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六十話

    

 カドモスは命じた。

 「攻撃目標を変更する!標的はニライ・カーネル!目覚ましの一発を市民会議堂にお見舞いし、全市を核で破壊殲滅すると伝えよ!」


 効果覿面、女王リリトから「竜騎団とイーラムの会談をセッテイングする」と、の返答があった。



 大空の巨大渦巻きが霧散し、闇へ誘う歌声も消え去り、静寂が訪れる。


 空を切る羽音と共に、人間大の黒い大蝙蝠が前方に降り立った。それは長身にして黒衣のヒュウマノイドで、行く手を阻むように両手を広げている。


 カドモスが大音声に問う。

 「我等が隊に立ち塞がる翼人は誰ぞ?」

 「我は闇の支配者べドロベアの使いベリアルのツボッケル。イーラムに強制侵入する者こそ御名乗りを!」

 「神示を受け、テラに渡る弥勒の使いラオダイ・ライオン・マキノ一行と、護衛を担うガリッポム竜騎団である」


 「ベリアルって?」一平がパトリースに尋ねた。

 「快楽に魂を貶めた堕神人ヨ」

 「翼を除けば我々ヒュウマノイド(人間)と変わり無い感じですね」

 「快楽ジャンキーの彼等は、神人に比べ異常と言うか、……例外なくDNA整形して崩れている」

「整形って、蝙蝠翼のこと?」


 「だけじゃなく、諸々ヨ」

 パトリースは意味有り気に笑った。


         … …      … …

   

  ベリアルは品をつくって頭を下げた。

 「偉大な弥勒の使いと、その名も高きガリッポム竜騎団とは知らず誠に失礼しました」

 そして、幾分かの間を取ってから告げた。

 「お詫びとして、ニライ・カーネルに行く前に、ガリッポム竜騎団全員と御一行を今宵の酒宴に御招待したい」


 カドモスは了承し、隊列を崩さずべドロベアまで行軍する旨を伝えた。


 ファランクス警護に、上空をガリッポムが編隊飛行する。


 一平はザルダーヒコに話しかけた。

 「戦いは忌避できたみたいっすね」

 「戦場に関してはね」

 「と、言うと?」

 「サーデモのアムーティラ女王陛下及び元老院と、人民議会、ディルムンにおけるニライカーネルとイーラム、リリト、べドロベアそして我が竜騎士団の政治的駆け引きが始まる。それに騎士団隊長の引継ぎがある」

 「次の隊長は副官である貴方・ザルダーヒコ卿と伺いましたが」

 「それには、血の儀式が避けて通れない」

 「血の儀式?」

 「前任者から後任者が決闘でその地位を奪い取る儀式。つまり、敬愛するカドモス卿と我はサウ・モアウ(古代ギリシャのパンクラチオンに似た素手の反則なしの総合格闘技)か、ジュッツかで決闘せねばならん。当然、卿とはモアウではなく、剣士らしくジュッツになる」


     … …      … …


 群衆に取り巻かれたマングラドビャ円形公園。

 円形の広大な公園は、ローマのコロセアムと逆に、舞台にあたるところが数段高く設定されている。


 着地したガリッポム全頭と機甲部隊、隊列を解いた竜騎団ファランクス及び一行は、聳え立つ巨大なべドロベアを呆然と見上げた。


 深い森のように広がる一本樹のべドロベアは、濃密な枝々と深緑の葉を茂らせ、その合間から無数の触手が揺ら揺らと蛇の如く絡み合い蠢き合う。

 ゆったりと息づく総体は犇めき合う気根の柱群によって大理石の地面から高床式の神殿のように持ち上げられ、底部から見上げると、鏤められた照明の煌めきは満天の星の如く輝いていた。



 べドロベア森の体内深く絢爛たる装飾に彩られた吹き抜けの迎賓大広間は、竜騎団全員と一行が着席しても余りある空間だ。

 壁も天井も、宴のために花々と山海の珍味が満載されたテーブルも、全てが淡いエメラルド色の弾力ある有機体で構成され、所々葉をつけた小枝が伸びている。


 会場全体に色取り取りの照明球がオーブ状に浮遊していた。

 歓待のイーラム席には、ベリアルをはじめ、様々な種類のヒュウマノイド紛いと生き物がさざめいていた。


 桃色の薄絹を腰に一枚巻くだけの裸の美女群がカムイ・ミード(神蜜酒)を注ぎまわり、花々、果々とフェロモンの得も言われぬ香が漂い淫靡な雰囲気に満ちる。


 巨大銅鑼を青銅の魔人が打ち鳴らす時、胸掻き毟る電子音の叫びと共に白鳥の翼を羽ばたかせて、薄い白絹を纏った半裸の天女が螺鈿飾りの琵琶をかき抱いて中央の正席に舞い降りた。


 有翼の美女は、半透明なプラチナブロンドを濃密な空気に揺らめかせ、琵琶を爪弾きながら、鈴を転がす声で歓迎の辞を述べた。

 「ようこそ、自由都市イーラムに!崇高なる弥勒の使命を担わんとする偉大なラ・オダイ・ライオン・マキノと随伴の皆様方。そして、誇り高きアムーティラ竜騎団の戦士たちよ。心から歓迎します。

 今宵は心身を解き放ち、心行くまでお楽しみ下さるよう」


 「彼女がべドロベア?」一平はパトリースに尋ねた。


 「ノン、魂を抜かれた女の肉体に翼を付けた合成体。べドロベアは食魂樹なので、抜け殻に宿りコミュニケーションするのヨ」


 突然、牧野が声を上げ指差した。

 「麻耶!あれは間違いなく麻耶や!髪は真っ白だし、けったいな翼も付いている。けど、見紛うことなく麻耶姫やで!」


 蝙蝠翼のベリアル(堕神人)が立ち上がり詠う。

 「絶望の闇に浮かぶ渇望の酒池肉林を!

 此処はタブーから解放された夢世界。

 ドブルムスク薔薇の奏でる豊穣の香りは悦楽のフェロモン。

 イーラムの葦笛、ヘルムートの電子ハープは熱情を滾らせる。

 触れるもの、感じるもの、想像するもの、衝き抜ける快楽は炎の如く。

 七色に輝く宝石の灯火、燃え上がる欲望の宴よ。

 さあらば、永久のべドロベア」


 そして、ツボッケルは大ジョッキを差し出し、「魂の救いを!」と、叫んだ。


 「魂の救い!魂の救い!」合唱は会場全体に津波のように木霊する。



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