【第一話】「卵と奥多摩と、旅人の背中」
朝6時半、伊勢崎の自宅をZ900で出発する。
今日の目的地は東京・奥多摩。ソロキャンプツーリングではあるが、今回ばかりはちょっとした“癒し”を目的にしていた。海じゃない、山だ。標高を上げ、川音を聞き、夜は焚き火を眺めて酒を飲む。至極シンプル。
途中、関越道ではなく下道を選んだのは、いつも通りの自分の流儀。高速じゃ気分が乗らない。秩父から奥多摩入りするルートを選んだ。交通量はそれなりに多いが、山間部に入れば道も細くなり、車よりバイクのほうが気楽だと実感する。
正午前、奥多摩町に到着。今日の昼飯は、あらかじめ目を付けていた店がある。
その名も──
「だしまき玉子専門店 卵道 TAMAコレクション(ランウェイ)」
住宅街の細道を抜け、少し急な坂の先にポツンとある店。すでに何人かのライダー、地元らしい若者が外で名前を書いて順番待ちをしている。俺も素直に名簿に名前を書く。店員が「今、30分くらいです」と笑顔で言う。
バイクを停め、ヘルメットを脱いで一息つきながら、山々を眺めて待つ。谷筋から微かに川音が聞こえる。奥多摩らしい、静かな時間。
やがて順番が回ってきた。古民家風の落ち着いた内装。メニューはシンプルだが、迷わず「烏骨鶏 だし巻き定食(生卵付き)」を注文する。
しばらくして運ばれてきた。
ご飯は艶やかな白米、出汁巻きは厚みがあり、箸でつまむとふるふると震える。
一口──優しい、しかししっかりした出汁の旨味。
卵の甘みが引き立ち、ふわりとほどける。
卵かけご飯は、ご飯の熱でとろける卵がまろやかで、醤油の加減も絶妙。奇をてらっていない、けれど確実に美味い。
「これは……優勝だな」思わず心の中で呟く。
食後、お客に邪魔にならないように場所を移動し、缶コーヒーを飲みながらでのんびり。隣には、似たようにツーリング途中のライダーが煙草をくゆらせていた。互いに目が合えば、自然と頷き合う。奥多摩のライダー同士に言葉は要らない。
さて、腹も心も満たされたら、次は今夜の宿営地へ向かう。
目指すは──
奥多摩湖畔のキャンプ場。
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