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僕らのオンラインRPG!  作者: 小石 汐
ヴァーチャルリアリティの世界にようこそ。
10/25

大会後、打ち上げにて。

 先ほど一番の見せ場――ソロ、百以上の部の決勝が終わったというのに、闘技場は熱気が冷めるどころか、衰える気配すら見せなかった。これから各部の優勝、準優勝、三位までが表彰されていく予定だ。観客からすれば、面白みも何もないはずなのだが、熱い熱い戦いの余韻に酔いしれているのか、誰もが興奮した様子で戦いを語り続けている。

 そんな中、場違いなほど冷めた様子で闘技場を見下ろす男が二人いた。一人は椅子に浅く腰掛け、背もたれにだらしなく身を預けている。もう一人は膝に肘を置いて顔の前で手を組み、じっと闘技場を見つめていた。二人とも口を開くことはない。そんな二人は明らかに浮いているのだが、未だ冷めぬ興奮のためか、周囲がそれに気づくことはなかった。

 そして、しばらくして入賞したチームやプレイヤーが全員闘技場に揃った。一層盛り上がりを見せる観客たち――そんな彼らを、だらしなく席に腰掛ける男は蔑んだ目で一瞥し、口を開いた。

「まったく……何がそんなに嬉しいんやろか」

「さぁね」

 隣の男――ヴァンは全く興味がないと言わんばかりに、即答した。目にかかる黒い髪を鬱陶しそうによけながらも男はじっと闘技場を見つめている。その瞳には何かしらの嫌悪のような色が僅かに浮かんでいた。

「それにしても良い大会やったね」

 相変わらずだらしなく腰掛けている男だったが、その目に宿る光に冷たさが混じる。まるで上空から獲物を探す鷹のような瞳を見れば、誰もが恐怖し、身が竦むに違いない。しかし、一瞬だけ闘技場から目を離して男を一瞥したヴァンは、そんなことを気にする様子もなく、小さくため息をついた。

「どうしたん、ため息なんてついて?」

 隣の男は愉快そうに微笑みながら問うが、ヴァンは静かに首を横に振った。そんなヴァンを見て、男は言う。

「ため息ばっかりついてたら幸せ逃げるで?」

「誰のせいだと思ってやがる」

 今まで静かに闘技場を見つめていたヴァンの言葉に怒気が混じり、そのまま男を強く睨みつけた。そんなヴァンを男は冷ややかに見下ろす。しばらく二人は対照的な表情で睨みあったが、やがてヴァンは悔しそうに顔を歪めて視線を逸らした。

「まぁええやん、そうイライラすなって。ゲームの世界なんやから」

 先ほどとは一変し、また軽い調子に戻った男。しかし、ヴァンはそれに応じず、黙殺を決め込んだ。

「つまらん、やっちゃなぁ……まぁええけど」

 そんなヴァンから目を離し、男も闘技場に並ぶ入賞者を見やった。その中の一人、褐色の髪をポニーテイルにしている後姿をじっと見つめたまま、男は恍惚の表情を浮かべる。ぱっと見れば女の子にも見える少年――緋色を見つめたまま、彼は言う。

「あの子、ええな」

「あの子とは?」

 男が興味を持った対象が気になり、ヴァンは静かに尋ねる。本当は一言でも交わしたくない相手だが、ここはぐっと堪えた。

「褐色のポニテの子や、名前は緋色って言うんやけど」

 その後ろ姿をヴァンも見つけ、より一層顔を歪めた。緋色を含め、その左右に並ぶ女性二人にも見覚えがあったからだ。

「ん、どうしたん?」

 そんなヴァンの表情を見て、男は怪訝そうに首を傾げた。

「……あいつらがダークドラゴン戦で俺を助けてくれた。あともう一人、前衛がいたんだが――」

「そうなん? あー、そうかそうかぁ」

 それを聞いて、男は笑みを一層深くする。それは、まるでヴァンを見下すような暗く、汚い笑みだった。

「まぁ気にしたら負けやて。それに既に知り合いなら尚更ええないの」

 にやにやと意地悪げな笑みを浮かべ続ける男を無視して、ヴァンは再びため息をついた。いつになったら、この憂鬱から解放されるのだろうか――募る苛立ちを飲み込むたびに、腹の底で黒い何かが育っていくような感覚を覚えながら、ヴァンは俯く。

