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七十四話

 

 急遽、竜女二人とカーニャを含む、ガイア・グループの秘密会議が開かれた。


 「バクロドンが正体を露にしたと言うことは……宣戦布告、言うことだ」

 フリンは苦虫を潰したような顔で言った。


 キサンが吐き捨てる。

 「殺るっきゃねえ!先手を取らねば、危険だ」


 すると、ギュンターとペーターの両教授が「バクロドン卿は学者として長年来の友人なので、暫しの猶予と再考を……」と、訴えた。

 「御気持ちは分からないではありませんが、逆の立場になれば、バクロドンは御二人を殺すのに躊躇はしないでしょう」


 「ヒカリイトさま、ボクのようなものが話しても宜しいかしら?」

 ヒロコが割って入った。


 「貴女にヒカリイトさまと呼ばれるのは違和感を覚える」

 「だって、この会はバクロドン卿たちの運命を、裁判長の貴方が決めるコートじゃなくって?」

 「殺るのは反対と言うこと?」

 「憎悪には憎悪、死には死を。負の連鎖で、地上の天国を血に染めて欲しくないわ」

 「此処十一年間は殺るか殺られるかの修羅の世界だった。この平穏は殉教の血の上にある」

 「でも、ターゲットの死刑相当者にも自らを弁護する権利があるんじゃないのかしら?」


 キサンは首を横に振った。

 「NO、与えられた直感的判断で決める」

 「それは、フェアとは言えないわ」

 「フェア?此処は平和ボケの日本でもジャンクなヨミシャセでもなく、滅びが迫る戦場だぜ!」


 「ダメ元で、我が彼らに愛の思念を送って見てからでは如何かしら」リリトがヒロコを後押しした。


 「それに、チャガタイにトーラ進攻の口実を与えてしまうかも」カーニャが戦争の恐れを口にする。

 女性連は問答無用の仕置きは嫌なようだ。


 牧野がキサンに目配せした。

 「取り合えず、リリトのパワーと、彼等の思い直しに期待して暫し様子を見ようやないか」

 老フリンが「ま、巷にに広がるヒカリイトの呪殺の噂も……歯止めにはなっぺ。老い先短い身として、穏やかに越したことはねえ」と、締め括った。

 かくして、キサンの懸念は懸念として、当面は様子を見るとなった。




 キサンは一平をムセイオン施設の公衆温泉浴場に誘った。

 「君に頼みたいことがある」


 蒸気サウナに入ると、キサンは本題に入る。

 「君と僕は他人の心の内が読め、ダルマラーマをガードすると言う点においても似た立場にある。そこで、君とは腹を割った意見交換をしたい」

 「裸でって言うのが、らしいっすね」

 「ズバリ、僕の呪殺について反感が多いようだけど?」

 「と、言うより、恐怖感っしょ。命あるもの、まして、ヒュウマノイドを殺すことを直視したくないのです。肉は食べたいが、屠殺は見たくない心理でしょう」

 「で、君の意見は?」

 「妥協は無理っしょ」

 「呪殺を実行に移せば、我々の団結に支障をきたすだろうか?」


 一平は首を振った。

 「現実と感情を混同するほど、皆は愚かでないし、百歩譲っても僕は貴方の決断を尊重するよう働きかける」

 「アジトは既にトーラ諜報部チンクロドが特定しているので、奴等の動き如何によっては、即行できる」

 「チャガタイが進攻して来る可能性は?」

 「それが問題。止めるのは難しい」

 「最新鋭の科学的防御システムのデモンストレーションが、歯止めになると良いんですが……」

 「それに、イッペイが鍛えた兵力と、呪殺力の噂もね」


 キサンは言う。「ダルマラーマは比類なき天才だが、殺し合いのようなことは空っきしなんで、僕等がやるしかねえ」

 「僕らが?」

 「僕等はダルマラーマと違って、非情にもなれる」


 一平は苦笑した。

 「確かに、先生は血の気が多い割には血みどろの争いに向いてない」


 「緊急の指揮権発動許可は取っているが。……正直に言えば、ぶっ殺すのには多少の快感めいたものがあるのよ。最近、残酷さに鈍感になり、段々人間性が失われていくような気がする」

 キサンの目が遠くを泳いでいる。


 ダングンジュで、一平はキサンの次なる話を促した。

 「ところで、僕に頼みたいことって?」


 「ダルマラーマの意向であり、水晶髑髏からの御宣託でもあるんだ……」


 キサンの依頼を掻い摘んで言えば、来るべき旧アレキサンドリアからエルサレムまでのダルマラーマによる大巡礼行進の露払いとして、一平にヨミシャセをスタートに、キハン、ヤンゴルモアから、出来れば、キョウドフン、パネローマまでミロクの教えを情宣してムーヴメントに弾みをつけて欲しい、とのことだ。

 「聖者として、イッペイに。そして、スタートはヨミシャセから」

 「聖者?僕が?」


 「僕が行くべきなんだろうが……、現況では、次期ダルマラーマ言う立場で目一杯。そこで見回したら、ダングンジュと癒しの業が出来る適任者が居たわけよ」


 一平は手を振った。

 「無理っす。それに、先生から離れるわけには……」

 「ダルマラーマは責任を持って御護りする。リリトと共にヨミシャセのミナカムイに飛んで欲しい」

 「それに、気ままな竜の女王が面倒を引き受けるとも思いませんが……」


 人類と異なるリリトやエローミュは一平たちのような人類救助等の使命感は全く持ち合わせてはいない。

 今回此処に至ったのも、単なる刺激欲しさや好奇心の故であり、自己犠牲などから程遠い気紛れな感覚なのだ。


 「君次第よ」キサンは意味有り気に笑った。

 「僕……、まさか?」

 「君への関心が有り有り」

 「冗談はよし子さんだら、僕にはジゴロも無理イムニダです」

 「竜を動かすのには餌が要る」

 「……・」

 「君の癒しの業と、女王の愛のセクシャルパワーは強烈な相乗効果となって、世界を根底から覆す。そこに、闇の力に勝ち抜いたダルマラーマがヒカリイトを従え、栄光の中に凱旋する。かくして、人類は救われる大団円と・」

 「楽天的なのは、嫌いじゃないけど……」

 「何事も空想、否、妄想から始まるのよ」

 キサンは笑った。


 「それに、私的なことで懸念していることがある」一平は言い出し難そうだ。

 「私的なこと?」

 「この所、ダングンジュをしても、自らの先行きが全く見えないんです。だから、大事を引き受けるには自信がない……」



 室内音楽に混じり、一平の周りから微かに呪文のような音が沸き上がってくる。

 キサンがぎょっとしたように辺りを見回した。


 (ダールラハアマ・ムング、ダールラハアマ・ムング)



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