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八十話

 

 ヨミシャセ、否、全世界が注目する生放送が始まった。


 光線の乱舞するド派手な演出の中、女性アナウンスが入場する司会者のタチクラ・ソチと出席者六人の一人一人の略歴を披露した。


 中央のデスクに陣取った司会のタチクラが一平を紹介する。

 「今や世界の話題の中心と言っても過言ではない、ゴンガ・ラーマ・ラモン師を御紹介いたします。

 師は核の嵐を乗り越え、大国チャガタイとの武力紛争を収めたトーラ・ムセイオン・図書館大学院公国の若き指導者の一人として、或いは癒しの御業を行う聖者とも言われております。

 しかしながら、また一方において、ヨミシャセ帝国が収奪したアレクサンドリア・ムセイオン・カルタゴ等の膨大な文書と文化を、トーラ国ラッサに移築し、戦後もそのままに居座りを決め込んだカルト集団の捏造指導者とも。

 そこで今日は、噂話を検証し、真実をあからさまにすると共に、最近頓に浮つきを覚える世情の安定を図る一義に成ればと思います。

 因みに、中央に支えもなしに立っている一本の硝子棒と師の側らに控える神輿ふうの櫃箱に違和感を覚えると思いますが、これはムセイオン科学の撮影機械と、使命とやらに重要な聖櫃だそうです」


 タチクラは一平に問うた。

 「師は異星人、或いは、ヨミシャセ人と言う噂がありますが?それと、ラモンの再来で、救い主とも言われていますが?」


 司会者のいきなりの直球に、一平とヨシワライは暫し小声で話し合っていたが、ヨシワライが一平に代わって発言した。

 「先ず、師はネイティヴなヨミシャセ人でなく、装着している万能自動翻訳器を通してなので、暫し流暢とは言い難いのを了承して頂きたい」


 「万能自動翻訳器だって?それも、硝子棒同様ムセイオン科学かね?」

 タチクラは見下したような口調で尋ねた。


 「否、自動翻訳器はムセイオンでなく竜世界の鳥人科学由来の物です」


 タチクラは手を広げた。

 「竜世界?鳥人科学?メルヘンチック過ぎて常識的な年寄りは付いていきかねる……」


 一平が首のネックレスを示して口を開いた。

 「……大丈夫なようです。貴方の話も分かりますし、話せるようです。で、御質問をもう一度お願いできますか?」


 「飾り物を、良く調整して答えてください。貴方は何人なのか?それと、ラモンの再来で救い主なのですか?」


 一平は徐に答えた。

 「第一、私はガイアと言う異星のニホン生まれのニホン人です。第二の問い、ラモンその者ではないが、ラモンの記憶を持つ者である。そして、偉大な弥勒ユズキには及ばずとも、ダルマ・ラーマによる人類救助運動に協賛し命を賭ける一人です」


 「ユズキ?…精神界の王と世間を謀り、愛の革命とか称する世界転覆の罪で処刑された邪悪な両性具有のスメラ?」

 「弥勒は人類への最後の拠り所です」

 「しかし、人類に対する反逆罪で処刑された」


 「私利私欲のために、人類絶滅と自然破壊に邁進する者こそ真の犯罪者であり、人を愛し、国を愛し、世界を愛し自然を愛する者こそが救われるのです」


 すると、対面のヒャン・キョンボ教授が制するように声を上げた。

 「真面目にやって下さいよ。玩具の硝子棒を立てて、相互撮影と称したり、趣味の悪い飾り物を自動翻訳器等とおちょくったり、大仰にミニチュア神輿紛いの玩具を聖なる櫃等と虚仮脅したり、自らを異星人と自称したり、まして、カルトの凶悪犯罪者を肯定して自由統一戦線の根幹を揺るがすことが人類を救う等とは論外でしょう」


 ヨシワライが対面を見据えた。

 「真面目に?多大な恩恵をヨミシャセに受けながら、対外的にはヨミシャセを貶め、侮辱し続けて自らの利得を図ってきた何処かのダブルスタンダードじゃないぜ!師は嘘偽り無く申し上げている。自らの狭小な思惑を押し付けないで頂きたい」


