氷銀の女王
ホログラムに映る三機のエース。
中央に立つルナリア・ヴァレンティア――その姿は、まさしく高慢な女王そのものだった。
月光を編み込んだような銀髪は、完璧な螺旋を描きながら肩に落ち、微細な粒子の輝きが重力すら拒むように漂っている。
その顔立ちは、冷えた陶磁の彫像。表情の筋肉さえ、彼女の許可なくは動かない。
唇の端に浮かぶのは、敵艦「ルミナ」の消滅を確信する、微笑にも似た冷酷な線。
それは喜びでも憎しみでもなく、“宇宙が正しい形に戻る”ことへの静かな満足にすぎなかった。
彼女の軍服は、光を拒むほどの純白。
一切の皺も汚れもなく、ただ秩序そのものとして存在している。
胸元に輝く蒼玉――帝国中枢の聖石〈コア・サフィール〉は、まるで彼女の鼓動の代わりに淡く脈打っていた。
左右に控える二人のエース――黄金の騎士アリウスと、漆黒の影のような第三の男。
そのどちらも、彼女の周囲に立つというだけで“宇宙の定義に組み込まれた存在”にすぎなかった。
ルナリアの瞳は、氷結した銀河を思わせるほどの静寂を湛えていた。
そこに映るスタージアス艦隊は、敵でも障害でもない。
ただ――“淘汰されるべき揺らぎ”。
彼女にとって、それは哀れみの対象ですらなかった。
だが、その完璧さの影には――誰も知らない孤独が潜んでいた。
艦橋の外、誰も見ていない空間で、彼女はわずかに息をつき、紅茶の表面に映る自分の瞳を覗き込む。
そこに映るのは、秩序の女王ではなく、まだ少女の面影を残した“ひとりの観測者”。
微かな独り言が艦内に漏れる。
「今日も……乱れは、なし」
その声は静かだが確かに存在し、宇宙の完璧さに微細な波紋を残す。
誰も聞いていない。だが、彼女がその一瞬を許したこと――それだけで、ルナリアという存在が“神格”でありながら“生きた人間”であることを、ひそかに証明していた。




