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五十四話

   

 到着から暫くの間、一行は命の宮で、催眠療法を含めた心身の健康チェックと完全体再生施療を受け、その上さらに牧野とバキは蘇り遺伝子施療を受ける。


 施療班は「DNAの損傷が大きく、十分に再生しきれなかった」と、残念がったが、老人二人の若返りは驚異的で、如何見ても四十代前半と言ったところ。

 しかも、単に若さのみならず、心身ともに嘗ての精力をも取り戻したのだ。


 牧野は蘇えった精力を連日竜人女たちに注ぎ込み始める。


 性的に大らかな竜人社会とは言え、些か破廉恥に余る祖父の振る舞いに、ヒロコは釘を刺す。

 「お祖父様、適応し過ぎて、目的が霞んでいるんじゃないかしら?リセットされた肉欲に引き摺られていると、玉手箱が開いたら干からびてしまうわ」

 「古い常識・習慣を捨てねば新しい世界には対応できんよ」牧野は孫娘の苦言を一笑した。



         ………   ………


 ユーテンジュを分けて流れる大河アブクマルを遡ること一時、イヤサカの使者でチャピオの息子モルモネユニットが運転する超高速水上磁車は、一気に八千キロに及ぶ荒野の果て、源流となるクローノス山脈のナミイリ渓谷に到達する。


 ハーセムとライオン一行は、イヤサカの境から飛行船に乗り換え、深く垂直にそそり立つアエウル渓谷の中をゆったりと遊覧し、山脈を抜けた。


 突如、目前に広がる亜熱帯の濃密なジャングル。

 広大な盆地の中央、山の様に聳え立つ壮大無比な螺旋形の建築を見る。


 「アメージング!まるで、ブリューゲルのバベルの塔だわ!千五百位あるのかしら?」

 「ビンゴ!メートルにすれば、約一タケシャなので十進法へ換算すると十二の三乗だから……千七百プラスα……の岩山を元に、正円形の外部を競り上げて構築したのヨ。現在は内部まで完全に掘りつくされ、元々の岩石は消えてしまっている……」

 ピノマントから離れて機内を飛び回っていたモルモネが答える。


 「ヤハタって十二進法なのね」

 「これまたビンゴ!」


 「それにしても、大きいわ!これって寺院?それとも、お城なの?」

 「ノン、バーベルンと呼ばれる集合住宅都市です。城も寺院も競技場・劇場から空港まで含む、イヤサカの有りとあらゆる施設が集中しており、ピノマントを含めて大凡四百万羽の生活圏となっている」


 一平が尋ねた。「イヤサカの人口と言うか、鳥口は如何のぐらいですか?」

 「二千四百万羽ぐらい。だから、約六分の一が此処に集中してることになりますのネ」


 バーベルンを中心に道路が幾重にも蜘蛛の巣状に広がっており、その周りを十重二十重にジャイアントセコイアの巨木群が取り巻いている。

 「周りの樹々は全て住居用トゥリーハウス。上空の虹の橋は高速移動用交通機関です」


 最屋上に在る空港へ船が着陸するや否や、花火が打ち上げられ、チャピオ首長を先頭に、鳥族とピノマントが犇めき合って出迎えた。


 モルモネは選択を問う。

 「イヤサカを知るためには、自在に三次元を移動しなければ話になりません。そのため我々は二つの方法をヒュウマノイドに選択して頂いています。一つは一人乗りの重力コントロール空中遊泳幾。もう一つは、我々とピノマントの逆パターン。つまり、脳波を調整連結させたピノカラス(バイオメカバード)を利用する」


 「ピノカラスを使えば感覚ごと鳥にもなれる言うことやな」


 牧野は暫し考えるふうだったが、「迷うとこやが、脳を弄らせるのは又の機会にしよう。テスラと追求した重力コントロールの方が興味を引く」と、重力コントロール機を選んだ。


