5-10
「結局どういうことになったの?」
馬車の中で我に返り両親を問い詰めたが、二人は何やらニコニコと笑いながら何も教えてくれなかった。
そして屋敷に着くと、グローイング・ルームでお茶会の準備を整えたシャイアが私を待っていた。
紅茶は私の好きな甘めのミルクティー。
ティー・フーズにはチーズとキュウリのサンドイッチと、薔薇のジャムのサンドイッチ。
スコーンにはクロテッド・クリームとはちみつを添えて。
焼き菓子は素朴なクッキー。
勧められるままにすべてに口をつける。
「ハチルズ第四皇子は皇太子に相応しくないと、結論付けられた。そこにあの事件だからね。次期皇太子はレイジェーン第五皇子に内定したよ」
シャイアが告げる。
つまりハチルズ第四皇子殿下は皇太子候補から外れたことを逆恨みし、次期皇太子を足蹴にしようとして、それを私が守った形に収めたとうことだ。
表向きは。
「どうして、そうなったの? あの時点ではまだハチルズ様は皇太子候補の上位にいたはずでしょう。それが公爵令嬢を蹴ったところで、そこまで悪評価になるのかしら」
「それだけ、ね。女性に暴力をふるおうとした時点で大罪だと私は思うけれど」
シャイアが一口お茶を飲む。それから足を組んで、私を見た。
「ロゼアは納得しないと思うから話しておくね。ハチルズは君と会う前に学園にいた。そこでとある女性に声をかけ、茂みに連れ込もうとした。そこに私が通りかかって、窘めた。黙っていてあげるから今は皇城に帰りなさいとね」
「とある女性って?」
「私は面識がないから名前は知らないけれど。彼女が母親にそのことを告げたら、ライト公爵家がハチルズを切り捨てたらしいね」
なるほど、その女性はお母様が言っていた「皇族に嫁ぐ予定の秘蔵っ子」だろう。
ハチルズ様は彼女を手に入れることで、皇太子の座に更に近づくつもりだったのだ。
それをシャイアに邪魔された。
「それでハチルズ様は私に『夫婦そろってなめやがって』って言ってたのね」
「愚かな弟ですまないね。既に皇城を出ているから会わなくてすむけれども、謝罪をさせられなかったのは残念だと思っているよ」
もう会いたくないからいいけど。
「レイジェーン第五皇子が、随分はっきりと証言をしてくれてね。猫を蹴ろうとしたと聞いて、皇太子妃殿下方は怒り狂っておいでだったよ」
皇太子妃殿下たち、猫好きだもんね。
イライラしてるから蹴ってやろうなんて悪手だったね。
ていうか猫を蹴ろうとしないでよ。何の罪もないじゃん。
「そしてレイジェーン第五皇子は、『お兄様は僕を蹴ろうとした』と繰り返し主張していたよ。あの年でもう、身分の差を理解しているようだ。将来が楽しみだね」
公爵令嬢に暴力をふるうより、皇子に暴力をふるう方が罪は重い。
それをわかって、レイジェーン第五皇子は私を守ろうとしてくれたのだろう。
「お父様はレイジェーン第五皇子を目に入れても痛くないくらい可愛がっているからね。一気にハチルズを見限る方に舵を切ったよ」
つまり、あの日ハチルズ様は三つの罪を犯した。
まず一つ目、ライトの秘蔵っ子に手を出そうとした。
これによってライト公爵家および宰相閣下から「傀儡にもなれない」と切り捨てられた。
二つ目、猫を蹴ろうとした。
重度の猫派である皇太子妃殿下およびその夫、皇太子殿下を敵に回した。
そして三つ目、第五皇子を踏みつけようとした。
これで皇帝陛下や皇后陛下からも見限られ、めでたく貴族社会から追い出されたというわけだ。
つまり、私の行動も存在も、関係なかったということだろう。
「でも一番効いたのは、これだよ」
そう言ってシャイアが取り出したのは、ずっしりと分厚い紙の束。
「それは?」
「ロゼアの処分を軽くしてくれっていう嘆願書」
「え?」
言われた意味がわからず首をかしげる。
シャイアは小さく微笑んだ。
3アウトチェンジ、で皇都を追い出されたハチルズさん。
表向きの罪状は「皇太子に内定できなかったことを逆恨みして、次期皇太子殿下を足蹴にしようとした」こと。そしてそれを庇ったのがサウス次期公爵。という筋書きですね。大人の世界にはこういいうのも必要なんでしょう、と思います。
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