ライブ 1
第一話
伊万里のおばあちゃんが亡くなった。
お母さんからそう聞かされて、わたしは、マジで目の前が真っ白になった。
優しくて、暖かくて、いいにおいがして、いつもニコニコ笑っていて。本当に、心の底から大好きなおばあちゃんだったから。
わたし達親子は、まさに取るものもとりあえず、大宮駅で合流して、それから、みんなで電車に飛び乗った。
*****
仏間に敷かれた布団に、おばあちゃんが横たわっている。
葬儀屋さんたちが手早く設えていったごくごく簡易的な祭壇の上で、真っ白な光を放ちながら、長い蝋燭が炎を揺らしている。その隣で、お線香が天井まで届こうかというような、一条の白い煙を上げ続けている。
わたしは、その光景にまったく現実感を感じられずにぺたんと畳の上に直に座っていた。
おばあちゃんの顔を、離れたところから眺めてみる。おばあちゃんによく似せて作った、悪趣味な蝋人形かなにかが置いてあるかのような、そんな感じにしか思えない。
お母さんは、ご近所さんや親戚のひとたちへの連絡にどたばたしてるし、お父さんは、報せを聞いてやってきた初対面の弔問客への対応にあたふたしてるし。……わたしは、どうする事もできなくて、ただ、黙って座っているだけだった。
そこに、ひとりのご老人がふらりと現れた。
痩せぎすで、頭頂部まで禿げ上がった頭。両耳に僅かに絡む白髪。色褪せた緑っぽいポロシャツに、ベージュのしわっぽいスラックス姿の男のひと。
「いま……、亡くなったと聞いたもので……」
名乗りもせずに、ご老人はそう言った。ひと目で解るほど、狼狽えていた。
お父さんが促すのとほぼ同時に、駆けるようにして上がり込んで来ると、仏間に眠るおばあちゃんの横にへたり込んだ。
「そんな……。君がいなくなったら、ぼくたちはいったいどうしたら……」
そう、力なく呟くと、ちいさな肩を震わせてご老人は嗚咽を漏らした。
おばあちゃんと、どういう知り合いなんだろう……
そんな事を考えながら、わたしは、ご老人の背中をただ眺める事しかできなかった。
ひとしきり泣いたあと、
「……失礼しました」
と、わたしとお父さんの方向に向き直ってご老人は頭を下げた。
気づいたら、わたしの頬にも涙が伝っていた。悲壮なご老人の姿に、ついついもらい泣きしていたらしい。
ご老人が、わたしの顔を見た。
その目が、見る間にまん丸になった。
いきなり、両方の手を握られた。
「は?」
わたしは、思わず間の抜けた声をあげた。
「もぐちゃんじゃ! もぐちゃんがここにおる!」
ご老人は、わたしの顔を見ながら絶叫した。その勢いで、彼が嵌めていた上顎の入れ歯が弾け飛んだ。