 結局、一行全員が空中遊泳幾を選択する。

 「鳥の三次元感覚を味わうのも乙なものと思いますがノ」モルモネは不満そうだ。



 イヤサカ滞在における一行の驚くべき体験の数々はさて置き、ヤハタは地球人絶滅計画への反対を表明し、牧野一行の人類救助プロジェクトの支援を約束する。


 一行のために開催された歓迎パーテイは盛大を極め、千を超す客で会場はさざめいていた。


 首長チャピオのユニット(ピノマントと共に)が登壇し、翼を震わし、鳥自身の肉声で歓迎の意を表明した。

 「ようこそ、我らがイヤサカに。我が友リョウゼン、そして、ライオン、イッペイ、バキを始め人類救済グループの来訪を頂き光栄の至りです」



 連日続く、歓迎と酒席の宴。


 玲は遊び仲間と化した牧野に嘆いた。

 「ピノマントの女は奮いつきたくなる程の美女ばっかりだし、テークアウト自由の何でもOKで、俺的には最高なんですが、常時傍らに鎮座する鳥の代理と言うのが、いまいち楽しめねえ」

 「此方も操られているような感じなんやろ?」

 「ピノマントを本体だと思い込めば良いんだろうけど……」



 一行はヤハタの精密で高度な三次元感覚の科学力と、徹底したエコロジー、不戦の決意、そして、それらを補って余りある政冶・経済の巧みさに感銘を受けるのだった。


 チャピオが息子のモルモネをヨミデス案内として、人類救助プロジェクトの行程に参加させるように要請した。


 「世界を熟知し、洞窟旅行の経験者が参加してくれるのは心強い」牧野はモルモネの参加に歓迎の意を表した。


 モルモネは翼を羽ばたかす。

 「帝王学だって。不戦を信条とする我等は、神人や竜人は元より人間やその他とも上手く遣って行かねばならんのでネ」




            ………        ………



 一平とパトリースは、タカ・カムニャ宮殿の回廊を歩む。


 「女王とパトさんって如何言う関わりですか?」

 「私はエンマシアの姉であるサーデモの女王アムーティラと、天才アス人・ヘルムスの間に自然受胎したミックス。

 そして、忌み体として、妖怪の巣と呼ばれる夜都市イーラムに遺棄されたのを、イーラムの主にして養母のベロドベアからエンマシアが引き継いで養育してくれた。その上、彼女は私にとって愛の手ほどきを受けた初恋の人でもある」


 「……パトさんはゲイだとばっかり」

 「初体験の女王パワーの刷り込みが効き過ぎちゃってるんでね」


 恵子の面影が一平を過ぎった。


 「一平が竜女をお気に召さないのは恵子ママのせいネ」

 竜人美女の誘惑に一平が靡かないのが話題になっているらしい。


 パトリースは上気する一平に「女が駄目なら、私がゲイを教えてあげようか?」と、手を添えた。


 一平は慌てて手を振り払った。

 「勘弁!全然その気は無いっす」


 「ドクトル・ヒロコもモグッパ男の夜の訪問には焦ったらしく、大変な騒ぎだった」と、セックスアピールを誇るセックス・モグッパを寝室から蹴りだした顛末を面白可笑しく語った。


 「セックス・モグッパ?」

 「セックス専用に作出された愛玩用の雄モグッパ。惹きつける容貌と姿態、超人的タフネスとテクニック、果てしない欲求と厭わない奉仕、蕩かす発情フェロモン等々。勿論、所持している物もスーパーなのヨ」

 「レデイに肉欲ロボットは無理っしょ」

 「いやいや、奴らはコミュニケーション術にも結構長けている。惹き方といい、ベッドインに至る会話の盛り上げ方もそん所そこらのヒュウマノイドの比じゃない」


 「人間にも、ホストクラブの類がいることはいますが……」

 「竜人文化はモグッパによる家畜文化と言う側面を持っているノ」


 「馴染めないのは、そのコンパニオン家畜のモグッパを改良して食用にまでしちゃうことです」

 「でも一平、地球だって可愛がっているコンパニオンアニマルを精がつくとか言って、食べちゃう国があるだろう。あるいは同属のヒュウマノイドを臓器売買目的に死刑にしたりしているところもある」


