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南相馬・大悲山幻想異聞(目覚めよ!と呼ぶ声)  作者: 沙門きよはる
一章・転機(母の死と恵子との出会い)
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七話・告白

  

 恵子は海外から数週間ぶりに帰ると、日を置かずに一平と会う。


 「今回は何処に出張したんですか?」


 「出張じゃなく、ヴォヤージ(旅)よ。プロヴァンスに居る母に会ってから、ずっとモロッコでぶらぶらしてたの。心の洗濯が必要な時に行く秘密の所よ。あっ、話しちゃったから、もう秘密で無くなっちゃったわね」

 そして、楽しそうに「君は北アフリカに行ったことがある?」と、尋ねた。


 「いいえ。海外は小一にハワイに行ったきりです」

 「モロッコは最高なの。私のベースはアトラスの麓のマラケシュ。乾いた砂の香り、バザールとスークのざわめき、変わらない悠久の時、私はマラケシュの何もかもが好き。ね、今度は私たち二人で行かない?」


 二人旅の提案に、一平は心の泡立ちを覚える。

 「心の洗濯って?」

 「自分を見つめなおす時間を持つのよ。私にはそれが必要不可欠なの」

 「僕にも・・必要かもしれない。こう見えても、結構ナイーブなんです」

 「どう致しまして。十分ナイーブに見えるわ」恵子は笑った。


 恵子は話の流れから「そのナイーブな君にあえてお聞きするけど、一平君は反抗期って無かったでしょ?」と、切り出した。

 「如何して分かるんですか?」

 「典型的なマザコンですもの。エディップス(オイディップス)・コンプレックスって、知っている?」

 「言葉だけは」

 「古代ギリシャのオイディップス物語から来ているの。予言で、『父を殺し、母親と交わって子をなすであろう』と宣告される。父王は赤子のオイディップスを山中に捨てさせるんだけど、結局、成長したオイディップスは予言どおり実の父とは知らず父を殺し、母とは知らず母のイオカステと交わり結婚して子を儲けるの。フロイドがこの物語を根源的な欲望と葛藤を表しているとし、エディップス・コンプレックスと名付けたのよ」

 恵子は歌うように軽やかに話す。

 「人は成長する際、最初に認識する異性は、娘は父親であり、息子は母親だって言うのう。ところが、性意識が芽生えるに連れて異性親に激しい嫌悪感が生じて来る。それが所謂、反抗期。つまり、異性親を性的対象から切り離すため、と言ったところ。だからあ、反抗期を迎えない人は問題があるのよう。ことが面倒なのは、人間の行動様式を決定づけるのが、心の大部分を占めている無意識なの」


 「自覚できないってこと?」

 「無意識は闇の世界。湧き上がってくる性的意識と複雑に絡み合う道徳意識。その葛藤は強い軋轢となって、歪んだ状態で発露してくる」言い様は心当たりがあるようである。


 「反抗期を迎えないケースは三種類のパターンに分けられるの。一は湧き上がる衝動を表面の意識層から消し去ろうとするタイプ。二は素直に認めて正面から向かい合い、自己調整を図ろうとするタイプ。そして、もう一つは抑えのきかない反社会的なタイプなの。マザコンの大部分は最初ので、ほとんどの精神病理学的対象者に該当する。二のタイプには秀でて優れた天才とか、偉人がいたりするのよ」

 「最後のタイプは?」

 「社会に適応できない犯罪者あるいは異常者と言えるかも」


 「僕はどのタイプなんだろう?」

 「第三のタイプじゃない?」

 一平は息を呑んだ。


 恵子が笑った。「バカね。第二に決まっているじゃない。このタイプが自らの問題点に立ち向かい克服すると、素晴らしい世界が開くのよう」



 一平は恵子から思いがけない依頼を受ける。

 某国大使主催の国王誕生パーティのエスコート役を頼まれたのだ。


 再三の固辞にもかかわらず、半ば強引に引き受けさせられた一平は、恵子が急遽調達したタキシードをアトリエで着込んでパーティに臨んだ。


 恵子はタキシードの一平をうっとりと眺めている。

 「馬子にも衣装。君は素敵過ぎるわ」


 「服に着られているみたい」


 「ナマ言わないの。こんな素敵なソワレ(パーティ)は中々無いんだから」

 と、言いながら声を潜め、

 「今日の日は、一平君にも私にも特別の日って。だから、乞うご期待なの」と、囁いた。


 「占い?」

 「易よ。二進法の統計学。当たるも、当たらぬも八卦ってね。素敵なレデイとの出会いがあるかもよ」

 「結構です。今のところ僕は現状に満足していますから」

 「あら、誰とも付き合っていないんじゃなかったの?」


 「憧れている人が居ないわけじゃないんです」一平は恵子を見つめる。



 初々しい長身の美少年と、ハイセンスで素敵な熟年美人のカップルは群を抜いて際立っていた。

 恵子は終始ご機嫌で、歌を披露したり、エスコート・パートナーを帰ってきた息子のように自慢げに紹介するのだった。




 パーティーが終わり、酔いの回った恵子はタクシーを降りてから支えられるようにしてアトリエに入った。

 「少年、今日はめちゃカッコ良かったゾ。ホント、最高だったわあ」

 と、一平の髪を両手で掻き乱す。


 「今から、二人だけの二次会をしよう!」

 と、気勢を上げ、ワインを取り出した。


 「いや、遅いので帰ります。結構、酔ってますので」一平はグラスをテーブルに置く恵子を抑えた。

 「あら、明日は日曜日で、予定が無いってえ、言ってたでしょ? 今夜は飲みながら語り明かしましょう!

