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僕らのオンラインRPG!  作者: 小石 汐
ヴァーチャルリアリティの世界にようこそ。
4/25

町にて。

 ギルドの宿舎にある一室で、レベッカ、緋色、フェリックス、こあらんの四人はいつのもように集まっていた。もはや、その部屋は四人専用と言っても過言ではなくなってきている。今はまだギルドに所属していないこあらんだったが、いつの間にか顔パスで宿舎への出入りが可能になっていた。

 しかし、この場に四人全員が揃うのは一週間ぶりのことだった。必ずと言っていいほど、誰か一人が用事などで抜けて、大抵は三人で相談し、狩りなどに出かけた。

 その中でもレベッカは大学の定期試験の準備などでよく抜けた。時々ログインしては、「テストヤバイテストヤバイ……」と呪文のように唱える彼女を見て、他の三人は苦笑を漏らした。

 ただ、この日のレベッカは違った。普段、あまり感情を表に出さないのだが、今日の彼女はどこか浮かれているような雰囲気をまとっていた。それもそのはず、ようやく試験の期間を終え、長い夏休みを迎えたのだ。

 しかし、その喜びも束の間、レベッカは呆然とすることになる。

「何これヤバイ……あんたら何したの?」

 目頭やこめかみを揉んでみたり、目を擦ってみたりするレベッカだが、目の前の表示に変化は無かった。最初は錯覚だと思っていた――だから、そういった行動に出たのだが、突きつけられる現実にただ呆然と見つめることしかできなかった。

「ん、ボス系を中心に狩り回っただけだよ?」

 緋色がさらりと答えるが、レベッカは目の前に表示された数値を呆然と見つめている。

 レベッカが見ているもの――それはパーティの詳細情報だった。そこにはパーティを組んでいるレベッカ、緋色、こあらん、フェリックスの名前があり、その横にレベルや状態が表示されている。状態は皆Fineファイン――つまり、良好を示しているのだが、レベッカが見つめていたのはここではない。更に右に視線をやると、そこにはレベルの数値がずらっと並んでいた。試験の期間中も息抜きという名目でログインしていたレベッカは七十八、夏休み真っ盛りの緋色は八十三、こあらんは九十、そしてフェリックスに至っては百一になっている。

 フェリックス、こあらんのレベルの上がり方は理解できる。しかし、緋色のレベルの上がり方だけは、どうしても首を傾げざるをえなかった。レベルに関してこだわりはないレベッカだったが、どうすればこんなにレベルを急速に上げることができるのか――それだけが気になったのだ。

 本来、レベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要になる経験値は増えるもので、それに伴い一つ上げるために費やす時間も増えるはずなのだ。その際に、例外として狩猟環境の変化や火力の急増などの要因があれば、稀に時間が短縮されることもある。しかし、それは弱点を突きやすい魔法攻撃スキルを所有する者だけの特権とされてきた。なので、前衛の緋色にその変化が起きたとは考えにくい。

 だったら、何故――その思いが、気づけば口から漏れていたのだ。

「その際、部位破壊は基本的に緋色に回したら、こんなことになった。今は少し反省している」

 フェリックスは苦笑を漏らしながら、肩をすくめた。

「まぁレベッカの場合は魔法で弱点付けば、よほど魔法耐性が高くない敵でないかぎり、部位破壊は容易いだろう。心配しなくても、すぐに追いつくさ」

 フェリックスのフォローに、レベッカは渋々頷いた。レベルについて気にしているつもりは無かったが、こうしてパーティを組むと違ってくる。このままでは自分が足を引っ張るのではないか――そう危惧するレベッカはどこか不機嫌そうだった。

 そんなレベッカの気持ちを一片も理解せず、緋色は楽しげに宙返りを繰り返す。以前より、遥かに敏捷性が高く、宙に二回転しても楽に着地を決めていた。それを見て、悔しさを微塵も感じなかったと言えば、嘘になる。しかし、意地になって抜き返そうとは、やはり思えなかった。