 そんなヴァンを相変わらずの笑みで見下しながら、男は席を立った。そしてヴァンの肩をぽんと叩いて彼は言う。

「まぁ君にはまだまだ期待してるで?」

 それだけ言い残して、男は去っていった。しかし、ヴァンは固まってしまったかのように、席に腰掛けたまま微動だにしない。その表情は今まで見た中で最も険しく、同時に嫌悪感で満たされていた。男の言葉が死の宣告のような重みを孕み、ヴァンの両肩に重く圧し掛かる。それから少しでも解放されようと、ヴァンは深いため息を吐いた。


*


 表彰式を終えた緋色、レベッカ、こあらんとニャウン、スノウ、葵の六名。またソロの部で決勝トーナメントでは初戦で負けてしまったフェリックス。そして同じくソロの部でベストフォーまで進み、準決勝で敗れ、三位決定戦でも惜敗を喫したリンス。そして出場していないが、そんな彼らを祝わんと終結した天空の使者のギルドのメンバー――彼らは酒場の一角を占拠していた。目的はもちろん、入賞者のお祝いや出場者の労いを込めた打ち上げだ。

 酒場とは飲んで騒ぐ場所なので、普段からそれなりの賑わいを見せているところなのだが、このときだけは大所帯が派手に騒ぎ立てていたので、周囲から奇異の視線を向けれることもあった。

 そんな中、ギルドのメンバーではないニャウン、スノウ、葵、こあらんは揃って引きつった笑みを浮かべていた。無理やりでもテンションを上げて馴染むために、こあらんも酒を飲んでいくが、あまりの騒ぎ具合に完全に引いてしまっている。恋愛沙汰には凄まじい強さを発揮する彼女だが、こういった雰囲気はあまり得意ではなかったのだ。

「ほら、優勝の立役者なんだから、もっと飲めよ!」

 知らない人――恐らく天空の使者のメンバーなのだろうが、こあらんとは全く面識の無い人まで絡んでくる。それに無理やり笑みで応えながら、こあらんはグラスを傾ける。

「あんたらも凄いわねぇ……準優勝なんて……ねぇ無所属なら、私たちのギルドに入らない? 可愛いし」

 緑の髪をセンターで分けた女性――ギルドの副マスターを勤める椿がニャウンの肩に腕を回し、引き寄せながら言った。その顔は赤く、随分と酔っている様子だったので、ニャウンはただただ苦笑を漏らすだけだった。

 そんな荒れに荒れた風景を緋色はぼんやりと見つめながら、ちびちびとドリンクを飲んでいた。ここではアルコール類の摂取に年齢の制限が設けられておらず、緋色でもお酒を飲めるのだが、彼はあえて普通のソフトドリンクを選んでいた。

 お酒とは言え、実際にアルコールを摂取しているわけではないので、皆は擬似的に酔っているだけなのだ。とは言え、ここでお酒の味を占め、現実世界でもお酒に手を出す未成年が増えては困るとのことで、近々規制が掛かるらしい。しかし、緋色は律儀にお酒が二十歳を超えてから、とソフトドリンクを選んだのであった。

 そんな緋色の瞳は定まっておらず、辺りを見ているようで実のところはぼんやりと虚空を見つめていた。心ここにあらず、で彼は闘技大会の決勝のことを思い巡らせていた。

(何だか不思議な感じだったなぁ……)

 緋色は無意識にドリンクを口に運びながら思う。まるで体から羽が生えたかのような軽さだった。思考と体が完全に一致し、全ての動きが脊髄反射のような鋭さを持って、その身をを操った。そのお陰で、スノウの剣を体捌きだけで躱し続けることができたのだ。それは今までにない感覚だった。

