【東北編・第七話】
出発、男鹿半島からの北上
小安峡での再会から一夜。
別れ際に隼人と固く握手を交わし、それぞれのルートへ。彼は仙台方面へ南下、俺は北へと進路を取った。
秋田市を抜け、日本海沿いを北上しながら、男鹿半島を経由するルートを選ぶ。
途中、道の駅おがで再びの「しょっつる焼きそば」を堪能。やはり横手焼きそばとは違う、アンチョビ風の塩味が癖になる一皿。魚介とニンニクの香りに包まれ、空腹もバイク疲れも吹っ飛ぶ。
「この塩気、やっぱりビールが欲しくなるけど……今は我慢、我慢」
日本海の潮風が少し湿っていて、遠くに黒い雲が見えていた。
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◆ 天候急変、嵐の津軽平野
五能線沿いを走りながら青森県に入る。岩木山が見えてくるあたりで、急に空気が冷たくなる。
「……来るな、これは」
道の駅ふかうらでトイレ休憩していた時、突如として強風と横殴りの雨。Z900にカッパを被せながら、自分も慌てて防水装備を装着。
しかし、道を走れば水たまりにバシャリ。サイドから雨風が叩きつけ、もはや意味を成さない。
「嘘だろ……予報、晴れだったじゃん……!」
ずぶ濡れで、気温もどんどん下がっていく。
津軽平野に広がる畑の道は遮るものもなく、風が容赦ない。体温が奪われ、顔が引きつってくる。
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◆ 雨宿りの民宿、そして林檎のカレー
目的地のキャンプ場へはとても行ける状況ではない。地元の人が運営しているという小さな民宿「こもれび荘」を見つけ、思い切って飛び込んだ。
「いやぁ、よう来たねぇ、バイクでこの天気じゃ大変だったろ」
中から出てきたのは、髪を真っ白にした70代のご主人。玄関でストーブを焚いてくれた。
ありがたすぎて、正直泣きそうだった。
部屋はこぢんまりしていたが、畳と障子が心地よい。
冷えた体を温めるため、熱い番茶をいただきながら、しばし放心。
「夕飯、簡単なもんだけど作るよ。青森名物の、林檎カレーな」
最初は半信半疑だった。だが、スパイスの中に自然な甘み。林檎の果肉がホロホロに煮込まれ、ルーにとろみと深みを与えている。
「……うめぇ」
民宿の台所から、ガスの音とご主人の鼻歌が聴こえてくる。その光景と味が、なぜか心に染みた。
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◆ 星のない夜、風の止む音
その夜、窓の外は真っ暗で、星ひとつ見えなかった。
風の音が弱まったのは、夜半すぎ。静寂がようやく戻り、民宿の小さな灯りだけが心を温めた。
スマホを見ると、青森市方面は明日は晴れ予報。少しずつ北の終着点が近づいている。
もう少し、旅は続けられそうだ。
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