恋愛ベタ公爵令嬢は、年上伯爵を大人の色気でドキリとさせたい
短編30作目になります。いつも応援してくださる皆さま、そしてはじめましての方もありがとうございます!
今回は、ちょっとワガママで恋愛ベタな令嬢が、年上伯爵を“自分の虜にしたい!”と奮闘するお話です。どうぞ最後までお付き合いくださいませ♪ (o´∀`o)
「エリサ様、そんな高いヒールの靴よりもこちらの方が良いかと」
「いいの!この靴の方が、私をもっと美しく見せられるでしょ!」
自分を美人だと自負しているのは、公爵令嬢のエリサである。
彼女は鏡の前に立つと、栗色のゆるやかなカーブを描いた髪の毛をかき上げながら、ヘーゼルブラウンの瞳をパチンとさせた。
(私ってキレイ!皆、見とれるに違いないわ)
こうして張り切って舞踏会に出掛けたのだが、数時間後、彼女は泣きそうになっていた。
舞踏会場の端で長椅子に座り、彼女は足の痛みに耐えていた。履き慣れないヒールを選んだから見事に靴ずれをしたのである。
一刻も靴を脱ぎ捨てたいのに、それができない。エスコートをしてくれた従兄は馬車を呼びに行ったのに、全然戻って来ない。
(私、惨め……)
普段からチヤホヤされて育ったエリサは、華やかではない地味な姿を見られたくないと落ち込んでいた。
「どうされたのですか?具合を悪くしましたか?」
先ほどから男性も女性も公爵令嬢のエリサを気にして声をかけてくる。
「少し、休んでいるだけで大丈夫ですわ。それより、皆様は楽しんでいらして」
「もし、医者が必要であれば私が……」
なんとかお近づきになりたい男性が先ほどから食い下がっている。
「大丈夫ですわ。従兄がいますから」
ニッコリと笑ってみせると、男性はさらに隣に腰掛けて話しかけてくる。
(もう、今は話しかけないで!)
かかとが熱を持って痛む。話すどころじゃない。
「お待たせしました。さあ、行きましょうか」
聞き慣れない声に顔を上げると、黒髪ショートを後ろに流した背の高い男性がエリサに手を差し伸べていた。
「あ、この方が従兄様ですか」
「え、ええ」
エリサの親類と聞いて、男性は立ち上がると去って行く。しつこくしていたと思われたら大変だと思ったのだろう。
「あなたが嫌でなければ、抱き上げましょうか? 靴ずれしているんですよね?歩くのは辛いはずだ」
「なんでそれを……?」
「先ほどから足を庇うように気にしているからピンときました。なのに、話しかける人は誰一人として気付かないものですから、こうして声を掛けました」
(へえ、私のことをきちんと気にしてくれる人がいたのね)
「あなた、お名前は?私はエリサ・コルホネンよ。ご存知よね?」
コルホネン公爵家を知らぬ者などいないだろう、とやや偉そうに言う。
「ええ、もちろん。私は、ティモ・レフティネンです。数年前に爵位を受け継ぎ、伯爵です」
「そうなのね」
ふうん、伯爵かと思いながら、彼の出している手を握った。
「お察しの通り、足が痛いの。カッコ悪く歩くくらいなら恥ずかしいけれど、抱き上げてもらう方がマシだわ。私をお姫様みたいに抱き上げて馬車のところまで連れて行ってもらえます?」
初対面の男性に言うことではないが、人が良さそうなティモに要求すると、彼は微笑んだ。
「ええ、いいですよ。じゃあ、抱き上げますね。しっかりつかまって下さい」
彼は、エリサをヒョイと抱き上げると、皆の注目を集める中、どうどうと会場を出て行ったのだった。
――帰りの馬車の中、目の前に座る従兄がしきりに謝っている。
「本当に申し訳ない。あんなに待たせるつもりじゃなかったんだよ」
どうも、彼は馬車を呼びに行ったのに、美女を見かけて口説いていたらしい。エリサが抱きかかえられて会場を出て行くのを見かけて慌ててやって来たのだった。
(あんなふうに抱き上げられたの、初めて……。皆が私を見ていたわ。本物の王子様じゃないけれど、あの人なら1回ぐらいデートしてみてもいいな)
エリサはデート、というものをしたことがない。
