【東北編・第十話】
青森からの帰路は、あえて急がないと決めていた。どうせなら寄り道を重ね、もう少しだけ旅気分を味わいたい。早朝、まだ静まり返る青森ベイブリッジを背にZ900を走らせる。海沿いの潮風は、どこか名残惜しさを感じさせた。
国道4号を南下し、途中岩手県盛岡を目指す。朝食代わりに道の駅で小休憩。名物「南部せんべい」の味噌味をかじりながら、コーヒーをすする。誰に聞かれたわけでもないが、こんな道中のひとときもソロ旅の醍醐味だ。
盛岡市街に入ると、目的はもちろん「盛岡冷麺」。今回は地元民オススメと聞いた「ぴょんぴょん舎」に向かう。昼前だがすでに行列。
店内は観光客と地元の人間が半々といったところ。席につき、迷わず冷麺とミニ焼肉丼のセットを頼む。透き通ったスープに、コシのある麺、キムチとスイカが映える。ツルリと啜ると、あっさりしながらも牛骨出汁のコクが舌に染みる。
「そういや、岩手といえば『三大麺』だったな……」
食後、ついでに「じゃじゃ麺」にも手を出す暴挙。こちらは盛岡駅前の老舗「白龍」。肉味噌とキュウリ、刻みネギを絡めて食べる独特な一杯。途中で酢やラー油を入れて味変し、最後は卵スープ「チータンタン」で締める。なんともクセになる味わいだった。
腹が膨れたところで再出発。しかし空模様が怪しい。福島県に入る頃には案の定ポツポツと雨が降り出した。国道沿いの郡山、喫茶店を見つけて飛び込む。
「ブレンドひとつ。あと、トーストも」
昭和から時が止まったような古い店内。店主と思しき白髪の男性は黙々とコーヒーを淹れている。窓の外を眺めると、どこかで見たような女子ライダーがカッパを着て歩いている。
──あぁ、そうだ。千葉のキャンプ場で出会った佐倉葵に似ている。
ふと、彼女との会話が蘇る。あのときの彼女も、こうしてどこか一人で旅を続けているのだろうか。
「雨、止まねえな……」
独り言に、マスターがぼそりと応じる。
「梅雨時はな、諦めるこった。」
笑い合うでもなく、それでもどこか温かな空気。食後、コーヒーを飲み干し、礼を言って店を出る。
空は暗くなっていた。
「今日はここまでだな……」
店の軒下で近くのビジネスホテルを検索する。福島市の安めなビジネスホテルがヒットする。
「ここに決めた!」
小雨の中、再びZ900のエンジンをかけた。
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