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今年もよろしくお願いします。
「そんなわけで、ララを私の妻にしました」
「初めまして。ララ・イレーグルと申します」
社交シーズンも、忙しい仕事も終わった穏やかな日。
今日はロクサーヌ様とファイラ様、モニカを招いてのお茶会だ。
この良き日に、私は新しい妻であるララを紹介した。
孤児院でも美しかったララは、サウス公爵家のメイドたちに磨かれて、更にパワーアップしている。
サラッサラの金髪は満月の光を具現化したみたいに輝いているし、ラベンダー色の瞳は光が入るとより濃く美しく輝く。
体に合わせた青色のドレスを身にまとい、華麗にお辞儀をする姿を見て、孤児院育ちであると見抜かれることはないと思う。
勿論所作や言葉遣い、礼儀作法はまだまだ付け焼刃。
厳しく教えている途中なので、今日も挨拶だけして退場してもらった。
一緒にお茶会ができるのは、もっと勉強してからね。
お母様が楽しそうに指導しているので、来年には皇家のお茶会にも出られるかな。
「随分と思い切りましたね、ロゼア様」
ファイラ様が唖然としている。
ロクサーヌ様は扇の向こうで笑いをこらえているのがわかった。
モニカは隠しもせずに爆笑している。淑女なんだからちょっとくらい隠しなさいよ。
我が国では同性同士の結婚が認められている。
数は少ないけど。
そして当主や次期当主は、複数の伴侶を得ることが認められ、なんなら推奨されている。
貴族は血筋が大事だからね。
というわけで、私の第一夫君はシャイアのままで、第一夫人にララを迎える事にしたのです。
勿論、本当に結婚するのはララが成人してからの話になるけど。
デビュタントまでに「将来の公爵夫人」であることをそれなりに噂として流しておけば、手を出してくる輩もいないでしょう。
もし手を出してくる人たちがいるとしたら、それはそれで「噂が届かない人脈しか持たない」か「真実を見抜けない」か「公爵家の大きさもわからない」のどれかになるわ。
試金石にもなって丁度いいかもね。
「あーおもしろ。ロゼアって本当におもしろいよね。応援するわ。パパにも言っておくね」
目じりに涙をためながら、モニカが笑う。
モニカの父親と言えばシューラ一代公爵。
外交を取り仕切る、なかなかの権力者。妻子に優しいおじさま。
「私も支持しますが……婚姻届、受理されるんですかね? 当主の同性婚など前代未聞では?」
心配そうにファイラ様が尋ねる。
実は私もちょっと心配。
「法律上問題はないでしょう。前例がないと言われれば、私が前例になると言えばよいのですよ」
ロクサーヌ様の力強いお言葉。
誰かに文句を言われるかもしれないけれど、サウス公爵家にイレーグル侯爵家。シューラ一代公爵とジューン一代公爵、そしてフォール一代公爵。これだけの数の高位貴族が味方になってくれるならまあ大丈夫だろう。
無理が通れば通が引っ込むって言うしね。
「今度お茶会にいらしてくださいな。アキエルもお話してみたいと言っていましたから」
「ありがとうございます。また連絡させていただきますね」
友人たちに認めてもらえて、私はホクホクした気持ちになった。
さて、この気持ちを持ったまま、最後の話し合いに行こうじゃない。
「二番街の館の修繕が終わったと聞いたけど」
いつものように呼び出したシャイアに聞く。
ここのところシャイアは館の修繕につきっきりで、ほとんど顔を合わせていなかった。
「うん、来月には住めるようになると思うよ」
「そこにララを住まわせることはできる?」
そう問いかけると、シャイアは驚いた顔をして、それから困った顔になった。
「引き取ったばかりのララ様を追い出すのかい?」
「そう思うなら、あなたも一緒に住んだらどう?」
ララのことは可愛い。
シャイアのことも嫌いじゃない。
でも二人が一緒にいるのを見ると、どうしても自分が脇役で、二人の邪魔をしているような気持ちになる。
私はそれが、嫌だった。
せっかく貰ったこの命。
私が主役だ。
自分の好きなように生きたいじゃない。
「シャイアとララの二人で、二番街の館で暮らしてちょうだい。使用人はうちから連れて行って。二人きりになるのはご法度よ。ララに手を出したら物理的に制裁するわ」
視線の隅で護衛が筋肉を見せつけるのが見えた。
嬉しいけどやめてよ、笑っちゃうじゃん。
「あなたが私の第一夫君でしょう? 第一夫人の教育はあなたの仕事よ。学園入学までに、公爵家令嬢として完璧な淑女に育て上げて頂戴」
あなたならできるでしょう? と目で問いかける。
シャイアは何か考えているのか、しばらく真顔だった。
やがて口角をほんの少し上げる。
それだけで、精巧な人形から美しい男性へと変わる。
「お任せください。ロゼア・サウス次期公爵」
芝居がかったお辞儀に、私も偉そうにして応えて見せる。
でも内心は不安だ。
もしかしたらこれが「物語の強制力」ゆえの行動なのかもしれない。
縁もゆかりもない小娘を、引き取るなんて。
でも、見捨てることはできなかった。
それに、「公爵家の当主」が「侯爵家の令嬢」を娶ることは何らおかしい行動ではない。
イレーグル侯爵家とは今まで接点はなかったし、父も母も苦笑しながら許可してくれた。
イレーグル侯爵家の流通関係には我が家も一目置いていたし。伝手ができるのなら、元孤児一人妻にするくらい当然のこと。
本人は可愛くて見込みもあるなら、尚更。
何も間違っていない、大丈夫。
私は私を幸せにする。ついでに周りの人も幸せになってくれたら。
「たとえ強制力だったとしても」
幸せならば、それでいいじゃない。
今はそう、思えるようになった。
二か月にわたってお送りしてきました第4章、無事終了しました。
ロゼアちゃんが「私がララを妻にもらうわ」って言いだしたときは爆笑しました。
ここからめくりめく百合の花園が始まるのか…と言われるとそういう訳ではないのですが、GLあります表記をしているのはこの為です。期待に沿えない方がいらしたらすみません。
さて、来週からは第一部完結編、第五章となります。
3月頃には終わる予定ですので、まったりお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。