もう一人の従兄であるサンティナ王子などを見ていると、どうしても高望みをしてしまう。自分にふさわしい相手でなければデートもしない!考えていた。
帰宅した翌日、エリサはこっそりティモについて調べた。
(ふうん。領地経営に定評があり、政務でも名を上げている若き伯爵、なのね。真面目ってことよね)
お礼の手紙を送るべきか迷っていると、侍女には速やかに書くべきだと言われて、ドキドキする気持ちでお礼を書いた。
「あなたが言うから、我が家でのティータイムにもご招待したわよ」
侍女のせいにしながらも、彼を屋敷に誘ったのだった。
ソワソワしながら返事を待っていると、その日のうちにすぐに返事がきた。
《お招きありがとうございます。ぜひ、伺わせていただきます》
簡単な言葉だったが、エリサは心の中で小躍りしたのだった。
――お茶会の日
エリサは庭園に面した応接室の窓辺に立ち、カーテンの影から外の様子を伺っていた。
お気に入りのローズティーの香りも、焼きたてのスコーンの甘い匂いも、すべてが気もそぞろになるほどだった。
(き、緊張するわ。自分屋敷でのお茶会といえど、これはデートみたいなものよね)
ローズティーにピンクのドレスがいつもの気分だったが、ティモが6歳年上なのもあって、今日のドレスはワインレッドの渋めなカラーを選んでみた。
馬車が見えて屋敷の前で止まった。
(来た!)
急いで席に座ると、しばらくして執事がティモを案内してくる。
「お招きいただき、ありがとうございます。お元気そうでなによりです、公爵令嬢」
「ええ、あなたも。……その、来てくださって嬉しいわ」
緊張していたせいで声が裏返った。マズイ、と心の中で思うが澄ました顔をして見せる。
「どうぞ、お座りになって」
ティモは口元の片方を上げながら座る。
「なにかおかしいことが?」
「いえ、あなたは左利きの方なのかなと思いましたが、そうではないようだと思いましてね」
エリサがティーカップを左手で持とうとして、慌てて右手で持ち替えたのを見ていたらしい。
「~~っ、気にしないで!」
プイとそっぽを向くエリサに、ティモはまた笑う。
(ちょっと笑い過ぎじゃない?)
「あなたはよく笑う方なのですね。気を付けないと“失礼な人”だと思われてしまいますわよ!」
「すみません。あなたを見ていると、私の妹を思い出すのです」
「……妹?」
「ええ。私には年の離れた妹がおりまして。あの子は気が強くて、思ったことをすぐ口に出します。でも、本当はとても繊細で可愛い素直な子です」
ティモの話を聞いていて、エリサはなんだかモヤモヤした気持ちになる。
「つまり、私はその年の離れた妹にソックリだと?」
「気を悪くしましたか?」
ティモがキョトンとしたように聞いてくる。
「だって、年の離れた妹なのでしょう?一体、その妹さんはいくつなのです?」
「12歳です」
「12歳……私は18歳ですわよ。まるで子どもだと言われているようではないですか!」
ムカッとしてエリサが思わず言う。
「そのようにストレートな言い方も似ていますね」
くすり、とティモは笑う。
「バ、バカになさってますの?私、この前のお礼を言いたくてお招きしたのに、これではお茶をする気分になんてなれませんわ!」
席を立ち上がり言う。
「まあ落ち着いて下さい。確かにあなたは妹に似ているところがあります。けれど、妹とは決定的に違うことがあります」
「なんです、それは?」
なかば、ふくれるように言う。
「あなたは美しくて気高い女性だということです」
「妹さんは可愛くないと言いたいの……?」
「妹は可愛らしいと思いますが、あなたに抱く気持ちとは全く違います。妹は妹ですから」
「……ふん」
今日は大人の女性らしく振る舞おうと思っていたのに、全く考えとは違う展開になっていた。
「……すっかりお茶が冷めてしまいましたね。すみません、私が話し過ぎました。お茶会に招いて下さったお礼をさせてください。観劇のチケットがあります。私と一緒に行っていただけませんか?」
ティモは内ポケットからチケットを取り出すと渡してくる。
(チケットを用意してきていたっていうの?)