 パトリースはヨミデス社会の政治システムを説明する。

 それは、女王、元老院、執政官、軍隊そして人民議会の入り組んだ相互関係と役割分担だ。


 「女王と元老院の役割は主に形而上の部分に成り立っているのヨ」

 「形而上?」

 「例えば、宗教、哲学、文化等。具体的に言えば、奉仕、思索、正義、歴史、芸術、純粋科学等々」


 「執政官と人民議会は?」

 「人民議会は司法、行政、立法。日本の国会と概ね同じで、形而下、つまりは権威、政治や経済等・実際的な生活に関する法案を取り扱い、執政官は首相の役割を担当する」


 「最高権力は何処にあるんですか?」

 「法的・物質的には人民議会が決定権を持ち、精神的には女王と元老院が支配している。軍隊は伝統的に女王に対しては忠誠心が高い」


 「元老院って言うのが分からない」

 「オブザーバー的な存在。私心の無い奉仕精神と犠牲心が強く、国民の高い敬意を得ている」


 「ヨミデスは全て同じ形態なんですか?」

 「否、ユーテンジュと大国サーデモの緩衝地帯国になるディルムンは、七人の王が支配している連合王国ヨ」



 話のつれづれ「今回、パトさんが一緒に来てくれたので、本当に助かってます」と、パトリースが急遽同行してくれたことに、感謝する。

 すると、パトリースは申し訳なさそうに「それが、君らの行き着く所まで付き合い、テラでの使命を目の当たりにしたかったんだが、そうもいかないようだ」と、告げた。


 一平は立ち止まった。「ずっと一緒に行けるんだと……」

 

 「テラ・ラッサの図書館大学院に、ロキ言うアルケミストが人類救助プロジェクトの一環に挑んでいる。それは私の過去形の実体で、出会うと互いに消滅の可能性もある。

 それに、玲の彼女と消えた仲田組員の行方が分かったのヨ。組の連中はサーデモの生活に耽溺し、帰るつもりを失っている。アユミはサーデモヘ拉致されて十年間の訓練を経て、十世紀の琉球王国・離れ島ドナン(与那国)の女酋長になっているって。

 だから、玲もテラには行かず、アユミ奪還に挑戦する。行きがかり、彼の不慣れな時の旅に付き合うことにした」



 パトリースは宮殿の一角の木造建物に一平を導いた。

 「ここがソウジュッツ(ヨミデス剣道)の王立訓練場ヨ。……建物は老朽化したが、何もかもが昔の修業時のまま」

 聞きなれた気合と掛け声、床を踏む音が林間に響く。中に入ると五十名ほどの幼若男女が軽装の防具を装着し、発色する模擬剣で打ち合っている。


 パトリースが軍事科学教授であり、武術指導教官長にしてユーテンジュ・チャンピオンでもあるホリン・ガグハルに一平を剣道マスターと紹介した。

 一平はソウジュッツの動きから目を離せない。

 「気合といい、攻防と言い、まるで剣道ですね」


 「ソウジュッツと剣道は兄弟武術みたいなものですから」ガグハルは得たりと頷く。

 「ジュッツの歴史は新しい。剣道の原型の剣術とテラのヨミシャセで発達したソルドルウが元になっている。

 剣道とソルドルウはスポーツ化し、ソウジュッツはより実戦的に変化した。

 防具は軽く動きやすく、指から足の先まで完全防護で、強力な打突も完全に吸収する。剣は長めの両刃形で軽めの刀重。打突は足先まで含む全身が有効範囲で、逐一無線モニターに表示される。接近戦は投げ蹴り全てOK,寝技は無し」

 ガグハルは一通りジュッツを説明してから競技剣を手渡した。


 一平は一振り。

 「三九の竹刀長と言ったところ。結構ズッシリしていますね」

 「試してみる?」ガグハルが一平をジュッツに誘った。



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