【東北編・第八話】
弘前──城下町の名残と、林檎畑の風
朝、民宿「こもれび荘」で目を覚ます。昨夜の暴風雨が嘘のように静まり、窓の外は一面の青空。朝食にご主人が出してくれたのは、厚切りのトーストに自家製林檎ジャム。そして味噌汁と漬物。
「林檎はな、酸味のある奴を砂糖と塩と一緒に煮るんだよ」
聞けば、ジャムに少し塩を入れるのが津軽流らしい。なるほど、甘すぎず、バターとの相性も抜群だった。
弘前市を目指して出発。津軽富士とも称される岩木山がくっきりと見える。あの静かな頂に、昨夜の嵐の名残は微塵もない。
午前11時前、弘前市街に到着。城下町らしく道路は碁盤の目のように整っていて、古い建築物が点在する。
「せっかくだし、弘前城を見ていこう」
そう思い、Z900を近くの公共駐車場に停め、歩いて弘前公園へ。ちょうど園内では林檎の剪定イベントが開催されていた。市の職員と農家が手入れする様子を見学。
「津軽の春は剪定から始まる」
そんな言葉が看板に書かれていた。
昼前、黒岩市街の「すずや」で、名物のつゆ焼きそばを注文。焼きそばに和風だしの汁がかかっていて、一見ミスマッチだが、これが実にうまい。焼きそばの香ばしさと、出汁の優しさが絶妙に絡み合う。
「ソース文化圏と出汁文化圏の融合だな……」
午後は、弘前のアップルパイ専門店「ラグノオささき」に立ち寄り、店員におすすめを聞いて「気になるリンゴ」を買う。青森産リンゴをシロップに漬けた、まるごとパイで包んだアップルパイ。シャキシャキとした食感をのしている。リンゴの芯をくり抜いた部分にはスポンジクラムを詰めていて、リンゴの水分がパイに移り過ぎないようになど、美味しい工夫された、見た目も楽しい。
「こんなに林檎三昧の街があったとは……」
町を歩くと、壁面や看板に林檎モチーフのイラストやロゴが散りばめられていて、まさに“林檎の都”という感じだ。
その日は市街地近くのライダーズゲストハウスに宿泊。夕方、チェックインすると、他のライダーと軽く情報交換。
「男鹿の雨、大変でしたね……俺も昨日通ったけど、びしょ濡れでした」 「キャンプ場諦めて正解でしたよ。山の上、倒木とかあったらしいです」
ライダー同士の会話は自然と打ち解ける。だが深入りしすぎず、夜は各々の部屋で休むのが暗黙のマナーだ。
夜は地元の居酒屋へ。小上がりの座敷に座り、地酒「豊盃」を頼む。つまみは「いがめんち(イカのすり身の揚げ物)」と「長芋の鉄板焼き」。酒が進み、隣の席では地元の若者たちが、ねぷた祭りの準備について語っていた。
「この町のリズムは、祭りと林檎でできてるのかもな」
夜の弘前は静かで、少し切ない。だが心の奥に、何か温かい芯が芽生えるような街だった。
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