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5-4

~これまでのあらすじ~


次期皇太子争いが勃発中

候補①ハチルズ第四皇子(17歳) 忠臣ライト公爵家が推薦中…?

候補②レイジェーン第五皇子(3歳) 皇帝陛下や皇太子夫妻、第一妃が推薦中

候補③クロノライナス第一皇子(1歳) 皇后陛下が推薦中


さて、準備が大変な新年舞踏会や、一族の意向を決める晩餐会も終わり、気分は晴れ晴れ。

仕事も閑散期で今日はお休み。


というわけで、私は皇城の礼拝堂で行われる奉納会に参加していた。


今日の奉納会は色々な人が参加する演奏会。

私は観客席に座っていた。

ファイラ様が奉納会のメインを務められるということで、誘っていただけたのだ。

ファイラ様の演奏のファンである私は一も二もなく頷いた結果、とても良い席をいただいた。友人特権ありがたや。


奉納会では様々な人が合奏したりしていたが、ファイラ様は一番最後、パイプオルガンの演奏を行われた。

色数は少ないが繊細なステンドグラスから入る冬の柔らかな日差し。白い壁、黒い柱、茶色い椅子。シンプルな礼拝堂の中に響き渡る雄大な調べに、音楽が「音を楽しむ」と言われる理由を嫌というほど思い知らされた。

ファイラ様は深い茶色の燕尾服を着ており、パイプオルガンの精霊と言われても信じてしまうほどになじんでいた。勿論、スタンディングオベ―ションとアンコール。手がしびれるまで拍手した。

アンコールが終わっても席に残って余韻に浸っていると、後ろの方で小さくお喋りしている声が聞こえてきた。


「ああ、まだ音楽が耳に残っていますわ。ジューン公爵は本当に素晴らしい演奏をなさいますね」

「お仕事にも熱心に取り組まれているとか。ジューン公爵が着任されてから、祭事の質が上がったと思いませんこと?」

「奥様が亡くなられて二年になるわよね。再婚は考えていらっしゃるのかしら?」

「まだお若いのですもの、当然、されるのではなくて? 私のところの次女が来年デビュタントを迎えるのだけれど、お声をかけてもいいのかしら」

「あらでも、皇族復帰されて皇太子になられるのではとも聞きましたよ」

「そうなの? まあ確かに第五皇子殿下も第一皇子殿下も幼くいらっしゃいますし」

「第四皇子殿下は……うちの長女もちょっと、ねえ」

「まあお宅も? うちの姪も渋っておりますの。ジューン公爵なら安心だわ」

「ライト家としてもジューン公爵が皇太子として中継ぎをしてくだされば安心なのではないかしら」

「そうね。だとしたらうちの子の嫁入りは難しいわね……」


話していた方々は立ち上がりその場を去ってしまったが、私はしばらく動けずにいた。


ジューン公爵とは、言わずもがなファイラ様のことだ。

ファイラ様が皇族復帰して皇太子に?  


「そんなことが……できる……わね……」



我が国の法律では、当主の血を受け継いだものが当主になる事ができる。

皇帝もまた然り。


一代公爵になったりどこかの家に嫁入り婿入りしたりすると、皇位継承権が限りなく下がるものの、消滅するわけではない。


ファイラ様は一代公爵になったあと、奥様を早くに亡くされて御子もいらっしゃらない。

真の愚か者ではないので手綱も取りやすい。

生母第二妃殿下はライト公爵家の分家のご令嬢。

本家には逆らえない。


ライト公爵家から、「皇族復帰して皇太子になり、クロノライナス第一皇子殿下か、この先生まれてくる子供が成長してからその座を譲れ」と言われたら、彼は従うしかないだろう。



そうなれば、これまでのように気軽にお茶会をしたり、共に仕事をしたり、絵画を描いてもらったり、奉納会を開いたりすることはできなくなる。


私とは、ほとんど会うこともなくなるのだろう。



先ほどまで響いていたパイプオルガンよりもっと、心臓の音が大きく聞こえる。

正直、立ち上がれる気がしなかったけれど、周りに誰もいなくなり、清掃担当の使用人たちが待っていることを思い出し、なんとか立ち上がった。


いつもの通り、控室に向かい、ファイラ様にご挨拶を。

今日の演奏も素晴らしかったと伝えなければ。


そう思っているのにどうしても足が控室に向かない。

礼拝堂を出たところにあるベンチに座り込んでしまう、と。


「ロゼア様!」


演奏を終えたばかりのファイラ様が、急ぎ足で向かってくるのが見えた。


「どうなさいました? 具合が悪く? 迎えはどこに呼んでいますか?」

「大丈夫です、その、あまりに素晴らしい演奏に、帰るのがもったいなくて」


しどろもどろになる私に眉を顰め、それから隣に座ってもいいか、と聞かれた。


「もちろんです、どうぞ」

「ありがとうございます。いつもはその、控室にいらしてくださるのに今日は帰られるのが見えたので、何か不備があったかと」

「ご心配おかけして申し訳ありません。いつも通り素敵な」

「でも、なにかあったのですよね?」


ファイラ様にしては珍しく、言葉を遮ってまっすぐ私を見る。

奉納会用に整えられた髪型は、ガーネットの瞳をいつもより強く輝かせる。


「前にも言いましたが、いつでも頼ってほしいです」


貴族たるもの、本音を見せてはならない。

私は貴族失格だな、と思った。


でも、やっぱり思ったことが口から出る癖は、直せなかった。



「ファイラ様は……皇太子の座をお望みですか?」


口から出た言葉に、ファイラ様の眉間の皺はますます深くなった。




「なるほど、そういう考えもありますね」


先ほど聞いた噂話を簡単に説明すると、ファイラ様は納得したように頷いた。


「探りを入れられることはありますが。今のところ、本家からそのような要請は来ていません。次代の皇太子をスザークス兄様の御子にすることを密約の上、レイジェーン第五皇子殿下が就任する事になると思いますよ」

「そうですか……」


ホッとする。

ファイラ様が皇太子にならないのなら、これまで通りに関わり続けていられるだろう。


でも、何故か胸のつかえがとれない。


「それにしても、シャイア兄様が羨ましいです」

「え?」


ファイラ様が苦笑する。


「同じ皇位継承権を持つ元皇子なのに、噂にも上がらないではないですか。サウス公爵家当主に婿入り、というのがどれほどの意味を持つのか、改めて理解しましたよ」


確かに、立場で言うと私と離縁したシャイアが皇太子になってもおかしくはない。


その噂が出ないのは、「サウス公爵家当主夫君」という立場が大きいからだ。

中継ぎの皇太子と同じくらいには。


「それでは……」


ずっとある私の癖。

考えたことが口から出てくる癖。

それが治せなかったどころか、考えてもいなかった言葉が口から出てきてしまった。



「ファイラ様も、私の夫君になりませんか?」 



この時の衝撃は、前世を思い出した時くらい大きかった。


ようやく「ラブコメ」ジャンルみたいになってきたぞー°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°



読んでいただいてありがとうございます。


★★★★★やいいねをポチってもらえるとモチベーションが上がります。


どうぞよろしくお願い致します。

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