土方歳三の憂鬱、健康管理開始
新選組の屯所に、今月もとんでもないものが導入されました。
その名も――「健康管理月報」。
近藤局長のまっすぐすぎる善意と、土方副長の静かな胃痛。
そして巻き込まれる隊士たち。
ゆるくて真面目で、ちょっとだけ不憫な新選組の“健康物語”、
第3話をどうぞお楽しみください。
「トシ、これを見てくれ!」
得意げに差し出された巻物には、太い筆で堂々と書かれていた。
《新選組 健康管理月報》
そして――
「土方くん。今月から頼むよ」
近藤は晴れやかな笑顔で言った。
近藤の勢いに押されて、土方はしぶしぶ巻物を開くが……どうにも内容が怪しい。
評価項目には、こう書かれていた。
•起床時間
•食事・間食の回数
•排泄回数・状態
•顔色の良否
•風呂の入り方(溺れずに出られたら加点)
•くしゃみの響き(勢いが“誠”)
•ご飯の咀嚼回数(30回以上で誠ランク)
「……何だこの基準は。公平とかどう考えてんだ……」
「局長。まさかとは思いますが、これを本気で“点数化”するつもりじゃないですよね?」
「もちろん本気だよ! 隊士の健康は組の力。管理こそ誠の道!」
土方は頭を押さえた。嫌な予感しかしない。
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**項目その一:食事・間食の回数
「食べた回数と量を毎日記録する。健康は食からだ」
「いや、局長。そんな細かいこと、誰が――」
「トシぃ〜。頼むよ〜」
「……無理! それに“間食”って……餅一個でも数えるんですか?」
「当然だ」
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**項目その二:排泄回数・状態
もはや土方は口を閉ざし、氷点下の沈黙に支配されていた。
後ろで大人しく座っていた沖田が、恐る恐る声を出す。
「あのぅ……先生……さすがに隊士のアレの回数や状態まで記録するのは……
もはや虐待というか、拷問というか……」
「侮辱だろう」
土方が忌々しげに言う。
「いやいや、健康管理には重要だ」
近藤は真顔だ。
「回数、硬さ、潤い……とか? 自己申告? まさか副長が確認とか」
「総司!! 笑い事じゃない!」
「さすがにそれは却下だ」
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**項目その三:顔色の良否
「これはまあ、普通ですね……」
「だろ? “青白い:−5点、血色よし:+10点”だ」
「点数つける必要あります?」
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**項目その四:風呂の入り方(溺れずに出られたら加点)
「局長。人をなんだと思ってるんですか」
「泳げない隊士が多いからね。溺れずに出てこれたら+5点。
風呂の桶をひっくり返したら−10点だ」
「桶? あの水入れたり汲んだりするアレ?生き物じゃないでしょ……」
「湯道の掟は守らねばならん」
「……?」
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**項目その五:くしゃみの響き(勢いが“誠”)
「くしゃみに点数……?」
「“はっくしょい!”と志がこもっていたら+3点。弱々しいと−2点だ」
「局長、風邪の隊士が圧倒的不利ですけど?」
「だからこそ日々鍛えねば!」
「くしゃみ鍛えるって、どうやって……?」
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**項目その六:ご飯の咀嚼回数(30回以上で“誠ランク”)
「……局長」
「ん?」
「絶対に誰も守りませんよ、これ」
「いや、総司や源さんは50回噛んでおるぞ。よく噛めば腹を壊さなくなる」
「ふふふ、僕は平気ですが……これ、近藤先生ダメですねえ。
先生、ガブガブ食べてしょっちゅうお腹壊してますよね」
「うむ……気をつける」
「“誠ランク”の隊士には、褒美として大福を――」
「やめろ!!」
「局長、改めて聞きますが、本気でこれを点数にするんですか」
土方は帳面を手にし、深く息を吐いた。
「うむ。数字こそ、誠の形を可視化する手段だ」
「……“誠の形”って言われても。早起きに何点つけるんです?」
「心の清らかさを七十点とする」
「根拠は?」
「気分だ」
「…………」
副長の頭の中で、何かが静かに崩れた。
それでも、近藤の目はまっすぐだった。
疑いも誇張もなく、世界の根っこが“誠”で動いていると本気で信じているように。
「土方、これがあれば皆の士気も上がる。病も減る。剣も冴える」
「……ほんとに、そう思ってるんですか」
「思うとも。健康こそ、我らが剣の礎だ」
その声には一分の曇りもなかった。
土方は言葉を失った。
近藤の善意は、まぶしくて……そして重かった。
⸻
その夜。
土方は山崎とともに、あらためて月報を見直していた。
「はあ〜……局長が“誠っぽい”と思われた項目でしょうが……」
「うーーーー……」
書き出していくうちに、虚しさがこみ上げてくる。
障子の向こうから声がする。
「副長、まだ起きてるんですか?」
沖田総司だった。
「なんだ総司。もう寝ろ」
「いやあ……気になって。局長、また“誠の入浴法”とか言ってましたよ」
沖田は笑いながら部屋に入ってきた。
机の上の月報をのぞきこみ、目を丸くする。
「わあ……ほんとに書いてる! しかも細かい!」
「俺は命じられたことはやる」
「ふふ、近藤先生っぽい項目ばかりで愉快ですねえ」
「じゃあ僕、自己申告書出しますね。“溺れたけど快調”で」
「減点三十だ」
「副長ひどい〜!」
「“入浴時間三分以上で誠”ってどうです?」
「やめろ」
「“溺れたら減点”」
「黙れ」
「“笑顔で風呂から出たら加点”」
「黙れっつってんだろ!!」
そんなやりとりをしていると、廊下の奥から近藤の声が響いた。
「土方ー! “誠の寝相点”も加えるのを忘れるなよ!」
「加えません!!!」
沖田は笑いをこらえて肩を震わせる。
「副長、これ……すごく奥深いですね」
その笑顔に、土方は思わず息をついた。
「……健康こそ誠、か。間違いじゃねぇんだが……」
その横顔を、沖田は優しい目で見ていた。
「土方さん。健康こそ誠で、倒れないでよね」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
局長の“誠の健康管理”は、回を追うごとに謎の進化を遂げています。
副長の憂鬱は深まるばかりですが、隊士たちが元気でいてくれるなら……
たぶん、たぶん、耐えてくれるはず…?
感想や応援、次の話への励みになります。
また近藤さんの思いつきに副長が巻き込まれる日まで、お付き合いください。