「それより、せっかく四人揃ったんですから……どうしましょう?」

 こあらんは首を傾げた。どうしましょう、と問われても、やることは限られている。基本的にはレベルアップのための狩猟、またはこのまま会話を楽しむぐらいだ。商店を開いたり、料理を作ったりもできるが、こあらん以外は戦闘に特化したスタイルなので何もできないのだ。こあらんはと言えば、必要量の知力と回復、補助系のスキル以外は料理などの非戦闘スキルも試しに上げていた。器用貧乏に陥りやすいという欠点は否定できない。しかし、好奇心旺盛な彼女らしさは活きていた。その中の一つが重力スキルだったわけで、現在の戦闘にも大いに役に立っているからだ。

 こあらん砲(命名レベッカ)は防御を考えなければ、最大四連発で鉄球を相手に打ち込むことができる。しかし、精密なコントロールは難しく、ダークドラゴンとの戦闘の際、頭に当たったのは偶然だった。ただ、数撃ちゃ当たる――二発ほど撃てばどちらか当たる上に一発の火力が大きいので、本人もあまり気にしていない。

 閑話休題、せっかく四人揃ったのだから、とそれぞれが何をしようかと考える。しかし、レベッカ以外が思いついたのは、やはり狩猟だった。三人がやんわりと視線を合わして、狩猟しかないよね? と意思疎通しているところにレベッカは提案する。

「いや、せっかくだし、これの相場を調べない?」

 レベッカが「これ」と言って差し出したのは、ダークドラゴンからドロップしたユニークアイテム――クレイモアだった。普通の両手剣の二倍ほどある柄に、刀身は軽く二メートルを超している。人がこれを振れるのか甚だ疑問な重量であったが、レベッカはそれをアイテムウィンドウに収納した。

「でも、出回ってもない物を聞いても、仕方ないんじゃないか?」

 フェリックスの言うことはもっともだ。しかし、レベッカには案があった。

「オークションにかけようと思うの」

「ほう、それは悪くない……けど、そうなると納得の値段が付かなくても売らなければならなくなるぞ?」

「大丈夫、それについてはもう手を打ってあるの」

 にこりと微笑むレベッカ――しかし、三人はその笑みにどこか薄ら寒い物を感じた。何だか腹黒そうなことを考えていると三人は考えたが、誰一人発言する者はいない。もし、それをしたらどうなるか――各々がしっかりと理解しているのだ。

 黙っている三人を満足げに見回して、レベッカは言う。

「ともかく、ここからは二手に分かれて、まずはオークションの情報を町に流しましょう」


*


「……で、具体的にはどうするつもりなんだ?」

 レベッカの後に続いているフェリックスが尋ねた。

「ん、リンスにオークション会場に潜り込んでもらうつもりだから、納得の値段まで彼女に値段を釣ってもらうわ」

「……なるほど」

 これからオークションがあると呼びかけている立場としては、あまり乗り気になれる案ではなかったが、フェリックスは渋々頷く。

「何か不満?」

「無いと言えばウソになる」

「ふふ、相変わらず正直で実直ね」

 レベッカが意地悪げに微笑むと、フェリックスは視線をそらした。そんなフェリックスの様子が可愛いので、もう少し弄ってやりたかったが、レベッカは自重して、叫ぶ。

「午後三時から噴水前で両手剣クレイモアのオークションをしますので、良かったら是非来てくださーい!」

 できるだけ人の多いところを選んで宣伝していく――そのために現在はレベッカとフェリックス、緋色とこあらんの二手に分かれて町中を歩いている。町を行く人は初耳の武器の名前に一度は視線を二人に向けた。そこで更に興味のある者は、装備のステータスなどを聞いてくることもあった。

「――で、良かったら噴水前でオークションやってるので、是非来てくださいね」

 また一人に説明し終えたレベッカが、やんわりと微笑む。黒いところを見せなかったら美女なのに――そんな思いを胸の奥底にしまいながら、フェリックスは彼女の後に続いた。


*


 その頃、もう一方――緋色とこあらんは指示された地区の宣伝を終えて、噴水前に向かっていた。緋色が前を行き、こあらんがその後ろに付いていく。しかし、こあらんの表情はどこか上の空だった。

