【第二話】 沼津の海鮮と、港町の昼下がり
朝、モビリティーパークのサイトは静かだった。
昨日の夜、焚き火のカスと共に空けた缶ビールの残骸を片付けつつ、ゆっくりと湯を沸かす。
コーヒーは濃いめ。インスタントでも朝の山で飲めばそれは特別になる。
朝食はシンプルに、昨晩炙って食べきれなかった干物の残りと、昨日道の駅で買っておいた小ぶりのパン。軽く炙って食べれば、これもまた贅沢だ。
「さて、今日は沼津だ。」
旅に予定表なんて要らないが、「今日は海鮮を食べに行く」という意志だけはある。
Z900に荷物は積んだまま、軽装で出発。沼津へ向けて、国道414を北上する。山道から少しずつ町並みに変わっていく。
途中、伊豆長岡の辺りで信号待ち。隣に停まったのは、リッタークラスのBMW GSに乗った白髪交じりのおじさんライダー。
「今日はどちらまで?」
と聞かれ、
「沼津で飯を食ってキャンプ地に戻ります」
と答えると、おじさんは満面の笑みで
「わかる、それが正解」
と親指を立てて去っていった。
こういう一期一会があるから、ソロは面白い。
■
沼津港に到着。
観光地然とした喧騒もあるが、バイク乗りは裏道を抜けてバイク駐車場を探すのも楽しみのうち。
バイクを停めたらまず向かうのは、有名どころではなく、漁協関係者も出入りしている店を選ぶ。情報は事前に得ていた。
【沼津 にし与】
にし与丼が看板メニュー。今回は奮発してそれにする。
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目の前に出された丼は、正直映えより“内容勝負”。
分厚くカットされたマグロ、中トロ、キンメ、ブリ、白身、アジ、そして甘エビ、いくら、ウニ……
どれも脂の乗りが違う。しかも、ご飯がほんのり温かい酢飯で、ネタの旨味が際立つ。
(これ……日本酒飲みたいけど、この後走るから我慢……!)
黙々と食べていたら、隣席に座った別のライダーが「美味そうですね」と声を掛けてきた。
愛知から来たというその人は、カワサキのW800に乗っているとのこと。
自然とバイク談義に花が咲く。
「昨日は富士山の方だったんですけどね、今日は伊豆回って、キャンプ張って帰ります。」
「お互い、いい旅ですね。」
深くは踏み込まないが、こういう交流もまた、ソロツーリングの味わいのひとつ。
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食後は沼津港をぶらぶらと歩く。水族館には寄らない。
干物やら魚市場やら土産屋やら、歩くだけでも観光気分は十分。地元産のわさび漬けを土産に購入する。
さて、そろそろ戻ろう。来た道を引き返すのは味気ないので、沼津IC付近から県道17号を経由し伊豆の山を縫うルートへ。
午後の道は車も少なく、ツーリングには最適だった。遠くに富士山が顔を覗かせている。
「……やっぱ、静岡はいい。」
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16時頃、モビリティーパーク帰着。
汗を流したいが、今日は温泉には寄らず、サイトでまったり過ごすことにする。
焚き火台をセットし、ファイヤースターターで……また火が点かない。
悪戦苦闘の末、文明に屈する。
それでも火がつけば勝ち。火があるだけで、酒が進む。
夕食は昨日買った地魚と、今日は市場で買った干物を軽く炙るだけ。
わさび漬けも皿に出してちびちびやる。
(今日も良い日だった。)
静かな夜、炭火の赤とビールの泡が、旅の満足を噛み締めさせる。
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