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五十七話

  

 女王主催の歓迎晩餐会。

 一行は竜貴人さざめく中に、葛久保で消えた仲田組員たちの出迎えを受けた。


 「ライオン先生、バキ老師、若返っていて見違えちゃいました」

 サーデモの衣装を纏った工事監督の笹尾が、にこやかに手を出した。

 

 「さすが現場監督、すっかり現地に馴染んでいるようやな」

 「身分は被実験体ですが、嘗て欲しかった全てのものを手に入れ、幸せです」と、インプラントされた自らの額の部分を指差した。


 「家族や知人の心配や苦労を他所に、天国の生活をエンジョイしとるわけやな」

 牧野の皮肉っぽい口調に、笹尾は首を振った。

 「人種改良実験センターで生活すると、通り一遍の人間性なんて吹っ飛んでしまいます」


 「人種改良センターの生活って、一体何をしてるんですか?」と、一平が尋ねた。


 「地球の人間が一掃された後に入植する人類の遺伝子を提供している。つまり、楽しく喰って飲んで遊んで種付けをする酒と薔薇の日々」

 「種付け?」

 「セックス三昧ってこと。宇宙や自然と調和し竜人や神人と協調して行けるようなスーパーミックスを作出する」


 「スーパーミックス……?」


 「神人のように誇り高く美しく、竜人のように知的で協調心が強く、猿人類(人間)のごとく生命力と闘志が溢れている人種。過去にミシャセがその為に作出され、地球ジャックに送り込まれたそうですが……」


 「地球ジャック!」話し好きのパトリースが会話に入って来た。

 「ミシャセが失敗した理由は、融和性が強すぎてアイデンテティが埋没したこと、闘争心が希薄でドロドロの競争に打ち勝てなかったこと、繁殖力が弱いこと、種が完全に固定出来ずバラツキが大きすぎたこと等々ヨ」




 宴もたけなわ、一斉に起立して女王を迎えた。

 咆哮するシュルシュ(一角竜)を従え、悠然と歩む女王の威厳と煌く美貌。


 牧野は驚きに立ち竦んだ。

 視線の先には、女王に付き添う人間と思しき長身の女性があった。


 「あれは加奈子や!若いが、違うことなく私のカミさんや!」

 「お祖母様ですって……?」


 「加奈!加奈!」と、人を掻き分けて突き進む牧野へ、シュルシュが牙を剥き、衛兵が電撃器を突き出した。


 長身の女性が牧野を見て目を見張った。

 「シューダ!」


 女王が牧野に、「此方はヨミシャセのカーニャ・イリンキ。ライオン・マキノとは双子地球のたすき縁になり、カーニャは夫のシューダ・イリンキを亡くしている」と、紹介した。


 女王は互いの手を取り、握り合わせ、「この出会いは二人へのプレゼントです。運命の縁に祝福を!」と、カーニャを牧野に押し遣った。


 玉座に歩む女王を他所に、二人は手を握り合ったまま突然訪れた二人だけの世界に呆然と浸っている。


 女王が着席して宴の音楽が蘇えると、牧野は我に返ったように手を離し「失礼。あまりに亡くなった妻に似ているので」と、謝った。

 カーニャは頬を赤らめた。

 「奥様はカーナと仰るんですね」

 「正確に言えばカナコです。そして、私はシューダではなくシューヤです。……それにしても、とても貴女が他人とは思えん。加奈子が亡くなった時は貴女より年配やったが」

 「シューダは貴方より若かった」


 二人は互いの身上を語り合う。

 それは、驚くほどの共時性シンクロニシテイだった。


 カーニャは溜息をついた。

 「私が此の地に拉致されたのは、貴方に会わせ、一緒にさせるためだったんだわ」

 「目論みは私をテラに行かせないため。優柔不断で情に弱い私が貴女に会ったら、イカれてしまうと言う策略や」

 「ならば、貴方は何としても私たちの世界テラに来なければなりませんね」彼女の話し振りは、まるで年下に諭すようだ。

 (ソックリなのは見た目だけやない……)



 牧野とカーニャにおける関係の相似は信じ難いものだった。

 「私とシューダ、カーニャと加奈子は、その生い立ちから今に至るまでを挙げれば瓜二つ。違いは死に別れが男女が逆であり、世代が異なるだけや。出歯亀の覗きから結婚なんてまでが同じやった……」

 二人はサーデモの意図を承知の上、公開実験カップルとしての共同生活を営むこととなる。



 自由であって、自由でない状況の中、一行は夫々にそれなりの領域に没頭していた。

 一平は、ヨミデスの剣士たちとジュッツの修行に明け暮れる日々に、師の美田村や剣友たちと過ごした日々を思う。

 一平の熟達振りに、ジュッツのチャンピオン・ザルダーヒコが問うた。

 「イッペイは相手の心の内が読めるようだが、それは生得の才能なのか?」

 「いいえ、突然そうなってしまって、自分でも戸惑っています」

 「我等は、それをダングンジュと呼び、武術最高度の心理段階で、ヨミデスに二人しか居ない」と、ザルダーヒコは唸った。


 「卿はそのダングンジュの一人ですね」


 ザルダーヒコは自らの眉上の隆起を指差し説明する。

 「我は竜人女と地球で駆逐されたイポ(ネアンデルタール種)との混血なのです。イポ族はコミュニケーションが言葉でなく、無声伝達テレパシーとか遠隔視リモートヴューイングなどが中心なので、ハーフの我はダングンジュに成り易い」


 「で、その天分を磨いてダングンジュに達した」

 「一昨年ぐらいから感じるようになり、同じダングンジュのカドモス卿と漸く戦えるようになった」

 「カドモス卿もイポのミックスですか?」

 「否、彼は神人のベリアルと猿人(人間)と竜のトリプル」


 「御二人と異なり、僕の場合は、成り行き任せの能力。ただ、そのお蔭で卿やカドモス卿が五六手先まで見通して仕掛けてくるのに感心しました」


 「我等はイッペイが一二手先しか考えない単純さにも拘らず、驚くほど手強いのが不思議ではある」


 ザルダーヒコは暫し考える風だったが、「イッペイ、ダングンジュ同士の君と我が真剣で戦ったなら、勝敗は如何になるであろうか?」と、興味ありげだ。


 「チャンピオンで、私の指導教官である卿に未熟な僕が敵うわけがありません」

 「ジュッツだけなら、そうとも言えるが、ケンドーとジュッツのバリアを外せば、両方を熟知している君に利がある」

 「それは大変な励みになります」


 「我は君の奥底にある武道家の叫びが見える。強い求道の志は我をして奮い立たせる」

 一平はザルダーヒコの瞳の奥に鋭く光るものを見た。



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