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第六話 当て馬は逃げられない運命だった



 余計なことはせず、しばらくはアルフレッドに任せようと決めて早一ヶ月。


 この間、直接的に余計なことはしていない。ただ、ひっそりこっそりと、アルフレッドの長所を先生に勧めてはいる。大体が不思議な顔をされるか苦笑されるかで、『二人は仲良しなんだね』と爽やか笑顔で終わってしまうから何とも言えないところではあるが。


 一方で、アルフレッドとの関係はというと……

 非常に距離が近くなった。これに限る。


 マリユス先生の前で披露してしまった手前、引くに引けなくなったのか。たとえば座って話をしている場合、以前は肩が触れ合うくらいだったのが、今は手を繋いでいたり肩に手を置かれていたり、時には体の側面がくっついていたりと……とにかく距離を詰めてくるようになった。

 しかもこの距離感は先生がいない場合にも適用されるようになり、絶対に先生がこない時間だからと一歩避けたら二歩分詰められ、まるで隙間を埋めるかの如くやって来る徹底ぶりだ。


 そのため、半月程で抵抗を諦めた私だったが……

 そんは私たちの様子を見て、友人の一人であるメアリが、


「毎日熱烈ですわね」


 と言ったものなら。そんなことない、と私が言うより早く、隣にいるアルフレッドが即座に反応する。


「メアリ嬢、やっとリズも逃げなくなってきたところだから、あんまり照れさせないで」

「あら、それはごめんなさいね」

「アルフレッド様はリズウェル様にお優しいですわ」

「恋人だから当然でしょ? 皆の婚約者が親切じゃないなら、俺から一言言っとくよ。友達が悲しんでたら、リズも悲しむし」


 周りで聞いていた友人たちから、アルフレッドへと声援が上がる。彼は随分と、私の友人たちとも仲良くなっている。

 これが最早、休み時間恒例となっている。人間の慣れというものは本当にすごい。



 ただ、このような近距離アルフレッドを除けば、学園生活自体は順調だと思う。彼の存在が当たり前となっても友人たちとの仲が切れることはなく、むしろ良好な関係を築けている。


 アルフレッドと仮の恋人となってからは、三ヶ月。

 この話を持ちかけられた時に想像したよりずっと、私は笑って、毎日を過ごせていた。



 ◇



 寒さも和らぎ、昼間はぽかぽか陽気を感じられるようになってきたある日のこと。


 その日はアルフレッドのクラスの授業が長引き、別々で昼食をとった。私はメアリと一つ下の彼女の婚約者と三人で食べ、メアリにはゆっくりしてね、と声をかけて先に食堂を出た。

 すると幾分も進んでいないところで背後から声をかけられ、振り向くと話したことのない同学年の女子生徒が三人。


「ヴィガノ様、お話ししたいことがありますの。少々、お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 そう答えると、私は三人組に人気のない廊下まで案内された。こんなところで何の話だろうと辺りを見回している、三人の真ん中に立つサーラ・グイディ伯爵令嬢が、自己紹介の後、鋭い声で私への要求を口にした。


「ヴィガノ様、単刀直入に申し上げます。ダンスパートナーの交代を申し出てください」

「え? ダンスパートナーって……舞踏会の?」


 舞踏会は一年に一度開催される行事で、学園生は基本的に全員参加必須だ。ダンスパートナーは事前に申告する必要があり、通常ならば婚約者や親族、友人同士がパートナーとなるのだが……


「その、ダンスパートナーを? どうしてほしいと?」

「アルフレッド様を説得して、私と交代してください!」

「えっ、えーっと、あの──」

「私は過去二年、アルフレッド様のダンスパートナーを務めました。だから……今回も私を選んでくださると信じておりましたのに! お断りされた上に、あなたの名前を書いて提出したと……私、今日まで必死に受け入れようと思ってきたのですが、どうしても諦めきれませんの!」


 ワッと泣き始めるサーラ。左右にいる女子生徒が彼女の肩を抱き、私をギロリと睨んでくる。


 ……しかしながら、私はそれどころではなかった。

 なぜならば、彼女の言葉に自身がとんでもない失態を犯していることに気がついたからだ。


 これは……なかなかにマズいのでは?

