三十三話・異邦人
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竹原俊英は修也の入院騒動以来、風神の谷に至る道程の幻想的な自然の美しさに魅せられ、度々羅門に随行しては、その風景を描き続けていた。
神澤に野宿していた羅門と俊英は、肌の色の異なる五人の老人がキャンプファイアーに誘われるかに忽然と出現したのに驚く。
彼等は異世界から神聖洞門に至り、羅門から発する脳波を探索しながら辿り着いたと告げた。
そして、来訪理由がまた驚きだった。
大崩壊・人類絶滅寸前にある異世界の救いを求めるべく、アミリウスの弥勒と、法統を継ぐダルマラーマ等を連れ戻すためと。
羅門は自らが異世界テラの出生であり、ラッサのムセイオン大図書館大学院における法統を継ぐ歴代法主の生まれ変わりであるのを知らされる。
しかも、ユズキ(弥勒)の先駆けとして、審神的立場としてテラ行きが宿命づけられていると言う。
修学道院は、異世界からの珍客に上を下への大騒動となった。
五色の民族を代表する老賢人たちは、異世界・テラにおける知性の最高峰、トーラ国ラッサのムセイオン大図書館大学院の代表教授であり、ユズキに跪いて来訪の目的を奏上したのだ。
* * *
牧野は杯を重ねながら車窓の外を眺めている。
電車は、遥かなる時代に竜の一族が開墾し経営した竜田、古代に富み栄えた富岡、そして、嘗てミシャセ王国・コウタンと覇権を競い合った夜ノ森の跡、全てが走馬灯のように過ぎって行く。
「お祖父様、その後、ユズキさんやお祖父様たちは如何なったのかお聞きしたいわ」
ヒロコは修学道院に話題を促した。
「私たちは詰め込み式に、異世界適応の膨大な量の知識を勉強させられた。もし、智学で鍛えられてなかったら、到底無理やった」
「お祖父様でも?」
「何しろ五人がかりで、宇宙創生から現在に至るまでのありとあらゆる分野に亘ってのレクチャーやったからな」
「待って下さい。話がチンプンカンなんで。その、テラって、一体、何処に如何在るんですか?」一平は混乱している。
牧野は笑った。
「私流の仮説と、賢人・ザーラ教授の教えてくれた説がある」
「先ず、お祖父様のを」
「パラレルワールド説。何らかの事態で時空が異なる二つの世界を繋ぐトンネルが竜界を介して出来てしまったのや」
「二つの世界って」
「テラ言う異世界と、我らが地球ガイア。次元は異なるが二つの世界は同一の場所に存在する。ブリュッセルやラサには地下巨大都市の噂が囁かれている」
ヒロコは首を傾げた。
「賢人の説は?」
「それが、面白いんや。テラは、地下の世界でも、霊的世界でも、異次元ワールドでも何でもなく、地球と同じく太陽の周りを巡る惑星」
「惑星?仰る意味が……?」
「太陽を挟む対極百八十度の位置を、この地球と同じ規模で同様の状態である瓜二つの惑星が互いに見えないように、運行しているって……」
「でもお祖父様、地球の軌道は楕円でしょう?
とすると、そのテラ言う惑星も同じ軌道上を公転するわけですから当然楕円の走路になるわ。
太陽と惑星を結ぶ線分が一定時間に通過する扇状の面積速度は等しいのよね。それだと……」
「言わんとすることは、近日点が近づくと公転速度は速くなり、片一方は遠日点から遠ざかっているからそれだけ速度が遅くなる。したがって両者の公転速度の相違は完全な点対象を描けなくなる」
「その通りですわ」
「ところが、それは太陽の裏側を地球とほぼ同じ軌道を描いているが、同じ軌道上を移動するのではなく、点対称の独立した軌道をとるのや。それがため、常時太陽の陰に在る。
ま、注意して調べるとNASA辺りの発表にもそれらしきものが見れないこともない」
「言われて見れば、昔から地球惑星軌道運行に謎の摂動が報告されているわ」
「分かり難いのは、互いに次元が異なったり、一緒になったりを、不規則に繰り返しているらしいんや。
宇宙大変動期に強烈に軌道の磁場が変異し歪み込み、地球が時間と空間を超える次元の異なった分身の地球と、同次元の世界で認識出来るようになった」
「ガイアとそのテラは元来同じなんですの?」
「但し、同じはずの物がお互いにズレが生じてきている。何れ同一に再び帰結するんやろが……。
ひょっとしたら、テラは銀河の対極に位置する未知の太陽系第三惑星の可能性もある」
「惑星のドッペルゲンガーかしら?」
「それが、二つの世界は竜界を介して連結している」
牧野は、伝え聞いたテラの歴史を地球創生から話し始めた。