【東北編・第一話】
「蔵王の峠と、黒髪の青年」
秋晴れの朝、群馬・伊勢崎からソロキャンプツーリングに出発した。
目指すは宮城県、紅葉と温泉、そして気まぐれな一期一会を求めて。
平日だというのに国道50号は車が多く、小山を抜けるまでに一時間以上かかった。小山からは国道4号を北上する。かすかに眠気を感じ目をこすりながら、途中の道の駅「東山道伊王野」で小休止。名物の「天ぷら蕎麦」を食べ、バイクへ向うと一台の黒いバイクが隣に停まった。
スズキのGSX250R。荷台には大きめのシートバッグ。どう見てもキャンプ装備だ。
メットを脱いだのは、二十代前半に見える黒髪の青年。シャツの袖をまくった腕には、焚き火の時についたのか、細かな火傷の痕。つい声をかけた。
「どこまで行くの?」
青年は少し驚いたようにこちらを見たが、すぐに表情を和らげた。
「宮城の…蔵王まで。紅葉見たくて、キャンプもできれば」
思わず笑ってしまった。
「お、奇遇だな。俺も蔵王方面に向かってんだよ。ソロだけど、よければ一緒にどうだ?」
彼は少し考えてから、こくりと頷いた。
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道中、しばらくタンデム走行のように後ろにつかれながら、信号待ちでちらほら話をする。
聞けば名前は村瀬隼人。宇都宮出身の大学生で、今は秋休み中らしい。兄の影響でバイクに乗り始め、GSX250Rも兄のお下がりだという。
途中のコンビニで休憩した時、彼がスマホを取り出して困ったような顔をしていた。
「バッテリー切れそうです。ナビ使えなくなると怖いなあ」
「モバイルバッテリーあるけど、Type-Cで大丈夫か?」
「マジっすか。助かります!」
荷物から取り出して貸すと、彼は深々と頭を下げた。若いのに礼儀正しいな、とちょっと感心する。
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そのまま国道を北上し、宮城に入る。
午後4時過ぎ、遠刈田温泉の手前で日が傾き始めていた。
「温泉、入ってきますか?」
と隼人が言う。いい提案だ。
共同浴場「神の湯」へ向かい、バイクを止めて入浴料を払う。中は昔ながらの浴場で、木の壁と石の湯船が風情を感じさせた。
「うわ、ちょっと熱いっすね…!」
「これが“とおがった”湯の洗礼だよ」
二人で苦笑しながら湯に浸かる。
温泉を出た後、脱衣所でふと彼がつぶやいた。
「こうして誰かと旅するのって初めてです」
「俺も最近までは完全ソロだったよ。たまには、こういうのも悪くないだろ?」
隼人は濡れた髪をタオルで拭きながら、嬉しそうに頷いた。
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外はすっかり夕暮れ。
温泉街の商店でビールと食材を調達し、今夜のキャンプ場に向かうことにした。
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