 ヒャンは端正な顔を歪めた。

 「私の海外での反ヨミシャセ活動について挑発しようとしているなら見当違い。私は在ヨミシャセ・キハン人で端からヨミシャセに忠誠心などは全く有りませんから」


 サクヌマ女史が空かさず反撃する。

 「ヨミシャセに生まれ育ち、教授として国立ムサシ大学の禄を食んで、散々恩恵を受けているのに恩知らず過ぎるんじゃなくって?ならば、好い加減に売国の甘い汁を吸っていないで、裏切り者らしく戦乱の御国にお帰りになったら」


 ヒャンは鼻で笑った。

 「恩?売国?裏切り者?キハンの私にとっては寧ろ褒め言葉ですな」


 「此処はキハンで無く、ヨミシャセですわよ」

 「貴女の誇るヨミシャセは、反ヨミシャセであるハンカとチョサンヒの自由統一戦線の支配下にあるようですが」


 イウカ女史はドスを利かせるように声を沈めた。

 「それが、如何したって?大衆を扇動し狡猾に支配しているつもりでも、ヨミシャセ魂は生きているわ」


 「ヨミシャセ魂?そんなものが健忘症で軟弱な劣等国民の何処に在る。亡国のスメラ同様、貴女は哀れな過去の幻想を夢見て居られる」


 それまで手元の資料を所在なげに見ていたスックピ・トートンが話しに割って入るように「ところで、イッペイ!失礼、ゴンガ様はこの所あっちこっちに宣伝がきついようだけど、随分と儲かってるんでしょうね?」と、尋ねた。


 スクッピは中央に立っている硝子棒を指差して言った。

 「いろんな手品を使って世間を扇動しているようだけど、がっぽり稼いでウハウハ過ぎるんじゃねえの?」


 一平はスクッピの母国語であるオルマヤ語で答えた。

 「貴方のオルマヤティックな率直過ぎる問いには戸惑ってしまう。スクッピ、失礼、トートンさん、御心配をいただき恐縮ですが、そう言ったことはムセイオンの政冶経済機構と、何より精神文化が根本から異なりますので御懸念には及びません」


 そして、悪戯っぽくスクッピを指差した。

 「それに、個人的に言えば、私は矢鱈に金の掛かるキハン人の愛人を囲って不倫もしておりませんので、お金儲けの必要もありませんし、痴話喧嘩のために銃で撃たれることもないのです」


 スクッピは顔を引き攣らせ、一瞬ヒャン教授に目を走らせる。


 一平はにこやかに微笑んだ。

 「大丈夫!教授は秘密を口走るほど軽くはありませんよ。それにしても、スクッピさんと教授は親密ですね。特に、スクッピ夫人とヒャン教授の甘いセクシーな内緒の御付き合いは羨ましいかぎりです」


 冷静なヒャンが顔を蒼ざめさせ、狼狽えたように声を震わした。

 「一体、何を!」


 一平はオルマヤからキハン語に切り替えている。

 「愛し合うのは素敵なこと、不倫の快楽であっても罪と言えるもんじゃない。天知る、地知る、人知る。お望みとあらば、他の色々な秘密を暴露しても良いのですよ」


 ヒャンが呻いた。

 「私は手の内ってか?」


 一平は笑った。

 「下品なガセネタ紛いに大袈裟ですよ。それより何より、貴方自身が憎悪と権力欲からくる利己的な欲望のために、永劫の地獄に入りかけているのを懼れるべきです」


 すると、抑えるかにタチクラが「御静止を!オルマヤ、キハン、ヨミシャセ語が飛び交い、語学に疎い私には会話の内容が確と測り難いのですが、論題から外れているようです」と、声を上げた。


 そして、「先ずはゴンガ師に、自動翻訳器等について謝罪したい。ネイティヴのように、トーラのみならずヨミシャセ、オルマヤ、キハンを流暢に話すのは驚きました。因みに、その翻訳機は何ヶ国語に対応可能なのですか?」と、タチクラは話の矛先を振った。


 一平は告げる。

 「人語のみならず、生きとし生ける数万語を超える言葉に対応可能です。私自身は十数カ国しか試しておりませんが、……御懸念があれば、何語でも質問を受け付けます。貴方のお父さんの母国語である竜湾語でも宜しいですよ」


 タチクラは大きく息を吐いてから、カメラに正対し「初っ端から吃驚の展開です。さて、今日ゴンガ師に御来賓頂いたのは、救いなるものについての討論なのです。そこで、師より叩き台の論題となるムセイオンの人類救済の概略を御話し頂きたい」と、討論の本筋へ促した。