 ベッドも余分に有るし、泊まっていきなさい。とにかくその窮屈な服を脱いでシャワーを浴びていらっしゃい。歯ブラシは洗面所、着替えのパジャマは脱衣所に置いとくわ」


 一平は押されるように、シャワーを浴び、パジャマに着替えた。


 「ユウマのだけど、ちょっと小さいわね。君はどうしてもユウマとダブっちゃう」


 一平にとって恵子と過ごす時間は例外なく楽しかった。

 しかし今日の一平は、嬉しくはあるが、靴の底から足を掻くような掻痒感があった。


 恵子のテンションが上がるにつれ一平は逆に口数が少なくなって行く。

 「オイ少年、なんか変だぞ?言いたい事があるなら言いなよう」と、恵子は一平の心の内を追及し始めた。


 酔いの回っている彼女の執拗な追及に、遂に一平は覚悟を決めて彼女への正直な気持ちを告げる。 

 「僕はママに軽蔑されたり、嫌われたくないんです」

 一平の顔は蒼白く強張っていた。


 「変なの!君と出会って、どれだけ私が救われているか……」


 一平は恵子を見つめる。

 「全てが好きなんです。……誰よりも恵子ママが好き」


 そして顔を紅潮させて告白した。

 「愛してます」


 酔っている恵子は、仰け反って笑う。

 「私もそうよう。君は大切な私の宝物、最も愛する私の坊やよ」


 一平はもどかしそうに首を振った。

 「違う!初めはママンでしたが、今の気持ちはそれだけじゃない」そして呻くように「僕はユウマ君じゃないんです」と、言った。


 一平の言わんとする意味に、恵子は不意をつかれたように驚いた。


 「そうだったの……」


 恵子は椅子から立ち上がった。

 「今の今まで、ママンと思い込んでいたわ……」と、呟きながら歩き回る。


 恵子は、不安そうにしている一平の側に座った。

 「ごめんなさいね。気が付かなくって」


 「こんなに好きになったのは初めてです。ママの何もかもが好き」

 「私は一平君のママンと同じ歳、君は優馬と同じ年齢よ。十八歳と四十五歳。相応しいとは思えないわ」

 「二年経てば僕は二十歳です」

 「その時、私は四十七・・三年すると五十よ」

 恵子は少年の率直な告白に満更でもなかったが、切り替えがきかず戸惑っていた。 

 

 「僕は、帰らなくちゃいけない……ですね」


 「待っていて。シャワーを浴びて頭を冷やして来るわ」




 恵子は気を静めるように体をゆっくりと丁寧に隈なく洗い流し、入念に愛用のオイルを全身にすり込んで行く。

 そして、夜衣に着替えて一平の前に現れた時、恵子の気持ちはすっぱりと切り替わっていた。


 (恵子にとっての一平は息子の優馬であり、恋愛の対象ではなかった。しかし、一平は恋愛を求めてきている。衝動のきつい年頃を考えると、一旦火が点いたその気持ちを拒否するのは忍びない。省みない一途さ、それは若さの欠点であり魅力でもある)


 恵子は無言で小ぶりのワイングラスを新しく二つ置き、ワインクーラーの奥の方から黄金色のワインボトルを取り出してコルクを抜いた。

 ワインを注ぎ、一平に差し出す。


 一平の側に座り、恵子は噛んで含めるように話した。

 「何時の日か、君の年齢に相応しい素敵な女性が現れる。それまでの間、年増の小母さんでも良ければ、……君の恋人アマンになって上げるわ」


 思いもかけない恋人宣言。


 恵子はグラスを掲げた。

 (恋愛って何時も不意打ちの形をとって現れる。たまには火傷するのも悪くない)


 「甘い!」一平は芳醇な香りと甘さに声を上げた。

 [貴腐ワイン。レーヌ・ドゥ・アムールに相応しいワインよ。……私の為にもう一杯飲んでくれる?」

 漣のようなときめきが押し寄せて来る。


 「シャトウ・ディケムのアロマとブーケはセックス・ユムールを高めるの」

 恵子の瞳が妖艶に潤んでいる。


 その時、救急車のけたたましい音が窓外に鳴り響いた。

 眩い輝きがブラインドを透してアトリエに射し込んできた。

 真向かいのビル前に救急車が横付けされ、騒がしく人々が右往左往しているのが見える。


 強風が一際強く窓を揺るがし、巻き上げられた枯葉が冬の嵐のようにガラス窓を叩いた。


 恵子が「目を閉じて」と、一平の耳元で囁く。


 やがて、目を開くと真近に恵子の生き生きした瞳があり、何か言おうとする少年の唇をそっと指で押さえ、それから唇が重ねられた。

 恵子は低く掠れた声で「恋人のベェゼよ」と、囁き、強く唇を吸い、ゆっくりと舌を絡めて行く。


 甘酸っぱくも駆け巡る芳醇な香り。唇と舌の絶妙な誘導に少年は全身が痺れる様な快感に貫かれた。


 一平はパジャマの上からではあったが、憧れの乳房に触れ、喘いだ。

 恵子は優しく、しかし決然として「ここまでよ」と、引き離した。


 「続きはベッドルームで。今夜、私は君の女になるわ」



この後の話は既に書き上げ済み。

しかし自分ではエロいとは感じない表現だとおもうのだけれど、

アウトに引っかかりそうなのでどうするべきか考え中。


とりあえず恵子との過去話は打ち切って話を進めようと思います。

何か気になったことがあれば遠慮なくお願いします。

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