 いや、本当に。考えれば考えるほど……


「ど……どうしましょう」


 途方に暮れた私は、泣いている同級生を前に頭を抱え、思わず呟いていた。


「……どうしましょう、とは?」


 聞いてきたのは、サーラの左右どちらかにいる生徒だった。その問いに私は震える声で返す。


「何も考えず、マリユス先生のお名前を書いて提出してしまったわ……!」

「ええっ!? どうしてそんなことを!?」

「毎年、マリユス先生にお願いしていたし、それこそ去年、『来年も私のパートナー枠はあなたにあけておくから、遠慮なく申し込んでね』なんてかっこよく言ってもらったものですから! 今回もサクッと書いて出してしまいましたわ!」

「えええ!? アルフレッド様のお名前を書いておりませんの!?」

「書いてません! 『オレリー・マリユス先生。よろしくお願いします。』と大きく書いて出しました!」


 私の発言に唖然とする三人に、鬼気迫る表情で詰め寄った。


「確か訂正期限がありましたよね? それはいつまでかご存知で!?」

「今日ですわ」

「ええっ!? 大変!」


 何をやっているんだ、リズウェル・ヴィガノ!

 当て馬が本命とダンスを踊るなんてどういうこと! そこは当て馬らしく彼と踊っているところをマリユス先生に見せて、その後に先生のところへ行くよう、アルフレッドを促すべきでしょう!


 ……もしもこの失態が知られたら、今度こそ、アルフレッドに本気で怒られる。

 と、ここまで考えて一つ、名案が浮かんだ。


「……そうだわ。パートナー交代……そうよ、その手があったわ!」

「ヴィ、ヴィガノ様?」


 私の挙動に怯えつつあった三人に、ありがとうございます! と満面の笑みを向ける。彼女たちのおかげで、どうにか明るい未来が見えた。

 そして善は急げと、私はもうその場を去る態勢を整える。


「ごめんなさい。私、行かなければならないところができたので、お先に戻りますね!」


 ごめんなさいねー! と謝りながら、私は駆け出した。


 目指すは中庭。いつも個人鍛錬として素振りをしている協力者──アルフレッドの友人、レナートの元だ。



 協力者となってもらうべくレナートを探し出した私は、すぐに先ほどひらめいた計画を伝えた。てっきり快く了承されるかと思ったが、返ってきたのは困惑全開の反応だった。


「……待ってくれ、ヴィガノ嬢。それは君が素直に、ダンスパートナーをアルフにすれば済む話では?」

「それでは足りないのです。お願いします。彼には悪いようにしませんから」

「いや、どう考えても……」


 右頬を引きつらせて戸惑うレナートに、私はとにかく頭を下げてお願いするしかなかった。


 今回のど忘れは、間違いなくアルフレッドの機嫌を損ねる。そうなった場合の挽回策として、私が彼のパートナーに収まるよりもっと、彼が喜ぶ相手をパートナーにしておけば気分も浮上するはずだ。


 ということで、私が考えた計画はこうだ。

 まず、放課後すぐにレナートにアルフレッドの足止めをしてもらう。その隙に私はマリユス先生の元へ行き、ダンスパートナーの辞退を告げる。

 そして私が空いた枠、マリユス先生のパートナーにアルフレッドを推薦するのだ。これであれば、マイナスはあってもプラスが大きくなる。


 この計画の協力者にレナートを選んだ理由は、単純明快。

 レナートでなければ、彼は止められないから。


「お願いします。十分で良いんです。彼を教室に留めてください!」

「……アルフは君との時間を本当に大切にしている。彼の楽しみを奪うようなことはしたくない」

「この計画が成功すれば、彼はもっと幸せになれますから。どうか、お願いします。私たちの未来のためにご協力ください」


 そう言って深く頭を下げたところで予鈴が鳴った。

 しかし音が鳴り止んでも頭を下げ続ける私の本気度が伝わったのか、大きなため息の後、分かった、というレナートの返事があった。


「話は受ける。ただ、成功するとは思わないでくれ」

「ありがとうございます! 助かります!」


 顔を上げて感激いっぱいでお礼を言うと、ビクッとレナートの肩が上がる。少々勢い良すぎたか、と反省しつつ、時間も時間なのでそれでは、と姿勢を正す。


「放課後はよろしくお願いします」

「……ああ、善処はする」


 レナートは最後まで煮え切らなかったが、了承はされた。そのことに安心して、授業に間に合うよう早歩きで教室へと戻った。



 そうして来る放課後。

 レナートの移動時間も考慮して、少し教室で待機してから計画実行に移ることにした。そわそわと浮き足立つ気持ちを落ち着かせつつタイミングを見計らい、いざ!


「…………え?」


 意気揚々と教室から廊下へと飛び出した私の目に、飛び込んできたのは。


「リズ、ちょっと二人でお話ししようか? まずはリズのダンスパートナーを俺にしてから、だけどね?」


 両腕を組んだアルフレッドが、まったく笑っていない目で私を見下ろし、計画の終わりを告げた。



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