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5-6


ロクサーヌ様とアキエル様は、二人で国外へと向かっていった。

隣国を幾つか回って帰ってくるそうで、今年いっぱいは戻らないだろうと言っておられた。


二人がいなくても季節は進む。

そろそろ皇室主催、子どもお茶会の準備が始まる時期になった。


つまりお仕事の繁忙期だ。


仕事になるとファイラ様と会う機会も増えるだろう。

今まで奇跡的に避け続けてきたけど、覚悟を決めるしかないか。

そう思いながらお茶会の参加者リストを確認していると、何やら外が騒がしくなった。


「お仕事中失礼します」


ノックの後入ってきたのは兄の同僚、近衛兵だ。


「内密にお願いします。レイジェーン第五皇子殿下が行方不明となられました。お心当たりはございませんか?」

「え?」


あまりの内容に耳を疑う。3歳の皇子殿下が行方不明?


「皇城内に不審者が?」

「いえその、皇太子妃殿下が飼っておられる猫が逃げ出しまして。たまたまお散歩なされていたレイジェーン第五皇子殿下がその猫を見かけられ、茂みの中まで追いかけてしまったようで」


なるほど、大人が入れない隙間に猫と3歳児が入り込んでしまったのね。


「猫を追いかけているとなると、どこに行ったか予想が難しいですね」


真の愚か者の手綱を取ることはできないのと同じように、猫と3歳児の手綱も取れないのだ。


「門は全て閉じてありますので、皇城外に出てしまうことはないと思いますが」

「私も探します。警備の確認をしていると言えば怪しまれないでしょう」


誘拐されたら大変だし、大々的に皇子が行方不明などと知られるわけにはいかない。

こっそりと、早く見つけてあげなくちゃ。


「恐れ入ります」


近衛兵が頭を下げて去る。

私は書類を簡単にまとめると、護衛二人と共に外へ出た。



「そういえばこの辺りに綺麗な花が咲いていたわよね……」


これでも元皇太子妃候補の公爵令嬢。

子どもの頃から皇城には出入りしていたので、子どもが好きそうな場所はなんとなくわかっている。


「そうそう確かこの壁に……」

「え? なんですこの穴」

「秘密の抜け穴よ。大人にバレたら塞がれちゃうから隠していたの。貴方達も内緒にして頂戴ね」


古くなった壁が崩れたその場所は、普段は見つからないように、蔦で隠してある。

いつの頃からか、皇城で遊ぶ子どもたちの中では常識となっていた。


今は大人になった皇太子殿下もご存じのはずだけど、まだ崩れたままでいるということは、抜け穴の楽しみを弟や我が子から奪いたくなかったかな。

壁と言っても抜けた先は薬草園なので、皇城から出るわけでもないし。


「まだ通れるかな……うん行けそう。ちょっと行ってくるわ」


ちょっと狭いけれども通れそう。

匍匐前進みたいになった私を見て護衛達がぎょっとしている。


「え? サウス公爵令嬢?」

「この先薬草園なの。貴方達その肩幅じゃ通れないでしょ。正規のルートから着て頂戴」


毅然とした声で指示を出す。

あとできればあんまり見ないで欲しいし、公爵令嬢が匍匐前進してたって言うのも黙っててほしい。


「えええ……」


頭を抱える護衛を置き去りにして抜け穴をくぐる。


その先は草むら……に見える薬草園。

独特な匂いがする。

ここで遊んだら多分服に匂いがつくと思うんだけど、よくこの匂いで薬草園に行ったことがバレなかったわね。


もしかして大人も皆わかっていて、見逃してくれていたのかな。


あたりを見回すと、薬草園の隅になにやら金色に光るものが見える。

近づくと、座り込んだ小さな子どもであることが分かった。


「こーら、あばれないの。こーたいしひしゃまがこまるよ」

「第五皇子殿下」


私の呼びかけに子どもが振り向く。


日の光を集めた金色の髪。

大きなアメシストの瞳。

整った顔。

シャイアの幼いころに瓜二つの少年。

レイジェーン第五皇子殿下だ。


ララとシャイアの間に子どもが生まれたらこの子だろう、という容姿をしている。

そんな子どもが白い猫に向かって手を出している。

猫と子ども、めっちゃ可愛い。ああ眼福。


「だれ?」

「ロゼア・サウスと申します。みんなが探していましたよ」

「ぼく、こーたいしひしゃまのねこをおいかけてきたの」

「ええ、存じてますよ。お部屋に戻りましょう?」


差し出した手を見て、私の顔を見る。

いつもの貴族スマイル……ではなく、かわいいものを見た時の自然な笑顔になってしまった。不敬だろうか。

それでもレイジェーン第五皇子殿下はおずおずと私に手を伸ばしてくれた。が。


「みゃっ」

「あ! ねこ!」


猫は何かに気が付くとぱっと走り出した。

反射的に走り出すレイジェーン第五皇子殿下、とそれを追いかける私。


「ちょっと待って!」


ドレスじゃなくて制服でよかった、と思いながら追いかける。

3歳児、意外と足が速い。

走り抜けた先に人の姿が見えた。


「あれ?」


短く刈られたアッシュグレーの髪に紫の瞳。

低めの身長に、黙っていれば悪くないけれどもイライラとしているのが見て取れる表情。

貴族学園の制服。

間違いない、ハチルズ第四皇子殿下だ。


殿下の隣を、猫が走り抜けようとする。


「あっおにいさま、ねこ、つかまえてー」


レイジェーン第五皇子殿下が叫ぶ。

ハチルズ第四皇子殿下は猫を一瞥して、手ではなく足を動かした。


「えっ」


乱暴な仕草で猫を蹴り飛ばそうとしたのだ。

幸い猫の動きが速く、猫は軽やかにハチルズ第四皇子殿下の足を踏み台にして遠くまで行ってしまった。


驚いたレイジェーン第五皇子殿下が固まっているところに、ハチルズ第四皇子殿下がゆっくりと近寄る。


これはまずい。

直感が告げる。


私は全速力でレイジェーン第五皇子殿下に駆け寄ると、ぽかんとしている殿下の前に膝をつき、両肩に手を置く。


「レイジェーン第五皇子殿下、お部屋に戻りましょう。」

「おい、私を無視するとはいい度胸だな。名乗れ」


近づいてきたハチルズ第四皇子殿下が低い声で睨むように告げる。


「大変失礼いたしましたハチルズ第四皇子殿下。サウス公爵家が次期当主、ロゼア・サウスと申します」


私の言葉を聞いて、ハチルズ第四皇子殿下はますます顔をしかめた。


「んだよ……俺を誰だと思ってんだよ」


その声は先ほどよりも怒りがこめられている。

まずい。


「私達は御前を失礼致しますので」

「うるせえな! 夫婦揃って、なめてんじゃねえよ!」


私達の前までずんずんと近寄ってくるが早いか、ハチルズ第四皇子殿下は、私に向かって右足を思い切り振り上げた。



「血筋は良いけどアレじゃあ…ねえ…?」と噂されている第四皇子ハチルズ君と、

「いやあ美しく賢い!将来が楽しみだ!」と噂されている第五皇子レイジェーン君の登場です。



読んでいただいてありがとうございます。


★★★★★やいいねをポチってもらえるとモチベーションが上がります。


どうぞよろしくお願い致します。

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