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午後三時は終わらない  作者: kinpo


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5/10

第5話 現在地は表示されない


 五週目の午後三時。

 俺は、もう腕時計を見なくなっていた。


 見なくても、分かる。

 このモールに入ると、時間は必ずここで止まる。


 入口の自動ドアは、以前より開くのが遅い。

 人感センサーが、迷っている。


(……入るかどうか、測られてる気がするな)


 入ってしまえば、同じだ。


 中央広場に向かう途中、

 案内図の前に、人が溜まっていた。


 三人。

 全員、立ち止まっているだけで、

 誰も会話していない。


 画面には、

 フロアマップが表示されている。


 だが、

 「現在地」だけが、相変わらず存在しない。


 俺は、人の肩越しに画面を見る。


 店の数は、さらに減っている。

 閉店表示すらない。

 ただ、空白。


 人が一人、諦めたように歩き出す。

 進んだ先は、

 行き止まりだった。


 誰も文句を言わない。

 引き返す。


 間違えた、という概念が薄れている。


 フードコートへ向かう。


 途中、

 先週まで通れた通路が、

 今日は最初から存在しないように扱われていた。


 壁は新しく、

 案内図にも載っていない。


(……最初から、無かったことにされてる)


 フードコートに入る。


 照明は、もう夕方仕様だ。

 だが、窓の外は明るい。


 営業している店は、

 三つしかない。


 どれも、

 何の店か分かりにくい。


 写真が少ない。

 説明もない。


 選ぶ時間を、与えない配置。


 俺は、

 一番端の店で、

 無難そうな定食を頼んだ。


(……無難って、何だ)


 座ろうとして、

 また足が止まる。


 席が、

 減っている。


 テーブル間の距離が、

 不自然に広い。


 一人で座る前提の配置だ。


 例の女は――

 もう、いた。


 同じ場所。

 同じ距離。


 でも、

 今日は、俺を見ても驚かなかった。


「こんにちは」

「ええ」


 それだけ。


 空中に、文字が浮かぶ。


《協力を誓う者あり。

 ――裏切りは、発生条件を失った》


(なるほど)


 裏切るためには、

 選択肢が必要だ。


 彼女が、言った。


「私、

 ここに来る理由、

 もう説明できないんです」


 雑音が入る。

 アナウンス。

 だが、今回は内容が違う。


《本日は、一部サービスを終了しております》


 具体名は出ない。

 理由もない。


《理性的な議論は、

 必ず物理的な「雑音」によってかき消される》


 彼女は、続ける。


「でも、

 来ないと、

 落ち着かなくて」


 俺は、否定しなかった。


 否定は、

 選択肢を増やす行為だからだ。


 料理が来る。


 量は少ない。

 味も薄い。


(……腹は減らなくなってきたな)


 それが、

 一番嫌だった。


《状況が最も絶望的なとき、

 主人公は必ず

 「的外れな美食」について考える》


(……ラーメン、

 あの店の、

 普通のやつでよかったんだ)


 期間限定じゃない。

 冒険もしない。


 ただ、

 知っている味。


 彼女が、ぽつりと聞いた。


「私たち、

 何か、

 間違えました?」


 正しい質問だ。

 だが、

 もう遅い。


 俺は、

 どうでもいい答えを返した。


「ここ、

 前はもっと、

 混んでましたよ」


 彼女は、

 少し考えて、

 頷いた。


 その瞬間、

 空中の文字が、

 完全に消えた。


 予言は、

 役目を終えた。


 協力も、

 裏切りも、

 もう成立しない。


 なぜなら――

 関係性を結ぶ意味が、失われたからだ。


《異常な現象を解決した瞬間、

 その現象はさらにスケールアップして再発動する》


 俺たちは、

 何一つ解決していない。


 だが、

 この場所は、

 解決が不要な形へと

 拡張を続けている。


 食べ終わり、

 トレイを返す。


 返却口は、

 一つしか開いていなかった。


 列はできない。

 誰も、急がない。


 出口へ向かう。


 案内図を、

 最後に一度だけ見る。


 地図は、

 さらに簡略化されている。


 通路と出口しか、残っていない。


 店の名前は、消えた。


(……目的地、いらなくなったか)


 外に出る。


 光は、

 まだ午後三時だった。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》


 それでも、

 俺は知っている。


 次に消えるのは、

 「来る理由」そのものだ。

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