 次の戦いでも、その感覚を得られるだろうか――そう思うと、次の機会が楽しみで仕方なくなり、今すぐにでもダンジョンに飛び込みたくなった。その思いをギリギリで堪えて、そっと息を吐く。そして現実に戻ってきたかのように、周囲を見渡して柔らかく微笑む。

 今はこの雰囲気を楽しもう――コップを大きく傾けて、緋色はドリンクを全て飲み干した。

「おおー、良い飲みっぷりじゃないのー」

 その声に反応し、振り返ろうとしたところで背中に重みと温かさを同時に感じた。首に腕が絡みつき緋色の動きを拘束する。何とか首を捻り、振り返ると、レベッカが微笑んでいた――真っ赤な顔で。

「わ、ちょ! レベッカ酒臭っ!」

 思わず緋色は叫び、腕を解こうとするが、この酔っ払いの絡みつきはそれを許さない。

「えへへー、ひーちゅっちゅー」

「わー! レベッカ、待って! 皆見てるからー!」

「嫌だよーう、ぐへへー」

 わたわたと暴れる緋色――純粋に力を発揮すれば、振りほどくのも容易い。しかし、緋色はそれをしなかった。無理に振りほどいて、レベッカに怪我を負わせたくなかったからだ。紳士というには、まだ幼いところの多い緋色だが、根は優しく、気がよく利く子だった――恋愛感情はともかく。

 そんな二人を、こあらんはドヤ顔で見つめていた。

(レベッカさんは表面的には落ち着いた女性に見えますが、やはりそれは仮面ですね……! 私の目に狂いはないわ!)

 不意にこあらんの口から不気味な笑い声が漏れる。そんなこあらんを見て、スノウの背筋を戦慄が駆け抜けた。

(身内にすら、その矛先を向ける気か……!? とことん腐ってるっ!)

 そんなこあらんから視線を逸らすと、反対側のニャウンのことが気になって、見やった。そこでスノウは絶句する。何故なら目に一杯の涙を溜めたニャウンの姿がそこにはあったからだ。それは今にも決壊しそうな堤防を見ているようで、スノウは全身から冷や汗を噴出した。

「ニ、ニャウン、彼女酔ってるから……レベッカは酔ってるから……」

 普段から口数の少ないスノウは諭すように静かに言うが、ニャウンの耳に言葉が届いた気配は無い。よくよく見てみると、ニャウンは耳だけでなく首や指先まで真っ赤になっていた。そこでスノウは彼女もかなり酔っていることに、ようやく気づく。

 そして、ついに堤防が決壊した。ニャウンの目じりからぼろぼろと大粒の涙が零れていく。どうしたものか、と色々と思案を繰り返すが、これといった良案が思い浮かぶことはなく、スノウはわたわたとしながらニャウンの背中を撫で続けた。

 そんな二人とレベッカを冷めた目で見やりながら、葵は言う。

「ここから逆転するには、それなりの作戦が必要ね……」

 その言葉にスノウはぎくりと体を震わせた。この子が作戦とか言い出すとロクなことになった例がない。余計なことはするな、と口パクで伝えようとするが、葵はさらりと無視してグラスを傾けた。

「さ、作戦……?」

 そんな葵の言葉にぴくりと肩を震わせて、反応を示すニャウン――未だぼろぼろと涙を零し続けているが、まるで希望を見出したかのように瞳には光が宿っていた。

「色気で――いったぁ!! スノウ何すんの!!」

 最初の言葉で、スノウは反射的に手を振った。その手は葵の後頭部を叩き、スパンといい音を立てた。

「黙れ、黙れ! 何が色気だ! ニャウンにそんなものはない!」

 冷静に見えたスノウ――実は彼女も酔っているなんて誰も思いはしなかった。見知らぬ集団に放り込まれた緊張を少しでも和らげるために、ちびちびと飲み続けていたアルコールがここでマイナス方面に力を発揮したのであった。

「す、スノウ、酷い!」

 ついにニャウンが大声を上げて泣き喚き始めた。それを挟むようにして立ち上がったスノウと葵――険悪な雰囲気が二人を包み込む。そんな二人を興味なさげに一瞥する、こあらんが「潰しあえ潰しあえ、ふはは」なんて思っていることは誰も知らない。

 こあらんとは反対側でニャウンたちを挟むような席に位置するフェリックスは隣の葵を見上げながら思う。

(どうしてこうなった……!)

