【第一話】「伊豆へ、クセ者と珍道中のはじまり」
春の終わり、初夏の気配が混じるある朝。
Z900のタンクを撫でつつ、主人公は心の中でこう呟いた。
(……さて、今回は伊豆。温泉と海鮮と峠、全部欲張りコースで行くか。)
目指すは伊豆半島一周。温泉街も良し、海鮮も良し、そして走り応え抜群の峠道が待っている。今回はあえてコミカルな出来事にでも出会わなければ、男一人のソロツーなど地味である。
そんなわけで、朝8時に伊勢崎を出発。
すでに道路は渋滞。道の駅でひと息つき、ソフトクリームを食べながら隣のバイクを見れば──なんともインパクトのある装備。
(……タンデムシートにカゴ、その中に柴犬。帽子かぶってる。いや、見なかったことにしよう。)
ライダーは70代と思しき老紳士。柴犬はアイスを狙っていたが、そこはノータッチ。
高速道路も利用し無事に静岡入り。伊豆縦貫道に入ってからはスムーズ。
まずは腹ごしらえと、三島名物「うなぎ」の名店へ。
【むさし】──うな丼上(ごはん少なめ)。
ふっくらとした身、甘辛いタレが染みる。山椒をかけ、白米とともに頬張れば至福。
(最高だぁ……昼から贅沢しすぎた。まぁ、今回はご褒美ってことで。)
■
その後、箱根峠経由で伊豆スカイラインへ。
春霞が残る中、視界は悪いが路面は良好。Z900は快調に走る。途中、休憩所でひと悶着。大型SUVがバイク駐輪場に無理やり突っ込んできた。
オッサン「バイクなんかどこ停めたって一緒だろ!」
内心──(いや、指定場所だから……)
「……一応、区分ありますよ。事故ると面倒ですよ。」
オッサン「……ちっ。」
嫌味な顔をされつつも、そそくさとSUVは移動。
(大人対応……俺エラい。)
■
伊豆スカから冷川峠へ。道の駅「伊東マリンタウン」で小休止。
足湯に浸かり、伊豆土産コーナーで地ビールを発見。
「こんなの買わないわけが無い」
すると、どこかで見たような夫婦ライダーが。
タンデムの奥さん、後ろ姿が記憶にある。
「あらー、あんたも一人なの? ウチのは爺さんでねぇ。」
CB1100に乗った老夫婦。実は数時間前、箱根で会話した二人だった。
「一周?いいねぇ。一緒に走ろうよ。」
──気づけばマスツー状態。
老夫婦、超低速巡航。後ろを走る俺、心の声は止まらない。
(時速……40キロ。追い越したら失礼……でも遅ぇ。)
とはいえ、休憩ごとにご夫婦は振る舞い上手。ところてん、塩ソフト、干物の試食……小刻みに食い倒れツアー。
「こないだねぇ、奥多摩で道間違えてね……」 「その時もあんたみたいな若い兄ちゃんに助けられてさぁ。」
(どこ行ってもライダーは助け合いだなぁ……そして、若い、は無理がある……)
■
夕方、温泉へ。選んだのは【赤沢日帰り温泉館】
海を望む絶景露天で、心から溶ける時間。老夫婦は別行動。ここはソロの時間、至福。
風呂上がりに「赤沢プリン」を食べ、再びZ900へ跨る。
■
キャンプ地は【モビリティーパーク】。温泉施設も併設され、ソロでも快適。
焚き火の準備をするが、湿った薪に苦戦。汗を流しながらファイヤースターターを何度も擦って火花を散らす姿はもはや儀式。
「……今どき、文明捨てすぎじゃない?」と自嘲しつつ、ようやく着火。
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夜は海鮮。昼に買った干物をスキレットで焼きたものと伊豆名物「金目鯛の煮付けレトルト」を温める。
酒は地元の焼酎「伊豆乙女」。アルコールが染み渡る。
老夫婦は別サイトで宴会中。遠くで笑い声が聞こえる。
「次は九州行こうって言ってんのよ~」 「そりゃ遠いわぁ」
(九州は遠いけど、案外こういう人達は行っちゃうんだよなぁ……)
火が燃え尽きる頃、夜空には星。音は虫と遠くの波だけ。
明日は河津あたりまで回って海鮮だな。
帰り道、また何か出会いがあるかもしれない。
──ソロキャンプ、クセ者付き。
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