 レベッカとの関係について緋色に聞きたいのだが、それを口に出す勇気が無かった。しかし、どうしても知りたい――その葛藤が終始続いていたのだ。

 そんなこあらんの心情を露知らず、緋色は楽しそうにステップを刻む。その背中をぼんやりと見つめながら、こあらんは二人の関係について考えていた。

(付き合っている、って感じではないんだけどね。でも、レベッカさんから緋色さんに向けて、何かしらの好意のようなものを感じるのは確かなんだけど……恋愛対象とは言い難いのよね)

 こあらんは真剣な顔つきで、こんなことを考えていた。そのせいか緋色が立ち止まっていることに気づかず、そのまま彼の背中に鼻っ柱をぶつけた。

「あ、ごめん。大丈夫?」

 こあらんが涙目になりながら少し赤くなった鼻をさすっていると、緋色がメッセージウィンドウを開いているのが見えた。

「いえ、こちらがぼんやりしてましたから……どうかしたんですか?」

「ん、レベッカから撤収命令が届いたんだ」

 命令って――こあらんはその言葉に思わず苦笑が漏れた。上下関係という単語が頭を過ぎり、笑いを堪えることができず、中途半端な苦笑になったのだ。

 しかし、それを痛くて漏らした苦笑だと勘違いした緋色は、心配そうにこあらんの覗き込んだ。

「ごめんね」

 そう言いながら、こあらんの鼻先に触れる。突然のことでこあらんの思考は停止し、なされるがままになっていた。それから少し遅れて、恥ずかしさがこみ上げてくる。見る見る間に赤く染まっていくこあらんの顔――それを見て、緋色は首を傾げた。

「だ、大丈夫ですから!」

 慌てて離れるこあらんに、更に首を傾げながら緋色は謝った。

「い、いや、いいんですけど……緋色さんはレベッカさんのこと、好きじゃないんですか?」

 混乱の極みに達していたこあらんの口から、疑問が零れ出た。しまったと思う反面、聞けて良かったと思うこあらんだったが、やはり混乱の極みで考えがまとまることはなかった。

 そんなこあらんを見て、緋色は相変わらず不思議そうに首を傾げる。

「とりあえず、落ち着きなよ?」

 緋色は珍しく苦笑を漏らす。その言葉通り落ち着きたいところであったが、こあらんの心臓は未だ普段より速いペースで拍動しているのを感じていた。

「どうして、僕がレベッカのこと好きだって思ったの?」

 こあらんが何度か深呼吸し、少し落ち着いたところで、緋色は尋ねた。

「だ、だって、二人はとっても仲が良いじゃないですか」

「んー、ギルドのメンバーは皆、仲良いけどね?」

 それは、ここ最近ギルドに出入りしているこあらんも知っていることだ。しかし、その中でも緋色とレベッカは特に仲が良いように見えた。年の差を感じさせない気軽なやり取りを見ていれば、それは誰もが気づくだろう。しかし、それが緋色の性格だとは、こあらんもこの時まで気づけなかった。

 これが緋色の性格なんだ――それに気づいた途端、二人の関係が発展しないことに納得がいったこあらんはため息をついた。

「天然なんだかなぁ……」

「ん、何か言った? 」

「いいえ、何でもないです」

 いつものような柔らかい笑顔ではなく、少し脹れたような顔で答えるこあらんに緋色はただただ首を傾げ、それに対してこあらんはやれやれと肩を竦めるのであった。

 そんなやり取りをしている間に、こあらんと緋色は噴水前にたどり着いていた。先に到着していたレベッカとフェリックスの姿を捉えると、緋色は指差した。

「あ、フェリックスとレベッカだ。行こう!」

 緋色はこあらんの手を引き、駆けて行く。緋色の敏捷性に追いつけないこあらんは足がもつれ、引きずられそうになった。そんなこあらんを見て、緋色はこあらんを抱き上げる。

「きゃっ!? ちょ、ちょっと!?」

 慌てるこあらんを無視して、緋色は更に加速する。しかし、こあらんの視界に映る光景はスローモーションに見えた。その時、遠くからこちらを見つめるレベッカと目が合う。その悟りきったような濁りのない瞳にこあらんは戦慄の冷や汗を流した。少しでも遅れて、あの場に辿り着きたい――こあらんは願うが、そんな気持ちを露知らず緋色は駆けていった。