 一平は立ち上がり、タチクラに言った。

 「今日は司会兼コメンテーターとして、貴方の人生にとって画期的なものとなるでしょう。貴方の御嬢さんがハンカに人質に取られている立場や、この番組でムセイオンと弥勒を葬り去ることを契機に統一戦線をリードする野望はさて置き、真実に己が自身の魂の赴く所を見極め、素の心を持って対処頂きたい」


 タチクラは昨年ハンカに入信した長女ユキの教会区長抜擢のバーターに、教会への協力を余儀なくされている状況と今回の討論会における己が野望を突然に指摘され、息が止まった。


 一平は視聴者に訴えかけるように話し始めた。

 「私が此処に来たのは、決して無為な討論などをする為ではない!人類が滅びの瀬戸際にある真実をヨミシャセから全世界に知らせるためである。

 人間は忘れているが、融合と愛に生まれたはずの人類が、怨念と憎悪の渦に嵌り込み、闘争の果てに破滅するのは五度目なのだ。

 私利私欲のため地球を破壊し、これ以上の宇宙の調和を乱し続けるならば、神は又しても鉄槌を下さざるを得ない。

 先る年、聖ユズキ・弥勒が全人類の罪科を担って殉教したが、我々も又ユズキの決意を担わなければならないのです。愛を高らかに掲げ、自らを愛し、国を愛し、自然を愛し、地球を愛さねばならない。

 ムセイオンの愛の思想は辺境の荒地であったトーラと租借地を嘗て無く劇的に緑なす豊かな愛の地に変容せしめた。我等はトーラに倣い、世界の雛形であるヨミシャセを弥勒の愛で包み込み、人類を救うのです」


 蒼ざめたハンカのトイケ・スクケソが声を荒げて立ち上がった。

 「増上慢が!スメラのヨミシャセが自然回帰主義のお為ごかしに逆上せ上がり、上位国のキハンやヤンゴルモアを占領したばかりか、アジアとアフリカの独立を煽り、人種階級制度を崩壊させ、エウロパ諸国とオルマヤ、如いては全世界に多大な損害を与えたのを忘れたのか?

 お前等の語るミロクが、ハンカと光の家に愚かなスメラ思想を振り翳して立ち向った愚行の結果を御存知であろう。愛による自然との融合等の戯言を述べる奴らこそが、人類を苦境に陥れる張本人と言わざるを得ない」


 一平は興奮気味のスクケソを抑えるかに掌を向けて下ろした。スクケソは呻き声を上げ、身体を捻り下ろして座った。

 「狂信者よ、自然を破壊し、怨念と憎悪と利己を追求した現世利益の結果を見るが良い!人類の半数以上が死滅し、今だ災禍は過ぎることなく続いている。愛と許しを見失った人々は恐るべき生き地獄からの出口すらも見えてはいない。

 スクケソよ!蟠り(わだかまり)無く身辺を振り返るがよい。

 両親は業病に悶死し、最愛の息子は前途を憂い自殺している。妻は苦境に耐えられずに去って行った。全ての愛を失ってハンカのムサシ支部長の地位と権力と財を得たが、貴方は幸せなのか?放射能に日毎抜け落ちる自らの髪の毛に震えながら信心の足り無さを憂うる前に、自らに問い直すが良い。現し世は一瞬、魂は永遠。一時の欲望がため、永劫の地獄に苦しむのは愚かであろう」


 スクケソは崩れ落ちるように跪いた。

 「老いさらばえた私には全てが遅すぎる」


 一平は手を差し伸べた。

 「悔い改め、志を高く掲げよ。此の世には遅いと言うことなんかない。何事も決して遅くはないのです」


 縋るスクケソの頬は涙に濡れている。


 タチクラが驚きの声を上げた。

 一平の身体が床から浮揚し、光を帯びている。

 

 斯くして、ゴンガ・ラーマ・ラモンの脅したりすかしたり、時には陰からのリリト、イムヨウ超能力軍団による奇跡の演出に圧倒され、一平の独演会場と化して行く。


 光が迸り、会場全体が一平の波長に同調していた。


 生放送が終了するや、歓声と拍手が会場を包み込み、討論者と観客のみならず詰めかけた放送局の全員が総立ちで敬意を表した。



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