山梨編 第三話 夜勤明け、目指すは山梨
秩父を抜けた先、山梨県側に入った頃には、空が薄桃色に染まり始めていた。
「うおっ……寒っ」
標高が高くなってきたせいか、夏の終わりとはいえ肌を刺す冷気。
夜勤明けの体にこの冷え込みはキツイ。
震える手でグリップヒーターを強にし、インカムから流れる音楽も「眠気防止」の激しめプレイリストへ変更。
時刻は午前4時30分。
富士山の東側に近づくにつれ、ようやく下界の灯りが見えてきた。
コンビニの看板がやたら神々しく見えるのは、空腹と眠気のせいだろう。
「もう無理……ちょっと寝よう……」
コンビニでホットコーヒーを買い、目の前のバイクを睨むように見つめながらつぶやく。
——だって、おれ夜勤明けだし。
近くにあった24時間営業の道の駅(というより広めの駐車場)へ移動。
シートバッグを枕に、地面に座ってそのまま横になる。
「数分でいい……ちょっとだけ……」
ウトウト……ウトウト…………
気づけば一時間以上爆睡していた。
朝6時前、車のドアの開閉音で目が覚める。
慌てて体を起こすと、となりに止まっていた軽自動車のおばあちゃんと目が合う。
「……すいません、生きてます」
声にならない挨拶をすると、おばあちゃんはニコニコしながら手を振ってくれた。
富士吉田、なんて優しい町だろう。
目覚めた体は少しスッキリしていた。
そして、目の前には——
「……出てる……」
富士山。
まるで絵画のように、空の青と雲の白に浮かび上がるその姿。
夜勤明けで死にかけ、砂利に殺されかけ、仮眠で地べたに沈んだ男の目に、その姿は神々しく映った。
「……これは、呑むしかない」
言いながら、まだ酒を買ってないことに気づく。
「とりあえず、朝飯だな」
次なる目的地、豚丼と朝霧高原へ。
富士山の裾野を目指し、再びZ900に火が入る。
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