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八十六話・幻の海道

 

 頻発する噴火とその火砕流から追い立てられるように試練の旅は続く。


 ドトメから、半島基部の荒廃した山野を踏破してテンコク関門に辿り着いた時、巡礼集団は義勇兵にヤンゴルモアとキハンが加わり、五万を超える集団となっていた。



 関門を通り抜けてバホカクッソ平原を見下ろすと、一行は一面に咲き乱れるコスモスと東ヤンゴル湾に蒼く浮かぶ島々の景勝に歓声を上げた。


 所々に藁葺きの古民家が散在して、長閑な営みを見せている。

 ゆったりと流れる清流と群れ飛ぶ蜻蛉に、旅人達は束の間の安らぎを味わう。



 夕暮れの茜色に全てが染まり、チョウハク山系に連なる平原東部に巨大な椀を返したように聳える活火山チャンホーの頂上は、すっぽりと明るい雲に包まれていた。


 一行は山麓から海岸に流れる川沿いにキャンプし、数日後に迫る大潮の奇跡を待つのだ。



 追いかけるようにヌラヒョン将軍が百人ほどの取り巻きを引き連れてバホカクッソに現れ、巡礼合流を申し出た。


 「将軍はチョンポ将軍と共にキハン再建をするんじゃなかったのでは?」一平は戸惑いを隠せない。

 「キハンはチョンポに任し身を引くことにしました」

 「じゃあ、御夫人は……?」

 「それもあるのです。我妻ジャウの妊娠と心変わりは我を打ちのめした。チョンポに陵辱され、屈辱の日々を囲っていたはずが、何時の間にか不逞な征服者の虜に成っていたと言う体たらく」


 一平はリリトに目配せした。この手の話は女王の十八番だ。

 「ジャウさんはお幾つなの?」

 「四十八です」

 「チョンポ将軍は三十だから、……劣等感の強い若い権力者と、十八年上の美貌の嫂、征服者と被征服者。スタンプが強烈過ぎて、諦めて出てきたのは正解だわ」


 ヌラヒョンは膝を折った。

 「すべてを捨て、師と共に人生を歩むべく参りました」



          … …    … …



 「ゴンガ・ラーマ、リリトと選ばれし者たち、聖櫃を掲げてチャンホーへ登頂せよ!」と、水晶髑髏から指令が下った。


 チャンホー登頂経験のあるヌラヒョンを先頭に、選抜者百人が登歩する。


 落雷に曝されながら濃霧を歩むこと数時間、雲間を抜けて満天の星空の広場に待機していたのは巨大な光輝く葉巻状鳥船で、聖音が山頂全体に振動していた。


 荘厳な声があった。

 「ゴンガ・ラーマ・イッペイ、神への僕たれ!」

 耳を劈く雷鳴と共に、目の眩む電光が跪く一平を貫いた。

 燃えるような魂の熱さに喘えぎ、一平は心中深く刻印される契約の誓いに呻いた。


 「聖約は定められた!誓約者ゴンガ・ラーマに庇護と不死を与える!」

 大いなる声が山野に轟き渡った。




 大引き潮の前日、遂にバホカクッソ平原も噴火の洗礼に見まわれる。

 火砕流を避ける海際へのキャンプ地移動は、逃げ場を失った村人の合流と相まって混乱を極めた。


 夜半になり、吹き始めた風と共に潮が音を立てて引き始め、大海道が忽然として、湾内の小島で分けられた三十数キロに亘る姿を現した。

 迫り来る噴火に脅える群集は歓声を上げ、我先にと突進して砂に膝を取られ立ち往生し、あるいは潮に流される。


 「指示を待て!」トーラ兵が威嚇射撃で、暴走を抑え込んだ。

 もはや至る所、恐るべき火砕流が荒れ狂い、数キロ先まで焼け爛れた地獄絵図が迫っている。


 その時、一行は上空にストゥパ型の小型宇宙船スカウトシップが停まるのを見た。


 一条の光が浜辺に落ち、その中に人間の形を形成する。

 何と、モルモネ鳥を背負い木に止めた緑人が砂上に立ったのだ。


 「先導を果たすべく!」

 アンドロイドは大音声で口上し膝を折る。


 そして緑人は立ち上がり、「時は今!」と、大声で告げ、海道に踏み出した。


 一旦、ピノマントは膝まで沈み込んだが、進むに連れて道路の上を歩み始める。

 「もう沈まない!地面が固い!」


 ヨシワライに引き綱させた乗馬の一平を先頭に、トーラやミナカムイたちが後を取った。

 法螺と角笛が吹き鳴らされ、男も女も子供も動物も荷車も、奇跡の行進は広大な線となり延々と続く。



 朝ぼらけ、海霧絶え絶えに、対岸に見たのは、荒廃の山野を埋め尽くす膨大な人数だった。

 「中央国、西部ヤンゴルモア!」

 「西部ヤンゴルモア?」


 「中央共和国を称し、ヤンゴルモア最大の勢力です」と、ムンボポが告げた。



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