思わぬお誘いをされてエリサはドキリとした。自分をからかいにきたのかと一瞬思ったが、そうでもないらしい。
「行ってさしあげても宜しくってよ」
「では、ぜひ。当日はお迎えに参ります」
ティモと観劇の内容などを少し話すと彼は帰って行った。
(なによ、失礼なフリしてやるじゃない)
“美しくて気高い”という言葉を言われたのもあって、エリサの機嫌はスッカリ直っていた。
――観劇の日、ティモはタキシード姿のスタイリッシュな姿で現れた。
エリサはやはり背伸びをしてダークネイビーのマーメイドラインのドレスだ。
「今日もお美しい」
褒められて素直に、微笑み返す。
(それはそうよ。今日のために何時間かけて用意したと思っているの)
ティモのエスコートは終始、紳士的でエリサをうっとりとさせた。
劇の合間の休憩ではエリサが飲みやすいシャンパンを持って来てくれるし、劇のストーリーの解説もしてくれて知的だ。
「今日は、足が痛くなりませんでしたか?」
「今日は大丈夫よ」
せっかくいい気分でいたのに、こうしてからかってくるのがなんだか悔しい。
(この人にどうにかして大人っぽい女性の魅力を見せつけてやるんだから!)
エリサは帰りの馬車の中で揺られながら考えた。
「エリサ様、なぜ黙っていらっしゃるのですか? 本日は楽しめませんでしたか?」
「あなたはどうなのです?」
「楽しかったです。とても。今日がもう少し長ければと思いました」
逆に問われたティモは、照れもせずにエリサを見つめながら言う。
(この男!年上だからって余裕すぎるのよ!)
照れて横を向いたエリサは頬が染まっていくのを感じた。
「わ、私にそのようなことを言う人は多くいますわ。皆、同じですわね」
心にも思っていないことをつい言う。
「多くいるのですか……。ただでさえ、私とあなたは6歳も歳が違います。あなたに言い寄る男性たちに比べたら、私など“オジサン”なのでしょう。それでも、あなたを褒めずにはいられません」
ティモが眉を寄せながら、ちょっと寂しそうな表情で言う。
そんなことはない!と言いかけてエリサは口をつぐむ。
「……私のことを、良いと思っているのですか?」
「直接的な聞き方をされますね。 はい、率直に言って、とても素敵な女性ですので親しくなれたら良いなと思っています」
「ホントにハッキリ言われるのね。――でも、男らしくて良いと思いますわ」
「なら、思い切って言ってよかった」
ティモがニコリと笑う。彼の後ろに流していた髪が額にハラリと落ちてきて、色っぽい。
(ああ、反則だってば!)
甘酸っぱい時間を過ごしていると、馬車がコルホネン公爵邸に着いた。
「エリサ様、また今度、私に会ってもらえますか?」
「どうしようかしら。あなたは私より6つも年上ですものね。私と……そのデートをしてやっぱり退屈だ!って、ならないかしら?」
「そんなことありません!」
ティモが少しムキになって言った。
内心、嬉しくて飛び上がる。
「では考えておくわね。――これは本日のお礼よ」
そう言うと、エリサは馬車に乗ってから密かに考えていた企みを決行する。
「失礼するわ」
エリサはティモの胸に手を当てると、そっと頬にキスをした。
「……!」
ティモが意外にも顔を真っ赤にさせた。彼は顔を赤くさせたままエリサを見つめながら去って行く。
してやったり!という気分になったエリサだった。
――今、社交界では年齢差カップルが流行っている。
もちろん、ブームに火をつけたのはエリサとティモの2人であるのは言うまでもない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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