 葵の反対側に座る、ソロの部四位の成績を修めたリンスは何が面白いのかケタケタと笑い続けながら、フェリックスの背中をバンバンと叩いていた。

「あー面白っ、ねーフェリックス聞いてるぅ?」

「き、聞いてますよ、リンスさん」

 さっきから笑ってるだけじゃないか、というツッコミをアルコールと一緒に飲み込んで、フェリックスは顔を引きつらせた。彼はアルコールにかなり強く、よっぽど飲まないかぎり酔えない――その思い込みが彼の酔いを遅くさせているのだ。そんな自分の体質をこの時に初めて恨みながら、彼も自棄になって次々とグラスを空にしていくのであった。

 そんな大騒ぎな所帯を静かに見つめる男が一人――クロウは成人だが、手にしているのはソフトドリンクだった。何故、彼は飲まないのかと言えば――

「やっぱり酔っ払いは、遠くで静観が一番面白いなぁ」

 そう言って、楽しげにグラスを傾けるのであった。しかし、彼の平和はまもなく崩れ去ろうとしていた――

「クロウさん、こんなところで何してるんですか?」

 呼びかけに応じるようと振り替えると、顔を真っ赤に染めた椿の姿があった。クロウは本能的にヤバイと悟りながら、この危機的状態をどう潜り抜けるか思案する。

「いんや、皆楽しそうやなぁって」

 再びグラスを傾けながら、クロウは無難に答える。それを聞いて椿も嬉しそうに頷く。

「椿も随分と楽しそうやんか。お前のそんな姿、初めて見た気がするで?」

 クロウの言葉に他意はない。ただ本当に楽しそうな椿の姿を見るのが初めてだったから、素直に述べただけだった。しかし、その言葉で椿の表情は一瞬にして消え失せる。それを見て、クロウはしまったと思う。何が原因かは分からないが、地雷を踏んだことだけは理解できた。

 二人の間に流れる沈黙は重いだけではなく、ちくちくと肌を刺すような痛みをはらんでいる。それに耐え切れなくなったかのように、クロウは席を立った。

「……悪い、ちょっと用事あるから先に帰るわ。代金はギルドの貯蓄から出しといてくれんか?」

 それに椿は無言で頷く。その表情は先ほどまで酔っていたとは思えないほど、悲しげなものだった。それから逃げるようにしてクロウは去っていく。

 しかし、椿以外はクロウが去っていくことに気づかず、宴は続いてゆく。そこに一人、一瞬にして酔いから醒め、俯く椿の姿があった。


*


 クロウが去ってからも、天空の使者の馬鹿騒ぎは衰えることはなかった。とは言え、クロウは基本的に静観する立場だったので、彼がいなくなったことで全体の士気が下がることはない。酔っていなければ、誰かが帰ると言った時点でお開きにしたかもしれないが、この時は誰一人クロウが立ち去ったことに気づいていなかった。

 いつしか店内には天空の使者の一行だけになっていた。店に入ってきても、この馬鹿騒ぎを見て、すぐに出て行く客もちらほらいた。そんなことはお構いなしと言わんばかりに――否、気づくことなく彼らは騒ぎ続ける。これが現実の店なら注意されただろうが、ここではNPCしかいない。もしGMに見つかれば、少し注意を受けただろうが、そんなピンポイントでGMが現れることもなかった。

 そんな中、また一人の客が酒場に訪れた。屋内だと言うのに麦わら帽子に大きめのマントを羽織っている男は辺りを見回して、馬鹿騒ぎする一角へと足を進める。麦わら帽子からは青い髪が僅かに覗いており、かなり大きなリュックサックを背負っていた。

