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さて、生き残る決意を固めたところで、もう少し情報を整理したいと思います。
社交界でも情報は大切。情報を制したものが世界を制すると言っても過言ではないわよね。
私は手帳を広げながら一人頷いた。まずは私自身のことを。
名前はロゼア・サウス。21歳。
栗色のゆるいウェーブの髪に、露草色でちょっと吊り目気味の瞳は、気に入ってはいるけど油断すると怖そうにも見えるみたい。身長も女性にしては高めだしね。身分は皇族に次ぐ高位貴族である公爵令嬢。なんと次期公爵でもある。この国は女性でも爵位が継げるのよね。父親はサウス公爵。母親は現皇帝の妹で、今はサウス公爵夫人。
第一皇子の二つ年下に生まれて、身分も年齢差も丁度いいという事で、将来は後の皇太子、第一皇子に嫁入りして、ゆくゆくは皇后となる予定で育ってきた。第一皇子は優しい瞳のお兄さんで、幼いながらも淡い恋心を抱いていたの。実の兄がやんちゃ系だったのもあって、余計に素敵に見えていたのよね。
それなのに、十二歳の時突然「皇后の話はなくなりました。貴方は次期公爵としてサウス家を継いでもらいます。第二皇子シャイアが婿入りしてくるよ、仲良くしてね!」と言われた。出てきた言葉が「はあ?」だったことは今でも仕方がないと思う。
更に、久しぶりに顔を合わせたシャイアに全身一瞥のち鼻で笑われ(一緒にいた侍女はそんなことありませんよって言ってたけど、あれは絶対馬鹿にしてた)、こっちだって年下のガキンチョなんてお断りよ! と冷戦状態に入ってしまった。大人になってそれなりにお互いがわかってきたし、今は仲が悪い、とまでは言えない状態だけど、良くもないかな。お互い相手を夫婦だと思っていない気がする。盆と正月に会う親戚ってくらいの距離感。実際イトコでもあるし。
私は次期公爵として、領地について勉強したり、社交界に顔を出したり。また、皇城に出勤して、行事の時の警備全般のまとめ役も担っている。あと公爵令嬢として流行の最先端に立っている必要があるので、流行りの本を読んだり紅茶を飲んだり演奏会に通ったりもしなくちゃいけなくて……。
つまり、すっごく忙しい。
正直シャイアがどこで何していようが誰といようが全然構わない。だけど、皇帝お気に入りの皇子を放置するわけにもいかないので、一応、監視を付けて、行動は把握するようにしている。そしたらあっちこっちの女のところにフラフラしていることが判明して……。嫉妬はしないけど、拗れた時の後始末誰がしてると思ってるのよって感じだ。めんどくさい。
繰り返しになるけれど、源氏物語で言うと私の名前は「葵上」。高貴な生まれで、幼くして光源氏の正妻となるが夫婦仲は悪く。結婚十年目にしてやっと子どもを授かったと思ったら愛人である六条御息所の嫉妬から祟り殺されてしまう役柄。可哀そう、私。すべて光源氏が悪い。
というわけで次は光源氏ことシャイアのこと。
シャイア・サウス。19歳。
私の夫なので公爵令嬢夫君であり、次期女公爵夫君。私が当主だから、当主の配偶者って扱いね。婿入りの前は皇帝陛下の第二皇子殿下。寵姫と呼ばれた第四妃唯一の子どもとして皇帝陛下からは溺愛されている。
幼い頃母と死別し、その後、「母にそっくり」と言われる若い女性が新しい義母、第五妃かつ皇后としてやってくる。この人のことをシャイアははじめ母替わりに思っていたんだけど、いつしか恋の相手として見ていくのよね……ってこの辺は源氏物語から推測した知識によるところ。
この世界的にはシャイアと皇后様は「麗しい義親子」としか見られていない。本当に顔がいいのよね。目の保養になるの。
金色の髪は室内でも屋外でもキラキラ光っているし、アメジストにも例えられる瞳は優しそうで人を惹きつけて止まらない。身長はやや高め、そんなに鍛えている様子もないのに筋肉が程よくついている。更に皇帝陛下の息子で頭もよくて、会話もうまくて体つきも程よく運動もできるし芸事は楽器も歌も絵画も剣舞もなんなくこなすという……ザ・パーフェクトヒューマンってやつ。それなのに私の夫としては落第点なのは何故なのかしら。性格が悪いとは思わないけど、きっと相性が悪いのね。
源氏物語の「光源氏」といえばスーパー主人公として、老婆から幼女まで、皇后から落ちぶれまで、どんな女性も虜にしていく、とんでも人間。ストライクゾーン広すぎというべきか、スペック高すぎというべきか。好みは別れるところだと思う。私としては、恋人にしたくないタイプだと思っています。夫だけど。
あとは……ロクサーヌ様のこともまとめてみなくっちゃ。私は手帳のページをめくる。
ロクサーヌ・フォール公爵代理。31歳。
まっすぐ伸びた金に近いベージュの髪に若草色の瞳。いつでもピンと伸びた背筋に指先まで美しい所作。社交界にはあまり顔を出されないけれども、その洗練された美しさのファンは多い。先の皇太子殿下の第一妃だったんだけど、先の皇太子殿下が病気で早くに亡くなって未亡人に。そのあと色々あって、ご息女が一代公爵の地位を得て、成人するまではロクサーヌ様が一代公爵の代理としてお役目を果たされることになった。ご息女がフォール公爵になるまでのつなぎっていう感じかな。
源氏物語で言うと「六条御息所」。高貴であるが故嫉妬心を誰にも見せられず、また自分でも嫉妬していることを認められず、二人の女性を祟り殺してしまう哀れな女性。いろんな伝統芸能の題材にもなっていたわよね。ラノベでは確かシャイアに恋をして、そんな自分が信じられなくて、でも恋心が止められなくてとうとう神に「この恋を終わらせたい」って願うんだよね。そうするとそれが呪いとなって結果としてロゼアが死んじゃうという……
えっ、なんでラノベの私その流れで死んだの?
とばっちりじゃない? ひどくない?
「何か書いてるんですか?」
「ひぇっ!」
急に後ろから声を掛けられ、私は飛び上がるほど驚いた。
説明回です。読みづらかったらすみません。1章が終わったら人物紹介も付けますね。
今後ちまちま登場人物増えますが、とりあえずは「ロゼア=葵上」「ロクサーヌ=六条御息所」「シャイア=光源氏」だけ理解してもらえればなんとかなりますのでよろしくお願いします。
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