1ー1
9月14日、文学フリマ大阪13に出店します。
サークル名…未完系。
ブース…えー51
「御夫君は、今宵も六番街へと向かわれたようです」
「そう、六条の……」
その時私は思い出した。ここが源氏物語を土台にした、ラノベの世界だということを。
前世の私がどんな人物だったのか、それはあんまり覚えていない。多分普通に恋したり勉強したり就職したりした、成人女性だった気がするんだけど。なんで死んだんだろう? 事故とか病気かな? 寿命じゃないよね? まあいいや。置いておこう。私はもう新しい世界を生きているんだし。大切なのは、私の転生先と、その役割よね。
はい、そんなわけで、まずは状況を整理しようと思います。
ここは、とある小説投稿サイトに連載されていて、書籍化もされた物語の世界……長いからラノベでいいか。ラノベの世界。古典長編作品「源氏物語」をモチーフにしていて、初めて読んだとき「へえ、源氏物語って、ラノベにもなるんだ」と妙に感心したものだった。
でも、思い出したのはここまで。私はそのラノベを、途中までしか読んでいない。
投稿サイトで流し読みして、ブラウザを閉じてしまったので、ここがラノベの世界だと言う事が分かっても、今後のことは殆ど分からない。残念過ぎる。でも私は、ここがラノベの世界だと確信している。
なぜって? 勘よ! 前世でも今世でも、ここぞという時には外したことない、勘!
つまり理由はないってことね。細かい理屈は苦手なのよ。あ、でも、ラノベの内容はわからないけれど、源氏物語はわりと好きだったから、ある程度人物や内容は覚えているかも。ただ、細かいところはわからないし、ラノベがオリジナルストーリーに入っていったらお手上げだわ。転生チートなんてものは無いに等しい。残念過ぎる。まあ、無いものを強請っても仕方がないか。配られた手札で頑張るしかない。人生って、そういうものだよね。
申し遅れたけれど、私の名前はロゼア・サウス。サウス公爵家の第二子、長女として生まれ、現在21歳。結婚して夫が一人いる。その夫が、かのラノベの主人公であり「社交界の宝石」とも呼ばれる第二皇子、シャイア。今は我が公爵家に婿入りしてシャイア・サウスという名前になっている。源氏物語で言えば主人公、光源氏その人。そう、私は、主人公の正妻。源氏物語で言うところの、葵上。
つまりラノベや源氏物語によると、私の運命は。
「長年仲たがいしていた夫との間に子どもが生まれた途端に夫の浮気相手から呪い殺される役かぁ」
なんということでしょう。まさに悲劇のヒロインではありませんか。
「こういうのって、もうちょい死亡フラグ回避できそうな時に記憶が蘇るんじゃないの……? もう結婚しちゃってるし、シャイアもロクサーヌ様とお近づきになりつつあるみたいだし……これもう手遅れじゃない?」
ロクサーヌ様はラノベで私を呪い殺してくる相手。つまり原作では誇り高き才女であるがゆえに嫉妬に苦しみ、生霊となって恋敵を憑き殺すことになるあの御方、六条御息所。今夜もシャイアは六番街、ロクサーヌ様の屋敷に行っているそう。ちなみに私とシャイアは完全なる仮面夫婦。源氏物語でもそうだったよね確か。
「終わった……? いいえ、まだよ……」
私は拳を強く握った。なんだか色々よくわからないけど、私は今生きている。前の命もよくわからない内に終わったみたいだし、せっかく生まれたこの命、そう簡単に終わらせてなるものですか!
「絶対に死亡フラグを叩き折って、生き延びて見せるわ!」
力強くこぶしを振り上げた私は、お茶を運んできた侍女に見つかり、淑女にあるまじき行動であると注意を受けてしまいました。ごめんね。
ロゼアちゃん奮闘記、始まります。
お気に入りの作品なので楽しんでもらえると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します。
読んでいただいてありがとうございます。
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