 そして天空の使者の一行が見えるところまでやってきて、彼は足を止めた。そこで誰かを探すように視線を動かす。そして褐色の髪をポニーテイルにしている少年を見つけると、彼は再び足を勧めた。彼は緋色の下まで進むと、静かに口を開く。

「緋色さん、ですか?」

 緋色は落ち着いた口調を聞いて、未だに引っ付いているレベッカを少しだけ無理やり引き剥がしながら振り返った。ぶーぶーと頬を膨らませているレベッカを無視して、彼は答える。

「はい、そうですけど?」

「ああ、良かった。今日の試合、拝見させていただきました。本当に素晴らしかったです」

「は、はぁ……どうも」

 突然の来客に緋色は戸惑いながらも、頭を下げる。そんな緋色を男はじっと見つめた。やがて彼は口を開く。

「実はお願いがあって、やってきたのですが……ああ、失礼。まだ名乗っていませんでしたね、私はモグリと申します。武器の行商人をやっております」

 ぺこり礼儀正しくと頭を下げるモグリに対し、緋色も同じく頭を下げた。

「よろしくです……で、お願いって何ですか?」

 行商人が一体何のお願いだろうか――緋色は疑問をそのまま尋ねた。

「ああ、あなたたちの強さを見込んで、お願いがあるんです」

 そこでモグリの瞳に真剣な色がきざす。それを見て、緋色は気圧され、思わず息を呑んだ。

「あなたたちに討伐してもらいたいボスモンスターがいるんです……先週に大会直前のアップデートがあったでしょう? その時に追加されていたダンジョンのようで、ついに先日見つかったところがあるんです。そこで――」

「え、ちょっと待ってください」

 そこで緋色は一度モグリの言葉を遮って、疑問を口にする。

「何で僕らに? 三対三の百以上の方とか、他にもソロで優勝した人とか一杯いるじゃないですか?」

「百以上の部で優勝した方々には断られてしまったのです。そんな低いレベルのダンジョンにいく意味は無いと言われまして……」

 がっくりと項垂れるモグリを不憫に思いながら、緋色は頷く。

「どうでしょう、引き受けていただけませんか? こちらでダンジョンの位置情報と武具、防具の提供はさせていただきます。その代わりに、もしレアな武器を手に入れたときに、それを安く売っていただけないでしょうか?」

 断られ続けてきたせいか、モグリの顔はやや疲れの色が滲んでいる。しかし、その瞳はぎらついており、野心のようなものが垣間見えた。

 そんなモグリを見て、根っからの商人なんだなぁと緋色は感心する。

「僕は別にいいんですけど、ダンジョンとなるとパーティを組むことになりますから、ちょっと他のメンバーにも聞いてみないと……わ、ちょレベッカ! 今、真剣な話してるんだって!」

 モグリが近くにいるのも構わず、レベッカは緋色にしな垂れかかった。そんなレベッカを優しく受け止めながらも、緋色はついつい苦笑を漏らす。

「って、寝てる……」

「はは、仲がよろしいようで」

 モグリは微笑みながら言ったが、緋色は申し訳ない気持ちで一杯だった。

「すみませんが、今日ここで返事を出せそうにありません……レベッカが――えっと僕のパーティのメンバーがこの状態なので」

 緋色の膝ですやすやと寝息を立てるレベッカを、緋色は指差した。

「いえいえ、結構ですよ。私の名前はカタカナでモグリですから、いつでもメッセージをください。しばらくはこの町に留まる予定ですから」

「分かりました」

 モグリは再びぺこりと頭を下げて去っていく。その後姿に、緋色も頭を下げて見送った。モグリの背中が見えなくなった頃、眼下のレベッカを見て、彼は苦笑を漏らす。普段、皆といる時は大人っぽいレベッカ――そんな彼女のギャップについつい微笑みながら、緋色は優しく頭を撫でた。

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