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六十一話

   

 カドモスが答礼した。

「偉大な支配者べドロベアよ!我らが御無礼をお詫びすると共に、斯くも盛大な歓迎の宴に感謝します!」


 有翼の美女は妖艶な笑みを浮かべてパトリースに語りかける。

 「愛しの王子よ。サーデモより餌食として遺棄されし貴方を慈しみ、涙の中に手放した我が思いを知るや?」


 パトリースは恭しく膝を折った。「アッマ(おっ母さん)、片時も忘れることない我が心のオアシス!我に免じ、人間(猿人類)の運命を救わんとする我が友ライオンの使命と、それを支援する一行及びカドモス卿率いる竜騎団に御加護を賜りたい」


 白い両翼を広げて天女が応える。

 「王子よ!お前の望みは我が望み、喜びは我が喜びである。御身がイーラムとニライカーネルにある限り、サーデモが追っ手を向けても、指一つ触れさすこと無く、蟻一匹通すことはない」



 紫香煙が靄のように立ち込める中、べドロベアは琵琶を爪弾きながら語りかける。

 「ライオン・マキノよ、この現身マヤを憶えていますか?」

 「憶えてるも無いも、麻耶アンタが語った御伽噺に乗って此処まで来たんや」


 「麻耶はニライ・カーネルの地で果てようと、竜界に戻り、ダイダーネンの断崖から身を放じたのだが、我等に拾われ合体した。この現身は偉大な預言者・弥勒の伴侶にして、来るべき救世主の母体で聖なるもの」


 麻耶べドロベアは灯火に浮かぶマングラドビャ円形広場に集まっている群集を指差した。

 「人々は、穢れと苦渋の中に泳いでいます。是非とも、弥勒の夢と癒しをいただきたいのです」


 「一平君、これは運命や!」

 牧野がほろ酔いの一平を立ち上がらせ、口上した。

 「御臨席の皆様方に御紹介します!此処に居る佐々木一平こそ、弥勒・ユズキと麻耶の忘れ形見・須佐野童児の隠れ子!母親はラモンの娘で、ラモンとユズキの血を引く唯一無二の御子なのです!」


 事態を掴めず呆然とする一平を其のままに、どよめきと歓声が喧騒となってべドロベアを揺るがした。


 牧野はグラスを掲げる。

 「尊血の御子へ!」


 「御子!御子!御子!」

 酔いの回った会場は異様にボルテージが噴き上がった。


 その時、一平は何かが自らに降りて来るのを感じた。



 一平は憑かれたように目を爛々と輝かせ、ライトアップされたコロセアムの舞台に立った。

 蝙蝠が群れ飛ぶ満天の星空を見上げ、助けを求めて集合している溢れんばかりの奇形・不具者の群れを見下ろす。

 (ダールラハアマ・ムング!ダールラハアマ・ムング!)


 燃え上がるような感情に突き上げられ、一平は両手を掲げて告げた。

 「今此処に、我が持てる総ての力を振り絞って、マングラドビャに集う全ての穢れが祓われ、癒されよ!」


 大音声が響き渡ると、悲鳴に近い叫びと嵐のような喧騒が噴きあがる。

 地に這うものは立ち上がり、水に漂うものは形を成し、光を恐れるものや樹上に隠れるものは姿を現した。

 苦しみは消え去り、奇形は正され、病める、弱める、悩めるものが癒されたのだ。



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