5-8
「え? なんで?」
ファイラ様はまるで奉納会に出るかのような燕尾服で、まだ肌寒い庭にいる。
周りには何人かの使用人と、シャイアの姿。
ファイラ様は手に持ったバイオリンを構えると、ゆっくりと旋律を奏で始めた。
思わず窓を少しだけ開ける。
音楽は風に乗って、私の部屋を飛び回り始めた。
初めの曲は、穏やかで優しい曲。
行儀悪く窓の下に座り込む。
包まれるように心地いい。
自然と、息を吐いた。
ああ、今までずっと張りつめていたんだ、とようやく気が付くことができた。
大きな拍手の後、次の曲。
今度はワクワクするようなアップテンポの曲で、目を閉じて聞いていると、小さい頃のことを思い出した。
兄に連れられて登った大きな木。
そこから見る花畑の美しかったこと。
皇太子殿下に連れて行ってもらった薬草園。
内緒の抜け道を抜けて、大人の目の届かないところで子どもだけで遊んで楽しかったこと。
先ほどより更に大きな拍手がやむと、今度はこの世界で有名な曲が聞こえてきた。
皇都で人気の歌劇に登場する曲で、前世で言うバラード。
恋の歌だ。そしてこれは失恋の歌だ。
どんなにアプローチしても振り向いてもらえない、なんとかこっちを見て。
叫んでも叫んでも届かない。
報われない、恋の歌だ。
私の初恋は皇太子殿下で、シャイアが婿入りすることになって強制的に終わりを告げた。
今は恋というより、生涯使える主君として尊敬している。
次の恋はシャイアなのだろうか?
ムカついたけど、それなりに歩み寄ろうとも思った。
でも、勘が告げていた。
あちこちに愛を囁くシャイアを愛すると、きっと辛い思いをする。
叫んでも泣いても自分一人の者にはなってくれない。
彼は、人を、愛しすぎている。
皆を平等に愛している。
そんな人を愛する事なんて、私にはできなかった。
また大きな拍手が聞こえる。
なんだか拍手をする人数が増えていないか? と思ったが立ち上がって確認することはできなかった。
だってそんなことをしたら、外からも私が見えてしまう。
こんな涙でぐしゃぐしゃになった顔を、誰にも見せるわけにはいかない。
私はまだ公爵家の次期当主なのだから。
そして最後の曲が始まった。
それは、私が初めてファイラ様の奉納会に行ったとき、アンコールとして演奏された曲だ。
確かその時、ファイラ様はこうおっしゃった。
「この曲は、私が初めて作曲に挑戦した曲です。大事な人を想って作りました。この場所で演奏できることを、嬉しく思います」と。
あの時私は、亡き奥様の為の曲を礼拝堂で演奏できるのが嬉しいのだと思っていた。
でも違う。
流石にわかる。
この曲はきっと、私の為に作ってくれた。
今日も私を励ますために、ここまで来てくれたんだ。
シャイアが呼んだのかもしれない。
でも皇子に手を上げて謹慎している私の為に来るなんて、なんと噂されるか分かったものじゃない。
それなのに、失礼なことを言い逃げて、避け続け、今も顔を見せない薄情な私の為に、彼は心を込めて演奏してくれている。
大丈夫、できるよ。いつでも頼ってくださいと。
そう言ってくれているような気がして。
私は演奏が終わった後も、その場でしゃがんで泣いていた。
無性にファイラ様に会いたかった。
あの優しく微笑む顔を、真っ赤になって照れる顔を見たかった。
私は花畑の絵を抱きしめて、気がすむまで泣いた。
淑女教育の始まる前の、小さな小さな子どものように。
すみません、衣装に続いて音楽にも疎くて…。
可能な範囲で色々演奏動画を見て、「こんな感じ」というイメージにあう曲を聴きながら書いてはいますが…どうぞ脳内でお好きな曲を流しながら聞いてくださいませ…。
ラブコメの看板はまだ下ろさないぞ!!
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