


 一平はモアの決断に賛嘆しつつも、一大決心の脱俗とエルサレムまでの巡礼同行を断らざるを得ない。

 「人には為さねばならぬ役割があります。来るべきヤンゴルモア統一とその後の政局に際し、総統を措いて束ねるには役不足。脱俗するは時期尚早です」



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