*


 レベッカは、こあらんをお姫様抱っこした緋色の姿を見た途端、何とも言えない感情が彼女を満たした。嬉しいと思う反面、何となく寂しいような――まるで離れしていく子を見ている親ような心境に陥り、レベッカの思考は一時停止した。

「おい、レベッカ。目が死んでるぞ」

「ごめんなさい、ちょっと悟ってた」

「……そうか」

 そんなレベッカの様子を見て、フェリックスは焼きもちかな、と邪推する。しかし、そうだとすると、あの瞳の澄み渡った色は何なのか――それだけが疑問として残った。

「お待たせー!」

 そうこうしている内に、緋色とこあらんは二人の下に到着した。緋色はいつも通り元気一杯だ。しかし、彼に全ての元気を吸われてしまったかのように真っ青な顔つきで俯くこあらんに、フェリックスとレベッカはお互い視線を合わせて首を傾げた。

 そして二人の出した結論はこうだった。

「ひー……あんた、こあらんに何したの?」

「内容によっては……斬り捨てられることも覚悟しておけ」

 レベッカは緋色に軽蔑の眼差しを向け、フェリックスに至っては町中であることも構わず、抜刀した。実際はPK不可エリアなので斬り捨てることも不可能なのだが、今のフエリックスはそうしなければ気が済まなかった。

 そんなフェリックスの様子を一瞥したレベッカは、新たな恋の予感に顔がにやけそうになるのを堪えた。

「え、ちょ、どうしてこうなった!?」

 殺気をその身から溢れ出させているフェリックスと苦笑を漏らすレベッカを見やりながら、緋色は戦慄の冷や汗を流す。何故こうも戦闘とは関係無いところで冷や汗を流すのか――緋色はそんなことを考えながらも、現状をどう打開すべきか必死に頭を回す。

「と、とりあえず、フェリックスは剣を収めて! 一体、僕が何したの!?」

「それは俺が問いたい……こあらんに一体何をした?」

「え、私!?」

 何故か問題の渦中になっていたこあらんがびくりと体を震わせた。しかし、彼女も何故こうなったのか分からず、おどおどと三人を見やることしかできない。

 そんな三人を見て、レベッカは若いって良いなーと思っていたのは、余裕の無い三人は知る由も無い。しかし、一番の年長者であるが故か、やはりここは自分が収めないと――実際はネットで年齢なんて関係ないと考えていたが、レベッカが仲裁に入る。

「まぁまぁ、もう時間だし、話は後で聞きましょう。ほら、人も集まって……無いわね」

 向けられる視線は痴話喧嘩に対する好奇の視線だけで、噴水前の広場にオークション目当てでやってきたような人はいなかった。

「何でかしら?」

 レベッカは首を傾げることしかできない。フェリックスもようやく落ち着いたらしく、周囲を見やって眉をひそめた。

「やはり名前が広まっていないから、ぴんと来なかったのか?」

「でも、何人かにはステータスの詳細を教えたじゃないの」

 確かに、とフェリックスは腕を組んで考え込む。こあらんも緋色も同じように考えてみるが、何が悪いのか分からなかった。ただ、無言のままでは仕方が無いので、緋色は疑問を口にした。

「攻撃力を見るかぎり、かなり強い武器だと思うんだけど……耐久度も申し分ないし、大剣使いだって少ないわけじゃないから市場だって――」

「待って、ひー。そこまで説明されたら私の出番が無くなるわ」

 現在大学生のレベッカが顔を引きつらせながら、緋色の説明を止めた。経済学を専攻しているレベッカの分野なので言っていることは理解できるのだが、これでは本当に大学に通っている意味があるのか甚だ疑問に思うのであった。

 しかし、市場の動きや需要について手軽に学べる環境として、この世界は確かに悪くない――同時にそんなことを考えていたレベッカは、この世界でより多くのことを学べるのではないかと考えた。古臭い考えに囚われてゲームそのものを非難する大人たちに、この世界を見せてやりたい。残虐なゲームやアニメが人に及ぼす影響については、詳しいことは分からないレベッカだが、それでも悪いことばかりではない、こうして学べることもあると大人たちに叫びたかった。

