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午後三時は終わらない  作者: kinpo


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第2話 同じ席、同じ時間

 翌週の午後三時。

 俺は、また同じショッピングモールにいた。


 理由はない。

 少なくとも、俺自身には。


 足が勝手に動いただけだ。

 平日のこの時間帯に、ここがいちばん空いていることも、

 フードコートの端の席が落ち着くことも、

 もう身体が覚えている。


 天丼はやめた。

 ざるそばにした。

 前回の反省を、どうでもいいところで活かす。


(……つゆ、薄いな)


 七味を振る。

 やっぱり入れすぎた。


 同じ席。

 同じ観葉植物。

 同じ、午後三時の薄い光。


 違うのは――

 向かいの席に、誰もいないことだけだ。


 俺は、分かっていた。

 彼女は来ない。


 未来視というほど大げさなものじゃない。

 ただ、「ここにはいない」という確信がある。


 それでも、俺は周囲を見渡した。


 高校生の集団。

 赤ん坊をあやす母親。

 ノートパソコンを広げた男。


 そして――

 いた。


 彼女だ。


 同じ女。

 同じ服装じゃない。

 化粧も違う。

 でも、間違えようがない。


 彼女は、フードコートの中央付近、

 ラーメン屋の前で立ち尽くしていた。


 両手には、何も持っていない。

 並ぶ気も、帰る気もない。


 ただ、そこにいる。


(……最悪だな)


 俺は、箸を置いた。


 この時点で、もう関わっている。

 視界に入った瞬間から、逃げ道は消えている。


 立ち上がると、

 空中に、あの文字が浮かんだ。


《協力を誓う者あり。

 ――裏切りは、時間差で起こる》


(今回は、そう来るか)


 俺は、彼女の近くまで行き、声をかけた。


「先週、ここにいませんでした?」

「……え?」


 彼女は驚いた顔をした。

 覚えていない、というより、

 思い出してはいけないものを突かれた顔だ。


「フードコートで。午後三時」

「……ああ」


 彼女は、曖昧に頷いた。


「待ってたんです」

「まだ?」

「ええ」


 来ない人を。

 来ないと分かっている人を。


 俺は、ラーメン屋のメニューを見た。

 醤油、味噌、豚骨。

 期間限定の文字がやけに主張している。


(……期間限定って、だいたい信用ならない)


「今日は、何を待ってるんですか」

「……結果、です」


 雑音が増えた。

 アナウンス。

 トレイの落ちる音。

 子どもの泣き声。


 彼女の説明は、途切れ途切れにしか聞こえない。


 でも、十分だった。


 彼女は、

 何かが起きたあとを待っている。


 もう終わっているのに、

 終わったと認めた瞬間に、

 自分が壊れるから。


 俺は、分かってしまった。


 ここで俺が――

 事実を整理し、

 言葉にして、

 彼女に渡したら。


 彼女は、助かる。

 その代わり、

 別の誰かが壊れる。


 それが、見えた。


《異常な現象を解決した瞬間、

 その現象はさらにスケールアップして再発動する》


 今回は、静かな再発動だ。

 人目につかない分、厄介なやつ。


 彼女が、俺を見た。


「……私、間違ってますか?」


 正しい質問だ。

 正しい問いは、

 だいたい、答えが地獄だ。


 俺は、ラーメン屋を指さした。


「腹、減ってません?」

「え?」

「ここ、まあまあですよ」


 的外れ。

 自分でも分かる。


 でも、その瞬間――

 彼女の未来が、わずかに、ズレた。


 助からない。

 でも、壊れもしない。


 中途半端で、

 誰も満足しない、

 最悪の着地点。


 彼女は、少し笑った。


「……変な人ですね」

「よく言われます」


 彼女は、ラーメン屋に並んだ。

 期間限定を選んでいる。


(やめとけ……)


 俺は、心の中でだけ呟いた。


 そのとき、

 空中の予言文字が、

 ゆっくりと、消えた。


 裏切りは起こらない。

 協力も、もう成立していないからだ。


 俺は、自分のざるそばを見下ろした。

 伸びている。


(……やっぱり、天丼にすればよかった)


 フードコートの外は、

 まだ昼と夕方の間だった。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》


 それでも、

 彼女は今日も、

 生き延びてしまった。

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