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「いらっしゃいませ、お姉さま!」
誘拐未遂事件の翌日。
北の礼拝堂を訪ねた私を見て、ララ様は笑顔で駆け寄ってきた。
「わあーお姉さまのドレスめっちゃかわいいー! ヤバい! 昨日のピシっとした制服みたいなのもかっこよかったけど、今日のドレスもかわいいーお姉さまにぴったり!」
昨日の私は仕事の途中だったから制服。前世で言うところの警備員って感じの服だった。
今日はオフなので、お出かけ用のラフな服を着ている。お忍びの気持ちも込めて、やや裕福な商人の娘って感じにも見える青色のワンピース。白い帽子がお気に入り。
「ありがとう……ところでなんでお姉さま?」
「シャイアお兄さまのお嫁さんなんでしょ? じゃあお姉さまかなって……メーワク?」
目を潤ませて、小首を傾げる美少女。
はい可愛い。
こんなの勝てるかい。
「迷惑じゃないわ」
「やったー! お姉さま優しい大好き!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる美少女。
「はしたない!」って怒るべきかもしれないけど可愛すぎて無理です。尊い。
「あらあらララ。サウス公爵令嬢をこんなところに立たせっぱなしで……」
騒ぎに気が付いて出てきてくれたルルー様が慌てて私を昨日の個室へと案内してくれる。
「あたしもお姉さまと話したい!」
「貴女のように礼儀作法がなっていない子は駄目だといつも言っているでしょう」
「本気出せばできるもん」
ぷうっと頬を膨らませるララ。作画が崩れない。
「あのー、私もララ様とお話しできればと思って参りましたので……」
そう切り出すと、ルルー様は何度も頭を下げながら出ていった。
孤児院の子ども達の相手で忙しいんだろうな。
「ねえ、シャイア様ってお家ではどんな感じ?」
向かいに座ったララ様がわくわくと瞳を輝かせて聞いてくる。
家でのシャイアか……。
歩く先々でメイドを口説いてる……なんて言うわけにはいかないよね。
「えっとー……ここではどんな感じ?」
「絵本の中のオウジサマみたいだよ! 目を合わせて話聞いてくれるし、階段で転ばないようにって手を繋いでくれたりとか、私の刺繍とかもとっても上手だって買ってくれるし。勉強でムズカシイところがあったらセンセーより上手に教えてくれるんだよ。何よりかっこいいよねー見てるだけで幸せ」
ニコニコ話すララ様。
とりあえず幼女に手を出していないようで安心した。
モラルはあると信じてるよシャイア。老女には手を出してたけど。
「お嫁さんだったら毎日シャイアお兄さまのお顔見られるんでしょ? いいなあ」
「そ、そうね」
あんまり帰ってこないから毎日会ってないとか言えない。
夢を壊したくない。
「昨日はあんまり話を聞けなかったけど、怖い目にあったんでしょう? 怖い夢とか見なかった?」
「ダイジョーブだよ。よくあるし。おじい様がね、あっ、おじい様は去年神様の所に帰っちゃったんだけど、おじい様が言ってたの。知らない人に手を掴まれたらしゃがみ込んで勢い付けておなかに頭突き食らわせろって」
わお、的確なアドバイス。
「後ろから抱き着かれたときは慌てずに踵で踏みつけろって」
おお、的確なアドバイスその二。
「あとはどこでもいいから噛み付けって。お前程度の歯では傷もつかないだろうけど、一瞬ひるんだら逃げ出せって」
何個あるんだアドバイス。
まあそれだけ誘拐未遂が多いってことかな。
今回、なんで皇城まで話が上がってきたんだろ?
「シャイアお兄さまもね、今度怖い目にあったら私の名前を出すんだよって教えてくれたの。そうしたら昨日ホントに来てくれたからビックリした!」
そうだった。
私もシャイアのおまけで呼び出されたんだった。
「おじい様が、あたしはお父さまと伯母さまに嫌われてるから、ユーフクな暮らしは諦めろって言ってたんだ。孤児院には友達もいっぱいいるし楽しいんだよ。でもなんか最近、みんなよそよそしくなってきたんだ……」
孤児院の子供たちの気持ちもわかる。
小さい頃は美醜の区別があまりつかなかったけれど、成長するにつれてララ様の規格外の美貌が目立ってきたのだろう。
男の子は惚れて、女の子は面白くないんじゃないかな。
それが実は貴族籍を持つ子どもとなればなおさらに。
自分たちとは住むところが違うと、距離を置いてしまっても不思議ではない。
「お姉さまのお家、大きいんでしょ? あたしが大きくなったら雇ってくれる? シャイアお兄さまの近くで、メイドさんとかできないかな?」
そう聞かれて口ごもる。
もしもララ様が、パプル男爵家から紹介状を持ってやってきたなら精査の上採用することもあると思う。
だけど当主に嫌われている以上、それも難しいはず。
「おばあ様ね、最近寝込む日が増えたんだ」
ぽつりとつぶやく。
「おばあ様がいなくなったら、私どうなるのかな。素敵なオウジサマが私の事迎えに来てくれないかな、オウジサマじゃなくてもお父さまとか伯母さまが、うちにおいでって来てくれないかなーなんて思うんだけど、無理だよね。」
なんと言葉を返していいのかわからない。
とりあえず、これ以上誘拐事件が起きないようにサウス公爵家から孤児院に警備を派遣しておくことにしよう。
「何かあったらいつでもおいで」
やっとひねり出したシンプルな言葉に、ララ様はきらきら笑って応えてくれた。
ロゼアちゃんもララちゃんもメンクイです。
ララちゃんは絶世の美少女です。ロゼアちゃんは平均よりやや整っているくらいの感じ。
有能な侍女たちの手によって社交場では美しい女性へと変身します。周りも皆変身しているからやっぱり「平均よりやや上」くらいに留まるんですけどね。




