5-7
「あーあ、やっちゃったなー……」
ハチルズ第四皇子殿下に、踏みつけられそうになった。
ので、咄嗟に右腕にレイジェーン第五皇子殿下を抱え込み、ハチルズ第四皇子殿下が振り上げた右足を左腕で薙ぎ払った。勢いのまま、左脚を軸にしてレイジェーン第五皇子殿下を抱えて旋回。右足でハチルズ代位四皇子殿下の軸足を横から蹴り飛ばして左腕にレイジェーン第五皇子殿下を抱えなおし、右手でハチルズ第四皇子殿下の顎を打ち倒してしまった。
丁度そのタイミングで私の護衛が侍女たちを連れて追い付いてきて、辺りは騒然となった。
ここで慌てて高位貴族としての面目をつぶすわけにはいかない。
いや皇子を打倒した時点でもう駄目なんだけどさ。
とりあえず、駆けつけてきた侍女に、ぽかんとしているレイジェーン第五皇子殿下をお預けして、職務室に戻った。
やりかけの仕事を部下が見ても分かるようにまとめなおして、今回の経緯を正直に認めた文書を作成。
それを上司であるお父様に提出するよう依頼してから、「自主的に謹慎します」と言い残してサウス公爵家に戻ってきた。
書いておいた経緯の写しをお母様に提出して、自室から一歩も出ない生活を送って、今日で十日目になる。
「手刀は要らなかったかもね……アレがなくてもすっころんでいただろうし……でも仕方ないじゃない条件反射だったんだもん……」
護身術が仇になるとは。まさか第四皇子殿下をのしてしまうなんて、思ってもみなかった。
「いくら公爵家の令嬢で跡取り娘とは言え、流石に皇子様に暴力振るったらアウトよね……この国に修道院はないから神子になるとか? いや普通に処刑かなあ……」
折角莫大なお金と労力をかけて公爵令嬢として教育してもらったのに、恩を返せず申し訳なかった……と落ち込む。
手持無沙汰なので仕事の引継ぎ資料を勝手に作ったり、サウス公爵家の現状についてまとめなおしてみたりしていたけど、そろそろ本格的に反省しなくちゃいけないわよね。反省文書いた方がいいかしら。
「でも仕方なかったよねえ……あのままじゃレイジェーン第五皇子殿下まで踏まれていたし」
ため息をつく。
机の上に置かれているのは、裏向きになった額縁。
ここには以前ファイラ様に描いてもらった花畑の絵が入っているんだけど、私の爆弾発言で気まずくなって以来、ひっくり返しておいてある。
久しぶりに表に返すと、花畑は変わらぬ色鮮やかな姿で私を見てくれた。
「ファイラ様に謝罪したかったな……」
こんこん、とノックの音がする。
自主謹慎をはじめてから食事時と湯あみ時にしか人が来ないようにしてあるので、いよいよ私の罪状が決まったのかもしれない。
「失礼いたしますロゼア様。皇城よりお手紙が届いております。旦那様と奥様と共に、明日皇城に来るようにと」
「わかりました」
此処で死ぬのなら、これもまた物語の強制力なのかもしれない。そう思う。
私は花畑の絵をまた裏返して、お世話になった人に手紙を書くことにした。私が死んだら届けてもらおう。
まず両親。
兄夫婦。
あとは今この国にいない友人たち。
モニカと、それから、旅行に出発したロクサーヌ様とアキエル様。
そしてシャイアに。
ララのこと、仕事のことはくれぐれもよろしくと書いておく。
結局後継ぎ産めなかったけど、サウス公爵家どうなるのかなあ。
イトコの子どもか、ユーリナ様の娘が来てくれるといいんだけど。
それぞれに封をして、最後の便せんと向かい合う。
「ファイラ・ジューン公爵へ」と宛先を書いて、そこから何を書いていいのか分からなくなった。
この間は失礼なことを言ってごめんなさい?
友人になってくれて嬉しかった?
素晴らしい絵画をありがとう?
いつも優しくしてくれて癒されました?
何を書いても何かが違う気がして、手を動かせずにいる。
と、庭の方が何やら騒がしくなった気がした。
立ち上がり、窓越しに外を見てぎょっとする。
そこにはまさに、ファイラ様が立っていた。
武闘派しごでき主人公なので、悪役皇子を(物理的に)成敗して後処理も一人で終わらせちゃいました。
ラブコメの看板は下ろすべきなのでしょうか。
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