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 山南敬助 饅頭に学ぶ健康

健康管理月報も、いよいよ最後の一話になりました。


数字で測れるもの、測れないもの。

咀嚼回数や顔色や、くしゃみの勢いまで――

「誠」を名乗るには、ずいぶん曖昧で、ずいぶん人間くさい基準ばかりでした。

今回は、そんな月報の締めくくりとして、

堅物ふたりと軽やかなひとりの、

静かな縁側のひとときをお届けしますーーー

新撰組総長・山南敬助と、五番隊組長・武田観柳斎。


この二人が仲がいいのか悪いのかは、いまひとつ判然としない。

だがなぜか、沖田たちが稽古終わりにくつろぐ、あの縁側に、よく並んで腰を下ろしている。


武田観柳斎は、剣もまあまあ、軍学者として新選組を支える文武両道の男である。

――見た目については、まあ、各自の判断に任せたいが。

少なくとも近藤勇のお気に入りであることは間違いない。


「……あの健康管理月報の“偏差値”ですが」


観柳斎が、どこか落ち着かない様子で切り出す。


「山南先生は、どうお考えですか」


堅物の山南敬助は、腕を組んでしばし黙り込んだ。

規則や数値は嫌いではない。だが――今回はどうにも引っかかる。


「……“くしゃみの勢いが誠”、というのは……」


眉が、ぴくりと動く。


「ええ、その……評価基準が、いささか……」


観柳斎は、顔を赤らめ、声を落とす。


「顔色を、土方さんの主観で判断されるというのも……」


咀嚼回数。

くしゃみの勢い。

顔色。


どう考えても、自分向きではない。

心の奥が、わずかにざわつく。

理屈より先に、羞恥が立ち上がる。


――文武両道ではある。

だが武田観柳斎は、心がほんのり薔薇色な男なのである。


「……気持ちは、わからなくもないですが……やはり、恥ずかしいですね」


観柳斎がそう言うと、山南は小さく溜息をついた。


「理屈としては、理解できる。だが……形式がな」


湯呑みに手を添え、静かに茶をすする。


「でしょう?」


二人の間に、微妙な沈黙が落ちる。


そこへ――。


「はいはい、お二人とも」


ひらり、と沖田総司が現れた。

両手には、饅頭が山盛り。


「配給でーす。これ、近藤先生の馴染みの饅頭屋さんの大奥様から。

通りがかったら、“美味しかった”って、ぜひ伝えてくださいね」


軽やかな声と一緒に、饅頭が配られる。


「総司、あの健康管理偏差値は……本気なのか?」


山南が尋ねる。


「ああ、近藤先生は本気ですね。

土方さんは……まあ、複雑そうだけど、やるとは思います」


「饅頭咀嚼、三十回……難問だな」


「くしゃみとか、顔色とか……ほかにも色々ありますよね」


観柳斎は、もじもじと視線を落とす。

山南も、思わず肩をすくめた。


だが沖田は、そんな二人を気にも留めず、にこりと笑う。


「もぐもぐしてれば、ポイント上がりますし。楽勝ですよ」


その軽さに、観柳斎の肩の力が、ほんの少し抜ける。

山南も、無言のまま、ふっと口元を緩めた。


「顔色は……正直、自信はありませんが」


沖田は続ける。


「楽しめばいいんじゃないかなって思います。

誠の湯桶も……まあ、賞品としては微妙ですけど、狙いますよ。

僕、ああいうファジーなの、得意なんです。

なんか、雰囲気で点、入るんですよね」


観柳斎は、黙って饅頭を口に運び、もぐもぐと噛む。

山南も、渋々ながら一つ手を伸ばした。


よく分からない。

だが、饅頭は美味しい。


饅頭屋に行ったら

絶対に大奥様に「ありがとう」と言おう。

山南の頭に、 ふんわりとした老女の笑顔が浮かぶ。

それだけで、 少し幸せな、

そして 健康な 気がしてくる。


わからなくてもいい。

誠の湯桶は 貰えないかもしれない。

それでも--

楽しんだ者勝ちだ。


縁側に並ぶ二人は 同時に 

そんなことを思っていた。

よくわからないけれど、

饅頭がおいしくて、

「ありがとう」と言えて、

それで少し心がほどけるなら――

たぶん、それはもう十分に健康です。


健康管理月報は、ここで一度、筆を置きます。

また別のかたちで、

彼らの日常がふっと戻ってくることがあれば、

そのときは、縁側に腰を下ろすつもりで読んでいただけたら嬉しいです。


読んでくださり、ありがとうございました。

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