副官
副官ユリ・フォン・ステインは、まるで秩序そのものを人の形にしたような女だった。
漆黒の髪は一糸乱れぬ三つ編みにまとめられ、その端は軍規の長さまで正確に結ばれている。艦橋の照明を受けるたび、編み込まれた髪が鈍く光り、まるで緊張と理性がそのまま金属化したかのようだった。
彼女の顔立ちは整っているが、どこか人工的な美しさがある。感情を一切削ぎ落とした彫像のような輪郭。
銀縁のメガネの奥に覗く灰色の瞳は、常に計算の光を帯びており、誰かが動くたびにわずかにフォーカスを合わせる。
感情の揺れなど、数値に変換できないものとして切り捨てているかのようだ。
彼女の濃紺の軍服は、アイロンの線まで完璧。襟元の星章はまっすぐ中央に揃えられ、手袋の白さは一片の油も許さない。
その完璧さは、もはや美ではなく「恐怖」に近い。
だが、戦場の最中でも彼女のポケットには必ず高級チョコがひと欠片だけ入っている。
それは彼女に残された、唯一の「人間的な逃避装置」だ。
彼女がそれを口に放り込む時、誰もが無意識に息を呑む――戦況が最悪に傾いた証拠だからだ。
冷静沈着、論理至上、非情な報告者。
だが、艦長アイリスが感情に飲まれそうになる瞬間、必ずユリの声が響く。
まるで「激情」と「理性」の間に張られた一本の細いワイヤー――その上で、この艦はぎりぎりの均衡を保っている。
「艦長!指示が破滅的です!主砲リミッターは解除。船体負荷、危険域104%に突入。あー、チョコが足りない…またやってる…」
彼女は淡々(?)とデータを報告するのだ。