 そんな思考を一時停止させて、レベッカは顔を上げる。

「ともかく、緋色の言う通りなんだけど――」

「よう、レベッカ。オークションはどない?」

 首を傾げ、唸りながら頭を悩ませる四人に聞き覚えのある声が届く。一斉に声の方に振り返ると、そこにはギルドのマスター、クロウと副マスターのリンスが四人の下に向かってくるところだった。

 リンスはともかく、クロウさんまで? とレベッカは首を傾げる。リンスには前もって計画を伝え、時間に来てもらうことになっていたが、一緒にやってきたクロウは予想外だったのだ。

「面白そうなことしてるのに、何で呼んでくれんの?」

 ニヤニヤと笑うクロウの後ろで、リンスがごめんと手を合わせた。なるほど、とレベッカは微笑むが、その笑みを見て、リンスの背筋に悪寒が走った。

「で、オークションやってるの?」

「いや、それがさ……せっかく説明したのに人がさっぱり集まらないんだよ」

 緋色が答えると、クロウとリンスも首を傾げた。

「ちょっと見してみ?」

 クロウの言葉に従い、レベッカはウィンドウを表示してクレイモアを実体化させた。それをクロウに渡すと、彼は思わず息を呑んだ。

「これは……凄い攻撃力と耐久力やな」

「私のレイピアの三倍ぐらいの攻撃力がありますよ、これ」

 横に並んでクレイモアを見つめるリンスも、驚きの声を上げた。しかし、そこでクロウの表情が曇る。

「この重さやと、かなり高い筋力値が必要とされると思うけど……」

 能力の全てを幸運に振っているとは言え、レベル百十のクロウでもクレイモアは持ち上がらなかった。これでは振り下ろすような基本的な動作はおろか、身動きすら取れないだろう。

「それでも筋力に振っているランカーなら充分に使えると思うのですが……」

「なら、そいつらに直接、武器の買取を申し出ないと無理やろ?」

 フェリックスの言葉に当然と言わんばかりに、クロウは答える。そのままじっとクレイモアを見つめていたクロウは、やがて口を開く。

「初めて見る武器やけど、どこで手に入れたん?」

 クロウの質問に答えるべく、レベッカが丁寧に説明する。四人が初めて揃った日に、向かったダンジョンで目の当たりにした男と竜の激戦について、彼女は覚えているかぎりの全てを話した。

「――で、その人は既に四体も倒していたようで、最後の一体のドロップは分けてくれたんです」

「凄いですね……私にはとても真似できません」

 百を超すレベルのリンスですら、その男の強さに舌を巻いた。しかし、クロウはどこか余裕を感じさる表情で静かに頷いた。

「なるほど、そうかそうか」

 クロウは顎をさすりながら、静かに考える――この子たちも随分と強くなったな、と。そして、目の前の四人を見ながら、クロウは思いついたことをそのまま口にした。

「来週の闘技大会に出てみたら、どうや? お前ら四人なら良いとこまで行くと思うけど」

「ああ、そういえば……そんなイベントもありましたね」

 レベッカが思い出したように言い、そのまま続ける。

「確か、ソロ、ダブル、トリプルの部があって、グループやペアでも参加しやすいと聞きましたが、あまり景品が良かったとは思えないのですが……」

「まぁ確かにそうやけど、対人戦を経験しておくことは重要やで。もし、PKと対峙することがあったら、絶対に役に立つ。それに、この大会で負けても失うもんはないから、何事も経験やって考えて行ってこい」

「そうよ、PKKがPKにやられてちゃ話にならないからね」

 リンスの後押しもあり、レベッカは静かに頷いた。

「そうですね、行ってみます。わざわざ、ありがとうございます」

 レベッカが頭を下げると、クロウは肩を竦めて苦笑を漏らした。

「ええから、ええから。ほら、さっさとエントリー行ってこいや」

 クロウの提案を受け、四人は闘技大会の受付に向かって歩いてゆく。その後姿を見送りながら彼は呟く。

「……強くなれよ」

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